「24時間仕事バカ!」のためのメンタルメンテナンス 第6回 今、世間を騒がせる“新型鬱病”の実態

わかっているようで実はわかっていない自身の心の健康具合。そこでメンタルの実態を精神科の名医がチェック。心を整えれば仕事にも、加齢による身体の衰えにも効くこと間違いなし。 

自ら鬱病を訴える人が増えている  

 精神科をネガティブに捉えず気軽に相談を。そう啓蒙してきましたが、最近はちょっとしたことで自らの病気を訴える患者さんが増えているのも確かです。
 世間でこの頃、騒がれている“新型鬱病”もそのひとつかもしれません。会社に行くとイヤな上司がいて気持ちが沈み、やる気が起きない。けれど休みになるとそうした気分は治まり、楽しく遊べる。病気なのか病気じゃないのか、正直、診断にかなり困ります。

 なぜこうした新型鬱病が増えているのか、その原因は一概になかなか言い切れませんが、核家族化が進んだ現代の人間関係の在り方や、不景気続きで余裕のなくなった社会に原因があるのかもしれません。さらに言えば、以前よりもSSRIという抗鬱薬を始めとする向精神薬の副作用が軽減されてきていて、精神科医じゃなくても処方がしやすくなっている事実も関係がある。つまりそうした薬の知識を多少得た、例えば内科のお医者さんが、あまり深く考えず「元気になる薬を出しておきます」と向精神薬を処方してしまうケースもあるかもしれない。鬱病の対応は早めにという風潮の中で、「軽い鬱病ならウチの薬は副作用も少なく、処方しやすい」と宣伝した製薬会社にも原因の一端はあるのかもしれない。いずれにしろ処方された患者さんにしてみれば「やっぱり私は病気」と思い込んでしまうわけで、本来はそれほど深刻でない人まで結果的に患者さんにしてしまっていると思うのです。

 鬱病に関して言えば何をしても自責の念に苛まれ、自身が病気だと診断されても、そのこと自体を悔やんで申し訳なく思うのが本来。一方で新型鬱病の患者さんは、病気を環境や他者のせいにする。自分から申告してくる人も多く、そこが大きく異なります。患者さんの話をしっかり聞けば、判別は可能なはず。患者さんの増加で一番の問題は、クリニックがパンクしてしまい、きちんと診察を受け、適切な薬を処方しなければならない典型的な鬱病の患者さんがかかりづらくなってしまっている点。そこは留意しなければいけません。ケース・バイ・ケースで対応をする精神科医のスキルが求められているのです。

今月のクリニック No.5 休日は元気ですが、会社に行くと調子が悪くなります……

 先日、NHKで新型鬱病に関するドキュメンタリーが放送されました。再現ドラマの中で新型鬱病と診断されて会社を休んでいる主人公が、自宅でブログを立ち上げ、上司の悪口をバンバン書くという描写がありました。しかし、こうした新型鬱病は典型的な鬱病とは似て非なるものだと私は考えています。会社でコンピュータのキーボードを叩くのも辛く、それは家へ帰ってもまったく同じで、何もやる気が起きない。それが鬱病の典型的な症状。ブログを立ち上げるなんてことできるはずがないのです。

 新型鬱病という呼び名は通称で、正式な病名ではありません。ゆえに私は安易に使うべきではないと思っています。私自身の印象としては、新型鬱病には本来、人格障害と診断されるべき患者さんが多いのではないかと感じています。人格障害にも反社会型、自己愛型、境界型などいろいろありますが、そういう人格障害圏にある人が社会にうまく適応できず、自分が病気だと思って病院に行ったら「鬱状態だ」と診断された。そういう人が多いのではないでしょうか。

 もちろん、よくよく診察してみたら本当に鬱病だったとわかる場合もあるでしょうし、病気は経過で変わっていくものですから、病院へ通っている内に、例えば統合失調症などになってしまうケースもある。しかし、新型鬱病と鬱病はやはり別物と考えるべき。抗不安薬や睡眠薬など、患者さんの訴えに応じて薬を処方する点は変わりませんが、根本が違う。鬱病の実態を正しく伝える意味においても、両者を混同しないことが大切だと思っています。

 今の若い人に多い新型鬱病ですが、原因のひとつにはやはりコミュニケーション能力の低下があるでしょう。上手に意思の疎通が図れていれば、大したことではなかったかもしれないのに、ちょっと負荷をかけるとすぐに「休みます」「辞めます」となってしまう。「最近の若いヤツは」というのは年をとれば誰もが言う常套句ですが、それでも、昔言っていたそれとは質が変わってきている気がします。

 新型鬱病は対処しなければならない現代の社会問題。この場合は外因性がほとんどでしょうから、環境を変えるなどの対策がやはり必要になってきます。そうした患者さんに対してもカウンセリングなどを通じて知恵を絞り、生活を改善に導いていく。それも精神科の仕事です。

case6 新型鬱病
正式な病名ではなく、医師なら診断書に「鬱状態」と記す心の状態を示す。意欲低下や食欲不振など、表面的には従来型の鬱病と同じ症状が現れるが、いつでもどこでも沈んだ気分の続く従来型と異なり、会社など、ある特定の環境にいる場合にのみ症状が現れる点が特徴。多くは人間関係などの外的要因が引き起こす。新型鬱病の増加により予約が何カ月も先まで埋まってしまうクリニックが現れるなど、現場の混乱も生じている。


Kazuhiro Kobayashi
医療法人社団 城西クリニック院長。精神保健指定医。1962年生まれ。北里大学医学部卒業後、同大学病院でヘルスメンタルケア中心の医療に従事。身体疾患と精神面との関わりについて皮膚科、形成外科、婦人科の各専門医と研究を重ね、城西クリニックを開院。精神科医として心身両面からの頭髪治療に力を注ぐ。日本臨床精神神経薬理学会専門医、NPO法人F.M.L.理事。月に5,000人以上が来院する小林一広医師のクリニック詳細はこちら http://www.josaiclinic.com/

Text=田代いたる Photograph=太田隆生
*本記事の内容は12年6月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい