プロフットボーラー久保裕也「春だからこそポジティブに」BORDERLESS STRIKER 第5回

世代交代が進むサッカー日本代表において、24歳、久保裕也は間違いなくキーパーソンに挙げられるだろう。5年前から単身海を渡り、周囲に日本人がほぼ誰もいないスイス、ベルギーで武者修行を続ける道を自ら選択。なぜ、この男はあえて厳しい環境に身を置くのか。なぜ、この男は国境に捉われることなく成長を求める道を歩むのか。6月に開幕するロシアW杯を前に、苦悩し、進化し続けている若きストライカーが、その知られざる思いを「ゲーテ」だけに綴る連載エッセイ。

「なかなか勝利に恵まれないチーム状態は、僕にとってチャンスでもあった」

ヘントに遅い春がやってきた。1週間前までは、コートが必要なくらい肌寒かったのに、わずか数日で半袖でも心地よいほどの陽気。冬の間は寒いのはもちろん、ずっと薄暗い曇天が続いていただけに、街には一気に人が溢れ、日本の花見のようにみんなで集まって公園や川沿いでビールやワインを楽しんでいる。春がうれしいのは、サッカー選手も同じだ。チーム練習のときは、みんな日焼けをしようと上半身裸になって、グラウンドを走り回っている。

そんななか、ベルギーの国内リーグは最終盤の佳境を向かえている。僕が所属するKAAヘントも現在プレーオフの真っ只中。優勝するためには、残り5試合を全勝が条件という厳しい戦いが続いている。3月に僕が日本代表に合流し、チームを離れている間に試したフォーメーションがうまくハマったため、先発を外れることが多く、ベンチで出番を待っている状態も長かった。

ケガをしているわけではない。調子が悪いわけでもない。ただチームの戦術においては、僕より優先される選手がいたというだけだ。もちろん悔しいし、試合には出たい。出れば、自分なりの爪痕を残す自信もあった。でも出場選手を決めるのは監督の仕事だ。選手としては、それを受け入れ、準備をし続けるしかない。以前は、試合に出られないと落ち込むこともあったが、1年間で約40試合、そのすべての試合で90分間フル出場し、さらに結果を出し続けるのは難しい。最近は「いいときがあれば、悪いときもある」と考え、余裕を持てるようになってきた。

そんなポジティブな気持ちで待ち続けていたら、6試合ぶりの先発となった試合でゴールを決めることができた。残念ながら試合には敗れたが、僕としては改めて前を向けるいい機会になった。もちろんチームは勝ってほしいし、優勝もしたい。ただ正直にいうと、自分がレギュラーではないチームが優勝しても、素直には喜べないだろう。なかなか勝利に恵まれないチーム状態は、僕にとってチャンスでもあった。また巡ってくるであろう先発の機会で、ふたたび結果を出せるように最大限の努力をし続けるしかない。

先発出場するか、交代に備えるかでは、コンディションの作り方も異なる。僕の場合、先発で出続けているときは、試合の前日には炭水化物をたくさん摂取して、90分間走り抜けられるエネルギーを蓄えるようにする。しかし控えとなって、出場時間が短くなると、摂取したエネルギーが過剰となってしまうため、体重が増えてしまう。そこで現在は、炭水化物を控えめにし、肉と野菜をたくさん食べる“サブメニュー”でコンディションを維持するようにしている。僕は、米、パン、うどん、パスタなど炭水化物が好物なのだが、一方で太りやすい体質でもある。だがシーズンも残りわずか。ここからのパフォーマンスは、自分の未来を左右する可能性が大きい。我慢の時期と思って、節制し続けるしかない。

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ワールドカップも目の前まで迫っている。そのための結果もほしいのも事実だ。だが、いま僕はチームを優勝に導くことに集中していて、ワールドカップのことはほとんど考えられない。ちなみにKAAヘントには、ナイジェリア、チュニジア、クロアチアなど各国の代表候補選手が6人いる。彼らは顔を合わせればワールドカップの話題ばかりだ。そのうちの1人に「日本は監督が変わったんだって?」ときかれたが、「そうらしいけど、これからどうなるかオレにはよくわからない」と答えるしかなかった。

自分ではどうすることもできず、予想もできない未来のことを考えてもしかたがない。いまは目の前のことだけを見て、サッカーに打ち込むだけだ。そうすれば、いずれ道は開けるだろう。こんなふうにポジティブに考えられるのも、春の陽気のおかげのような気がする。降り注ぐ陽光を楽しみつつ、感謝したい。

第6回に続く


第1回「ハングリーな環境で強くなりたい」
第2回「オフの時間の過ごし方」
第3回「マリ戦、ウクライナ戦を振り返って」
第4回「監督が誰であったとしても」
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Composition=川上康介


久保裕也
久保裕也
1993年山口県生まれの24歳。京都サンガF.C.のU-18に在籍していた2010、'11年と2種登録でトップチームに登録され、チームに帯同。高校3年だった'11年はJ2で10得点と活躍した。19歳だった2013年6月に単身欧州に渡り、スイス1部スーパーリーグのBSCヤングボーイズに移籍。昨年1月からはベルギー1部、ジュピラー・プロ・リーグのKAAヘントに所属し、移籍後7試合5ゴールの活躍でチームを上位プレーオフ進出に導いた。日本代表は、高校生だった'12年のキリンチャレンジカップでA代表初選出。昨年W杯最終予選では2試合連続ゴールを決めるなど、日本の本選出場に貢献した。
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