【シリーズ起業】ベンチャーと大企業のオープンイノベーションにまつわる不都合な真実。企業側のホンネは「リスクを背負いたくない」

去る3月7日、新日本有限責任監査法人が主催するサミット「EY新日本企業成長サミット2018」が開催された。この催しは、ベンチャーが成長を加速させるためのヒントを提示することを目的としたものだ。そのなかでオープンイノベーションは、ベンチャーと企業が協業して技術革新を生み出す仕組みとして注目を集める。ただ、一方で課題も指摘されている。今回、名だたる企業から「オープンイノベーションにまつわる不都合な真実」が語られた──。

オープンイノベーションに取り組む企業のホンネ

セッション「オープンイノベーションにまつわる不都合な真実」で、パネリストとして登壇したのは、東急電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 都市生活担当 課長補佐の加藤由将氏(以下、加藤氏)、三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 主事の光村圭一郎氏(以下、光村氏)、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 プリンシパルアナリスト 藤井達人氏(以下、藤井氏)の3名。いずれもオープンイノベーションの推進者として知られる面々だ。モデレーターは、ベンチャー起業家のコミュニティーを運営するプロトスター株式会社代表取締役COOの山口豪志氏が務めた。

昨年、ネット上で企業のオープンイノベーションを「ごっこ」と揶揄する記述が目に付いた。これは、企業のオープンイノベーションがメディアへの露出先行の活動だったり、イベント的な活動だったりと、実際の新規事業の創出やイノベーションにつながっていないことに対するひとつの評価なのだろう。また、「ごっこ」という言葉には、ベンチャー側の‶真剣味”に対して、企業側の真剣味が不足していることへの批判が込められているのかもしれない。

三井不動産の光村氏は、これに対する不都合な真実として「多くの企業がオープンイノベーションをやっています、やりますと言っているが、はっきり言って本気でやっているところはほとんどない」と明言した。新規事業部が立ち上がったとしても、それは社内の変人的な人が属人的にやっているだけであって、本事業部と関係性を持って進めているケースは非常にまれだという。それに対して、オープンイノベーションにしっかり取り組めている会社として氏が挙げたのはKDDIだ。

「KDDIは『KDDI ∞ Labo (ムゲンラボ)』というベンチャーとの共創プログラムに、延べ何百人もの社員を関わらせています。そこで各々が経験したものを各事業部に持ち帰り、協業したり、投資やM&Aしたりした時の受け皿になっています。オープンイノベーションが、本事業部と関係性を持って展開できています」(光村氏)

企業側が属人的な取り組みになりがちなことについては、三菱UFJフィナンシャル・グループの藤井氏は「オープンイノベーションに変人は必要」としつつも、同様の思いを抱いている。

「社内の開発プロジェクトとして、オープンイノベーションを挙げること自体が、まず難しいと思います。これまで、何の取引もないベンチャーといきなり一緒にやりましょうといっても、そこには温度差があります。(企業のオープンイノベーションは、その温度差の)改革でもあるんです。社内の協力者をオープンイノベーションのプログラムに引き入れていくことも難しい。非常に警戒心が強いです。私も引き入れようとしたら『それが実用されたら仕事がなくなる』と断られたことがあります。そういう社内のことを乗り越えられずにオープンイノベーションを始めてしまうと、スタートアップの方がプログラムの中で行き場なくしてしまうことがあると思います」(藤井氏)

そこには、大企業のオープンイノベーション担当者ならではの苦悩がある。大企業の多くの人にとって、スタートアップは「リスク」の面が強いのだ。このことを、東急電鉄の加藤氏は「背負う必要がない」という強い言葉で表す。

「既存ビジネスで利益が出ているし、オペレーションもブラッシュアップされて効率性が上がっているところに、(オープンイノベーションなどで)新しい技術を入れたら、効率が逆に下がってしまいます。3年後、5年後にそれがうまくいっているかどうか分からないのはみんな理解しているが、今うまくいっているのに、そんなリスクを背負う必要はどこにもありません。そこに貴重な時間を割いて営業しても無駄です。なので、私が社内でオープンイノベーションを推進する時は、すぐに新しい技術を入れたいという部署や人に、ぴたっと合致する(ベンチャーの)人を連れていけるかを大事にしています」(加藤氏)

ベンチャーはどのようにオープンイノベーションに臨むべきか

加藤氏のコメントから、ベンチャーは、オープンイノベーションを、すぐに新しい技術を入れたいという部署や人に狙いを定めてアプローチするのがよさそうだ。では、その後の進め方はどうだろうか。3名の返答から、連携する企業側の「ベンチャーに最も期待すること」が見えてくる。

「ビジネスサイドでは、大企業に入ってきていないテクノロジーをしっかりインストールしてほしいと思います。マーケットサイドでは、ベンチャーが持っている、大企業が入手できないディープな情報に対して大きな価値を感じています。結局、大企業にとってオープンイノベーションの本質は、自身がスタートアップ時のような考え方と意思決定行動ができる組織に戻ることだと思っています。一緒にプロジェクトを進める中で、いろいろなやり方があることを社員に気付かせてくれる存在としても期待しています」(加藤氏)

「大企業は、大企業であることから逃れられないもの。私は、イノベーションのジレンマを超えられないということを前提として、オープンイノベーションを設計しています。そんな中でベンチャーに期待することは、大企業が組織として承認できていない新しい市場の可能性を可視化することです。テクノロジーやプロダクトは手段に過ぎず、マーケットの新しい可能性に着眼し、そこでの儲け方を持っているかどうかが一番大事だと思っています」(光村氏)

「金融産業とデジタルデータは親和性が高い。その中で、ベンチャーが圧倒的に強いのはテクノロジーとビジネスモデルのR&Dです。デジタル時代のサービスは、開発プロセスの上流で死ぬほどPOC(Proof Of Concept=コンセプトの実証)をしています。色々な、シーズ(アイデアの種)を埋め、社内外の競合プロジェクトとの競争を勝ち抜いた一握りのサービスが莫大な利益を生み出すという様式美なのですが、そういうR&Dの組織を金融機関は基本的に持っていません。なので、シーズとしてベンチャーのテクノロジーをすごく求めています」(藤井氏)

オープンイノベーションが活発になる一方で、その成果が大きな課題となっている。今回、成果がでない根本的な要因として、両者の“温度差”があることが明らかになった。このギャップを埋めるためには、両者間の相互理解を深めることしかないのだろう。「新日本企業成長サミット2018」は、その貴重な気付きをもたらした。

Text=MGT Special Thanks=新日本有限責任監査法人