インテリアデザイナー 片山正通 理不尽な世の中を乗り越える力~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

武蔵野美術大学の教授となり早7年。教える立場でありながらも、自分自身も常に新しい授業に挑む姿勢は、片山正通氏の仕事への思いに通じる。世界中から引っ張りだこな、その空間づくりの軸となる"日々の学び"を滝川クリステルさんにインタビューして頂きました。

すべての経験が糧になる仕事は一番面白い遊び

滝川 今日は片山さん率いるワンダーウォールのオフィスにお邪魔しています。現代アート、骨董、家具、写真、洋書、CDなどなど、多彩なアイテムのコレクターとしても知られる片山さん。オフィスの階段室まわりもまるでギャラリーですね。

片山 アートはモノの見方や考え方を教えてくれる先生のような存在です。可能性の最先端ですから、美しく心地よいものばかりではなく、むしろ問いかけてくる作品が多い。そんな切っ先と向き合い、より多くの人へ届くようまとめるのがデザインの仕事だと思うので、気になったものはなるべく買うようにしているんです。でも春に「片山正通的百科全書 Life is hard... Let's go shopping.」という展覧会をやらせてもらって、500点以上の所蔵アイテムを客観的に眺めた時は、我ながら節操がないなあと思いました(笑)。

左:片山正通 右:滝川クリステル「ご自身が設計・デザインした事務所を熱心に案内してくださいました」。 ワンピース¥82,000(スポーツマックス/マックスマーラジャパン TEL:03-5467-3700)、ピアススタイリスト私物、靴本人私物

滝川 すべてがアイデアのヒントになっているんでしょうね。先日うかがった鎌倉のバー「THE BANK」も、昭和2年に建てられた建築を活かした素敵な空間でした。ワンダーウォールが運営しているとは知らず、アリスと海で遊んだ帰りに立ち寄ったら、偶然、片山さんがいらして。

片山 秋口なのに「泳いできた」と聞いて耳を疑いました(笑)。

滝川 意外とアクティブなんです(笑)。THE BANKは鎌倉銀行として使われていた建物を、先代のオーナーである故・渡邊かをるさんが改装し、2000年にオープンしたバーでした。そのインテリアデザインを担当したのは片山さんだったんですね。

オフィスは、ユニークなアイテムの宝庫 デザインを検証し、ゴールとなるビジョンをクライアントと共有するため、ワンダーウォールでは必ず、完成形の数十分の一サイズとなる「模型」をつくる。ふたりが手にするのは、模型で使われるミニチュア家具。色や素材感が忠実に表現されており、模型の空間全体がこの精巧さで作成される。

片山 はい、ワンダーウォールとして初めて受けた案件でした。かをるさんは伝説のアートディレクターでありながら骨董店も運営されていて、陶磁器、家具にも造詣が深い方。僕は20代の頃から公私ともに目をかけてもらって、非常に影響を受けています。特にTHE BANKは思い入れが深いですね。かをるさんからの指示は「アイリッシュのパブとイタリアのバールと日本のあの頃の感じな!」とひと言だけ。内装に使う色も、普通は「色見本の何番」というように指定があるんですが、かをるさんは古い雑誌の切り抜きを指して、「この色」と。最初は戸惑いましたが、規格にはないフィーリングを読みとることを、とても鍛えられました。

ワンダーウォールの階段室まわりに展示されたアイテムに、興味津々の滝川さん。

コンセプト自体をデザインする感覚が強い

滝川 THE BANKは渡邊さんの急逝により一度閉店。でも昨年秋にワンダーウォールが運営を継ぐ形で再オープンとなりました。

片山 畑違いで手探りながら、やっと1年経ちましたね。大家さんや地元の方の温情に支えられながらの復活なので、街の灯として細くとも長く続けていけたらいいなと。場に寄せられた想いや歴史は、人工的につくれるものではありませんから。

滝川 今回改めて片山さんの今までのお仕事を見せていただいたんですが、案件によってガラッと雰囲気が変わりますね。

片山 自分自身、人格はひとつではなく、いろんな側面があると思います。数千万円のアート作品と100円のゴム人形、どちらにも同じように愛着があるように、ストライクゾーンは広いほうなのかなと。それにブランドが違えば、コンセプトも違う。デザインする時はいつもコンセプトを考えるので、ひとつひとつが違うのは自然のなりゆきだと思います。特にユニクロNY旗艦店以降、コンセプトは重要だと改めて思って、コンセプト自体をデザインする感覚が強くなりました。

滝川 ユニクロは、パリやロンドンの旗艦店も手がけられていましたよね。

片山 ショップのデザインマニュアルの作成含め、2006年から2015年までの世界中のグローバル旗艦店プロジェクトをご一緒させていただきました。時には、「もうワンフロア借りないと世界観がきちんと作れない」と、柳井さんに何度もプレゼンに行ったこともあります。

滝川 そこまで! 熱いですね。

片山 いいものをつくるためには、クライアントの意向にもノーと言わなければいけない時があります。僕の仕事は社長を喜ばせることではなくプロジェクトを成功させることですから。

滝川 でも簡単なことではないでしょう?

