原寸大のままで成長する「ほぼ日」糸井氏 滝川クリステル いま、一番気になる仕事

68歳にして「ほぼ日」の上場を果たした糸井氏は、相変わらず肩の力が抜けている。屋台骨ともいえる、ほぼ日手帳2017年版の販売部数は64万部に迫る勢いで磐石(ばんじゃく)だ。常に生活のなかに楽しみを見つけ、共感の輪を広げるという気持ちいい仕事のあり方に迫る。

無力感は必ずあるからできることに目を向ける

滝川 まずはジャスダック新規上場、おめでとうございます。お花がずらりと並んでいますが、驚いた方も多かったようですね。

糸井 どうも個人でカジュアルにやっているイメージが強かったみたいです。個人事務所を法人化したのが2002年なので、社長業自体はもう15年近くになるんですけど。もっとも最初の頃は、社員に「子供ができました」と報告されて、責任が増すことにゾッとしたりもしていました。そんなんじゃ、ダメですよね。それから少しずつ、「人に喜んでもらうように生きるには、自分の力をつけなきゃ」って、責任や信頼について、考えてきた気がします。

左:滝川クリステル、右:ほぼ日 代表取締役 ほぼ日刊イトイ新聞 主宰 糸井重里 [滝川さん]ドレス¥37,000(FLICKA/フリッカインターナショナルTEL:03-6712-6280)、ピアス¥31,000、リング¥17,000(ともにイオッセリアーニ/アッシュ・ペー・フランス TEL:03-5778-2022)

滝川 事業内容としてはメディア、物販、店舗運営がメインで、現在売上の7割を「ほぼ日手帳」が占めているとか。私も使わせてもらっています。

糸井 ほんとですか、ありがとうございます。みんな喜びます。たくさんの人が手帳を使ってくれていることに本当に感謝しつつ、それ以外のところでもがんばろうって、今は健康的なバランスでやれていると思います。

滝川 逆に不健康なバランスって、どういうものですか?

糸井 できもしないってわかっているのにホラを吹いて支持を集めるような、成長促進ホルモンを打つみたいなやり方でしょうか。広告をやっている時、「言葉の魔術師」とかお世辞のように言われましたけど、広告の世界から自分で決裁できる世界に来た今、実物以上のうまいことを言う人だと思われるのは非常に困ります。だから社員にコピーの勉強はさせていないし、扱う商品のバナーコピーもいたってシンプル。「○○を特典つきで販売します」とか。原寸大そのまんま、です。

滝川 実力があるものは、大きく見せる必要はないと。

糸井 上場にしても「○倍の成長を約束します」みたいな宣言をして、実現した人が偉いっていう風潮はちょっとおかしいと思うんですよね。何年かして振り返った時、少し背丈が伸びてるような、そんな成長でいいと思っていて。お金は必要だけど、目的じゃない。どんな面白いことをできるか眼目(がんもく)です。特にオリンピックがこれから来ますよね。2020年以降はたくさんの施設が使われなくなって、たぶん新しいことを始めやすくなる。そこをイメージしつつ、いろんなことをしていけたらと考えてます。

滝川 ロンドンオリンピックも評価が高かったですよね。ご覧になって、どう感じました?

糸井 コンテンツの質を問い合える文化圏なのは羨ましいですね。日本はまだお題目ありきで、型にコンテンツを埋めていくやり方でしょう。でもシナリオから外れないようバランスを取るよりも「とにかく全力でやりました!」っていうパワーのほうが、人を惹きつけます。面白いことって、肯定感からしか始まらない。だからできる人はどんどん走っていって、後ろ姿で見本を見せるのがいいんじゃないかと。僕もルールをつくるより、走りやすい状況の整備を大切にしたいと思うほうです。わりと、モデル主義なんです。

滝川 糸井さんご自身は、走り続けるために、何か意識されていることはありますか?

糸井 何もしてないです。あ、ぶくぶくしてた頃の写真はデスクトップに貼ってます、自分への戒(いましめ)として。体重も朝晩毎日、冬でもパンイチで測ってます。

滝川 パンイチ。それは長い習慣なんですか?

