【ベンチャーvs大企業】巨象を撃つためにモバイルアプリの活用データを武器にせよ!

ベンチャー企業の武器は、卓越したアイデアとやり抜く意思、そして独自のテクノロジーだ。それなくしてはあり得ない。しかし、すべてのベンチャー企業が成功を手中に収めるわけではない。成否を分かつのはデータだ。データによっていかにマーケットをつかむか。「それにかかっている」というのは、世界15カ所に拠点を持ち、モバイルアプリの利用に関する統計データや分析レポートなどをグローバルで提供するApp Annie Japanの日本代表ディレクター、滝澤琢人氏だ。


日本人のモバイルアプリの平均利用時間は1日約3時間

大企業が存在感を示すレッドオーシャンに、潤沢とは言えない経営資源で挑むベンチャー企業は、巨象に挑む小さな獣、いやアリかもしれない。レッドオーシャンでガチンコ勝負するのでなければ、新たなマーケットを創出し、ブルーオーシャン戦略でいくしかない。だが、それまで存在しなかったマーケットに、既存のマーケットの顧客を奪い取るのも容易ではない。苦心してマーケットを育てたところに大手が乗り込んできて、まんまとかっさらわれる可能性も大いにある。

では、ベンチャー企業は、十分な資本を持つ巨象をどうやって撃破すればいいのか。その武器が「モバイルアプリ」であり、「モバイルアプリの活用データ」だという。

「日本人の1日におけるモバイルアプリの平均利用時間は約3時間と、非常に多くの人が、時間をモバイルアプリに消費しています。現状はゲームでの利用が大半ですが、飲食や旅行、メディアなどの活用時間が徐々に増えています。人々は、モバイルを中心に生活スタイルを変えてきているのです」

こう語るのは、App Annie Japan日本代表ディレクターの滝澤琢人氏だ。今やモバイルアプリは、消費者の行動を大きく左右する存在になっている。このことは、大企業を含め周知の事実であり、多くの企業が拡大を続けるECへの対応や新たな成長チャネルの開拓を中心に、成長への欠かせない要素として取り組んでいる。

滝澤氏はまた、「時間の消費という観点で見ると、メディア業界においてモバイルアプリの台頭はインパクトが大きく、かつてテレビに割いていた時間はパソコンに取って代わり、それが今はスマートフォンなどのモバイルへと移行しています。そこで大きな鍵を握っているのがモバイルアプリです。テレビ業界は今、テレビの前に座っていない消費者の時間をどうやったら獲得できるかを考え、モバイルでも見られるオンデマンド配信に取り組み、マスメディアではカバーできなかったニッチな趣味のコンテンツに力を入れ始めています」と既存メディアがモバイルアプリで消費者を取り返そうとする現状を語る。

また、旅行業界でもモバイルアプリの活用が広がっている。

「旅行業界はホスピタリティーが生命線です。そのため『顧客体験』が大きなテーマになっています。お客さんの体験価値を最大化するために、企業はモバイルアプリに投資しています。例えば、チェックイン・アウトなど滞在期間中の連絡がアプリ上で手軽にできる仕組みになっていたり、アプリ上で支払いできたりするところもあります」

滝澤氏は、ITやエンタメ系のゲームのベンチャーを複数立ち上げた経歴を持つが、「アプリをつくっていたが、どれも鳴かず飛ばす。結構な数をダウンロードされたこともありましたが、それが収益につながっているのかは不明でした」と、当時の経験を振り返る。

多くの大企業がモバイルアプリを生かせていない

では、なぜベンチャー企業にとって、モバイルアプリが大企業に迫り、撃破する武器となり得るのか。それは、モバイルアプリの活用がマーケットをつかむ大きな要因でありながら、大企業をはじめ多くの企業が取り組みに苦慮している現状があると滝澤氏は見ている。

「考えることは皆同じで、次々にモバイルアプリがリリースされた結果、競争は激化する一方です。そのため、多くの企業が『使われない』『ダウンロードすらしてもらえない』『収益につながらない』など、表面的な課題を抱えています。ここに潜む本質的な課題は『消費者心理の理解不足』です。多くの企業がリリースする側の視点でしかマーケットを見ていないため、『ユーザーがなぜそのアプリをダウンロードして使い続ける必要があるのか』に対する理解が及んでいないのです。企業が実現したいことと消費者が求めていることがマッチしていないわけです」

