13歳の新星・玉井陸斗の登場で注目を浴びる飛び込みが面白い【東京五輪の現場から④】

54年ぶりに東京に五輪が戻ってくる2020年。本連載では、オリンピック担当として東京五輪に向けた取材を続けるスポーツニッポン・木本新也記者が現場の生の声を届ける。メダルを目指す選手のスペシャルな思考や、大会開催の舞台裏とは――。第4回は、東京五輪出場を目指す玉井陸斗(13=JSS宝塚) が盛り上げる高飛び込みについて 。

13歳とは思えぬストイックさ

あの少年は何者ですか?

最近、この質問を受けることが多い。シックスパックの腹筋と、つぶらな瞳がチャームポイントの13歳です、と応じるようにしている。

男子高飛び込みで東京五輪出場を目指す玉井陸斗が今月5~9日に開催された国際大会派遣選手選考会で1位となった。4月のワールドカップ東京大会で準決勝進出ラインの18位以内に入れば、五輪切符を獲得する。13歳10カ月で迎える東京五輪に出場すれば、1932年ロサンゼルス五輪の競泳北村久寿雄(14歳10カ月)を抜く日本男子最年少記録となる。

シニアデビュー戦となった昨年4月の日本室内選手権で優勝。一躍、注目を集めたが、年齢制限で昨夏の世界選手権(韓国・光州)代表にはなれなかった。身長1m47cm、体重41.5kg。ジャンプ力と回転力が飛び抜けており、高難度の109C(前宙返り4回転半抱え型)を初挑戦で成功させた逸話もある。この1年間で身長は約4cm、体重は約5kg増えたが、計画的に筋力トレーニングを積んできた成果で、ジャンプ力、回転力は落ちていない。

13歳とは思えないほど意識は高い。体重が増え過ぎないように炭水化物を減らすなど食事を調整。空腹対策として午後9時には就寝する。ケガ防止のために自転車に乗らず、体育の授業の球技は見学。最近は趣味のゲームもせずに練習に打ち込んでおり「身長はまだ伸びてほしいけど、東京五輪までは伸びなくていいです」と殊勝に語っている。

実はタレント揃いの飛び込み界

玉井少年の出現で、注目度が高まりつつある飛び込みだが、トップ選手のタレントは粒ぞろいだ。大ベテランの寺内健(39=ミキハウス)は言わずと知れたレジェンド。個人と、坂井丞(27=ミキハウス)とペアを組むシンクロの板飛び込み2種目で、夏季大会で日本人最多タイとなる6度目の五輪出場を決めている。2016年リオデジャネイロ五輪代表の板橋美波(20=JSS宝塚)は網膜剝離や疲労骨折の手術を乗り越え、シンクロ高飛び込みで2大会連続五輪を目指している。

あねご肌の榎本遼(23=栃木DF)が、涙もろい宮本葉月(19=近大)を引っ張るシンクロ板飛び込みペアの取材中の掛け合いは実に微笑ましい。勝負所で致命的なミスを犯しがちな板飛び込みの須山晴貴(21=島根大)は大学を休学して競技に打ち込み〝やらかし癖〟を克服しつつある。高飛び込みで女子のエース格に成長した荒井祭里(19=JSS宝塚)、右肩故障の影響もあり東京五輪での3世代五輪出場の夢を絶たれた金戸凜(17=セントラルスポーツ)ら個性的な選手が目白押しだ。

五輪の飛び込み競技には、10mの台から飛び込む高飛び込み、3mのしなる板から飛び込む板飛び込みがある。それぞれ個人と、2人で一緒に飛び込むシンクロがあり、男女各4種目。男子は6本、女子は5本の試技の合計点で争う。高飛び込みのジャンプから入水までは、わずか2秒弱。落下スピードは時速50kmに達する。水しぶきを上げずに入水するノースプラッシュが醍醐味。1本のミスで大きく順位が変動するスリリングなスポーツだ。

飛び込みの競技人口はシニアの愛好家も含めて約700人。国際大会派遣選手選考会の女子シンクロ高飛び込みには板橋&荒井ペアの1組しか出場していなかった。競争率が高いとはいえないが、入水の衝撃に耐えうる肉体や、激しく回転しながら水しぶきを上げずに水中に消える技術は、日頃のハードトレーニングのたまもの。故障を抱える選手が多いことも、競技の過酷さを物語っている。

何を隠そう、筆者の飛び込み取材歴は約1年にすぎない。ベテラン記者からは車のナンバーやホテルの部屋番号を見て、5253B(後ろ宙返り2回半1回半捻りエビ型)などの演目を連想するようになれば一人前と言われている。その域にはほど遠いが、世界選手権など最高峰の舞台を通して、美しさ、迫力、緊迫感などの魅力を体感した。マイナー競技と侮るなかれ。張り詰めた空気の中で繰り広げられる戦いは〝にわか〟でも楽しめるエンターテインメント制に満ちている。

Text=木本新也