糸井 7年目かな。出張先でも、風邪でも、1日2回はパンイチ。パンイチにならないと落ち着かない。あとは何だろう、犬の散歩くらいかな。

滝川 糸井さんとは犬の話もホントはしたくて。でもそればかりになってしまいそうで(笑)。

糸井 うちのブイヨンは今、手術明けでカラーをつけていて、ちょっとご機嫌斜めです。何かしらいつもトピックがあるから、話は尽きないですよね。

滝川 犬といえばほぼ日初のアプリ「ドコノコ」がリリースされてもうすぐ1年です。地域で見かける野良猫も含めて住民登録ができる、迷子情報も共有できる点が、とても斬新でした。

犬や猫と人が親しくなるためのアプリ ほぼ日が2016年6月にリリースした、"すべての犬と猫を愛する人のためのSNSアプリ"「ドコノコ」。名前と地域を登録すると、個別のアルバムを作成して写真を投稿できるほか、災害時の避難場所の確認や迷子情報の登録などもできる、いわば犬猫住民票的な機能も。「ウチノコ」だけでなく、旅先で出会ったコや近隣の野良猫なども投稿可能。ドコノコも身近に感じられるつくりで犬猫を飼えないユーザーにも人気を博す。「犬や猫のことで糸井さんと何かコラボレーションができたら」(滝川)

糸井 結構長いこと、ツイッターで迷子情報をリツイートしてくださいっていう依頼が多くて、一覧表をつくって管理していたんです。それがすごく大変で。あと迷子情報って、気にはなっても、当事者以外はそこまで一日中、考えないじゃないですか。考えないことに対して罪悪感を感じると、人は大きな声を出したくなるんです。でも東京でいなくなった猫について仮に九州で「大変だ、大変だ」って騒いでも、解決には結びつかない。本当に探せる近所の人が協力しやすい体制をつくりたいと思ったのがきっかけでした。

滝川 ほぼ日さんのサービスって、みんなが参加しやすいアイデアが多いですよね。

糸井 喜んでくれる人がひとりでも増えるといいな、って思いながらやってますね。気仙沼に行くこともあるんですけど、帰りの新幹線で泣きたくなるんです。僕らができることって限られていて。これはできたけれどあれはできなかったと、すぐ足りないことに気づいてしまう。でもその無力感を表に出しても意味がないから、できていることやできることに目を向けるよう、日々訓練しているような。

滝川 私もアニマルウェルフェアに則(のっと)った、犬猫の殺処分ゼロや野生動物の生態系を守る活動を財団でしているんですが、なかなか割り切れなくて......。自分で自分の首を絞めているところがあります。

糸井 知れば知るほど悲しいことも増えるし、できないことばっかりですよね。でも知ることで解決策が見つかることもあるから、無力感に流されて自分の力が削がれるようなことになっちゃいけない。そのために必要なのが知性なのかなと思うようにしていますけど、なかなかね。ずっとつきまといますよね。

滝川 今は継続が大切だと思うようにしています。ほぼ日は約19年、毎日更新されているんですよね。本当にすごいこと。

糸井 いつやめても、たいしたことにならないと思ってるからでしょう。僕は5月に1カ月お休みをしようと思ってるんです。

滝川 え、そうなんですか。

糸井 そうなんです。ヒッチハイクとかしたいと思ってます。

アマチュアのように楽しそうに、かつ本職以上の結果を目指す

滝川 釣りも?

糸井 釣りはねえ、一番楽しいって言いながら最近してないんですよね。滝川さんは釣りは?

滝川 以前サメとか、ネズミを咥(くわ)えた肉食の魚とか、目の飛び出た深海魚とか釣っちゃったのがトラウマで、今はちょっと。

糸井 それはすごい(笑)。斜めにお辞儀をするエレガントな人、っていうイメージがちょっと変わりました(笑)。

滝川 わりとアクティブなんです(笑)。糸井さんも多彩な活動をされている分、いろんなイメージを持たれそうですね。

糸井 むしろ偏らないように意識している部分も大きいです。本職を決めるとどうしても定石(じょうせき)で進める時間が長くなるじゃないですか。セオリーはもちろん大事なんだけど、僕は常にそれ以外のところも見つけていきたいから。アマチュアのように楽しそうに、かつ本職以上の結果を目指していけたらと、そんなことを考えながら、この先もやっていくんでしょうね。


Shigesato Itoi
1948年群馬県生まれ。ほぼ日 代表取締役。ほぼ日刊イトイ新聞 主宰。コピーライター、エッセイ執筆のほか、作詞、ゲーム制作など多彩な分野で活躍。98年6月6日「ほぼ日刊イトイ新聞」創刊。
http:www.1101.com/home.html
@itoi_shigesato


Text=藤崎美穂 Photograph=中田陽子 Styling=吉永 希(滝川氏) Hair & Make-up=野田智子(滝川氏)

*本記事の内容は17年4月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)

滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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