もう一つの武器「モバイルアプリの活用データ」

消費者のニーズにマッチしたモバイルアプリを設計することと並んで滝澤氏が重要視するのが、「モバイルアプリの活用データ」分析だ。

「アイデアからビジネスの芽を導き出す段階では分からないことだらけです。そんなステージでは、仮説を立てて検証しながら進めることが欠かせません。ところが世の中にはさまざまな情報があふれ、どの情報が何を語っているのかを見抜くのは簡単ではありません。例えば一つの情報から読み取れるのは大きなトレンドか、それともすぐに終わってしまいそうな小さなトレンドなのか……。一つの情報は点でしかありませんから、そこから流れをつかむのはなかなか容易ではありません。また、まったく意味をなさないノイズも多く含まれています。ノイズを排除し、断片的な情報からトレンドをくみ取るには何らかの視点が必要なのです。それがデータです」

滝澤氏は、ここに大企業に迫るチャンスがあるという。

「ベンチャー企業の身上は『意思決定のスピードの速さ』です。仮説から実行までのサイクル(PDCA)を短くすることで、大企業より先に正解にたどりつくことができます。その仮説の精度を高めるファクターこそがデータなのです。データは羅針盤(GPS)のようなものです。クルマ(商品やサービス、技術)があり、運転手たる起業家がいる。そしてGPSがあれば、最短距離でゴールを狙えるのです」

成長につながるアプリ開発の第一歩は?

ビジネスを可視化し、マーケット戦略立案する上で欠かせないデータ。ではそれをモバイルアプリ開発に、どう生かしていけばよいのだろうか。

「まずは、消費者を理解するために、人気の高いサービスに着目するのがよいでしょう。それも一時的な人気ではなく、年単位で利用が伸びてきている息の長いものを探します。それで『なぜ伸びているのか?』『収益やユーザー数は?』『ユーザーの利用時間は?』といったことを、データを基に調べ、生活者の視点で考えてみるのがポイントです。そこから気付きが生まれ、次の仮説が見えてきます。この仮説が、アプリを開発する上での、考え方や判断の軸になります」

仮説は、一度定めたら終わりではない。常に最新のデータを基に検証を繰り返し、アップデートしていく必要があるという。個人の勘や過去の成功体験にとらわれることなく、こうした客観的かつ定量的な数値をベースに仮説検証のPDCAサイクルを回していくことが、顧客が本当に求めているアプリの発見につながっていく。

グローバル展開にもアプリの活用データが役立つ

ベンチャー企業の中には、海外マーケットへの進出を考えているところも多いだろう。これまでは資本や人材に恵まれた大手企業でなければ難しかったが、そうしたハードルもモバイルアプリなら乗り越えやすい。滝澤氏は、その際の重要なチェックポイントとして「国内と同じアプローチで大丈夫か?」を挙げる。国内である程度の実績を持っていると、そのまま行けるのでは? と考えてしまいがちだが、そう甘くはない。

「日本で売れた商品でも、海外の人々にとっての価値は異なります。そこで、別のマーケットを同じ軸で比較することが非常に重要になります。製品に対するニーズや評価を同じ項目で比較することで、日本と展開先の違いを定量的に評価できるのです。その結果を基に、これまでの自社の強みが海外でも通用するかどうか、逆に、日本では着目されなかった強みが利用できるかといった検討が可能になります」

ベンチャー企業にとって、モバイルアプリとその活用データが、大企業を撃破する決め手になりつつある。

Takuto Takizawa
App Annie Japan 日本代表ディレクター 1996年に起業し、ウェブプロダクション、データセンター、EC、オンラインゲームの運営、パブリッシング事業など、B2B、B2C、IT・デジタルメディア分野などで事業創出を経験。2014年にApp Annieに入社し、同年、日本カントリーディレクターに就任。
https://www.appannie.com/jp/