片山 もともとの性格もありますが、思ったことをきちんと伝えるのが仕事だと思うんですよね。それに、最近は海外案件も多いので、自分の意見をきちんと伝える重要性をより強く実感しています。僕らはデザインという世界共通の言語を持っているし、海外まで間口を広げることはより多くのチャンスに出会うことにもつながるので、学生達にいつも、「日本だけではなく海外にも目を向けようぜ」と言っているんですよ。

滝川 片山さんが教授を務める武蔵野美術大学空間演出デザイン学科では、どんな授業をされているんですか?

片山 ワンダーウォールでの普段の仕事をそのまま疑似体験させるような、実践的な授業が中心です。でも空間をつくる仕事って実はかなり広義なのかなと。アートも音楽も器も映画も、すべて空間を形づくるもの。インテリアに限らず別のジャンルに進むことも十分ありだと思っていて。多くの可能性を見せることが僕の役割だと思うので、一緒に美術館へ行ったり映画を観たりもします。

滝川 いいですね。楽しそう。

ムサビ不定期開催の特別講義「instigator」とは?

ムサビ不定期開催の特別講義「instigator」 時代を牽引(けんいん)する「instigator(扇動者)」であるアーティストやトップクリエーターを招き、彼ら・彼女らの学生時代や下積みの苦労、現在の仕事の裏話、未来の構想までを聞いていく。企画から音響、照明、小物など空間のすべてを片山氏が完全プロデュースし、500人収容の大講義室が白熱のライブ会場に変わる。質疑応答では美大ならではのユニークな質問が飛び出すことも。 http://instigator.jp/

片山 アーティストやクリエーターをお招きしたトークショー形式の特別講義「instigator」も不定期開催しています。スーパースターの話を直に聞き、「若い頃はみんな同じように悩んだり努力したりしている」と肌で感じることで、励みになればいいなと。僕は大学に行っていないので、どう教えるべきか本当に悩んだんです。自分だったらどんな授業を受けたいかを考えながらやってきて、今でも、僕自身が学び直している気持ちです。

滝川 そんな贅沢な授業を受けた学生たちがどう才能を開花させていくのか、楽しみです。

片山 欲を言えば、若いうちにもっと積極的に挑戦して、失敗や悔しい思いをどんどん経験してほしいですね。僕も、最初に勤めたデザイン事務所で朝から晩まで上司にいろんなことを言われ、毎日クタクタでつらかった。だから一日も早く下積みを卒業したくて必死で勉強したり、独立しても全然仕事がなくて、しばらく大変不安な日々を過ごしました。大家さんに相談して家賃を下げてもらったこともありました。でも振り返ると、どの経験も仕事の糧になっているんです。

滝川 社会を生き抜く力そのものですね。

片山 そう、そもそも世の中って理不尽じゃないですか。がんばった分、評価されるとは限らない。それでも好きなことをやり続けるには、社会の荒波に揉まれながらも乗り越える力が必要です。もっとも僕はデザインが好きで、一番面白い遊びだと思っています。だから妥協できないし、大変なことがあってもやっぱり楽しい。常に新しい自分にアップデートを続けながら、好きなことを仕事にする喜びやクリエイションの持つ可能性をもっと伝えていきたいです。


Christel's Times Monthly Column

今回は片山さんとのお話から連想した思い出話を。昔フランスに住んでいた頃、両親は趣味で和洋の骨董集めをしていました。毎週末、がらくた市のようなアンティークショップ巡りをしては、買ったアイテムを囲んで家族で会話をすることもしばしば。宝探しのように掘り出し物を見つけて、親に喜んでもらうのが嬉しかったのをよく覚えています。プレゼントしたランプ等は今も実家に並んでいますよ。美術品が好きなのは、そんな幼少期の経験も関係あるのかもしれません。

Masamichi Katayama
1966年岡山県生まれ。2000年にワンダーウォール設立。11年より武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。PIERRE HERMÉ PARIS AoyamaやINTERSECT BY LEXUSを始め、18年にオープン予定の外務省のプロジェクト JAPAN HOUSE(ロンドン)などのインテリアデザインを手がける。
http://wonder-wall.com
@masamichi_katayama

Text=藤崎美穂 Photograph=田邊 剛 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=野田智子

*本記事の内容は17年11月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)

滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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