なぜランパードだったのか? チェルシーのビジネス統括が語るグローバル戦略<後編>

イングランド、プレミアリーグのビッグクラブ、チェルシーFCが日本で2試合のプレシーズンマッチを行うべく来日。そこでチェルシーFCのコマーシャルディレクターとしてビジネス部門を統括するクリス・タウンゼント氏に、チェルシーFCの現在、未来を聞いた。

前編はこちら

タレント発掘・育成が鍵

ワールドワイドな規模でのファン層の拡大を第一の目標に据えるチェルシーFCは、クラブのレジェンドであるフランク・ランパードを新監督に迎えて2019-20シーズンに向かおうとしている。ただ、このオフには近年のクラブの顔であったエデン・アザールをレアル・マドリードに放出し、世界的なビッグネームはエンゴロ・カンテやダヴィド・ルイスなどに限られ、他のビッグクラブに比べると41歳の青年監督を支えるには戦力的に乏しく見える。

特にアジアでのファン層拡大を狙ったとき、チームの強さとクラブの人気度が直結する。ビッグネームがいればその名前に頼ったマーケティングも簡単だろう。しかし、チェルシーFCはそれとは違う路線に進もうとしている。そうしたクラブの現状を、タウンゼント氏はどう見ているのだろうか。

「チェルシーにとっては大事な点が2つあります。1つは試合に勝つことです。プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、FAカップ、カラバオカップといったすべての大会で優勝を目指すことです。もう1つが先ほどからお伝えしているとおり、世界中でファンを拡大するためにファンと近い関係を築くことが我々にとって大事なことです。ただ、リーグや試合に勝つためには大物で名のある選手が必ずしも必要なわけではなく、監督の下、チームとして一緒にまとまっていく集団をつくることが最も大切です。チームを構成する選手の良さを最大限に引き出せる監督の存在が必要だと考えています」

近年、チェルシーFCの育成部門はヨーロッパで最も成功を遂げているクラブのひとつと言っても過言ではないだろう。この10年でFAユースカップ4連覇、UEFAユースリーグを2連覇など、合計9つのタイトルを獲得している。そこで育ててきた生え抜き選手たちの力で今季のコンペティションを戦うためには、チェルシーFCというクラブを知り尽くしたフランク・ランパードが最適という判断があったのだ。

「ランパードはクラブで長くプレーしてきたということもありますし、アカデミーにもしっかり理解があります。若手との接し方をとても理解し、他の監督と比べてもうまくできる監督だと思っています。特にアカデミーから上がってきた選手をしっかり伸ばして才能を引き出し、勝てるチームをつくっていけると思っています。昨シーズン、プレミア2部のダービーカウンティで監督を務めるなかでも、ランパードはチェルシーからのレンタルでプレーした若手と一緒に仕事をし、信頼関係を築きました。メイソン・マウントがその一例で、今季、彼はランパードと共にチェルシーに戻ってプレーします。他にもハドソン・オドイなどもいます。そうした若手としっかりコミュニケーションが取れる監督としてランパードには期待しています」

欧州のフットボールシーンでは移籍市場のインフレ化が進み、そのサッカーバブルがいつか弾けてしまうのではないかという危機感も生まれている。そのなかで、15年近く前からユース年代のタレント発掘・育成に多額の投資を行ってきたチェルシーFCが進むべき道として、せっかく育ててきた人材を生かそうとする方向は間違っていないだろう。さらに今後は若いタレントもイングランド国内だけでなくアジアからも発掘。もしかしたら第2の久保建英が生まれるかもしれない。

ただ、生え抜き選手を中心とした選手構成で成功し続けてきたクラブはそこまで多くない。それだけ欧州のフットボールシーンでは競争力が求められる。そこに打ち勝つだけのチームをつくりあげ、結果を出せば既存のファンは喜び、ファン層も拡大するだろう。また、勝つことでスポンサーも高い満足度を得ることができる。しかし、それはどのクラブも目指していることでもある。

Licensed by Getty Images

チェルシーFCが今季から踏み出そうとする新たな方向性は、どのような結果を残すだろうか。チェルシーは8月11日、今季のプレミアリーグの開幕戦で「赤い悪魔」マンチェスター・ユナイテッドと闘う。

Chris Townsend
2017年4月、チェルシーFCコマーシャルディレクターに就任。それ以前にはロロンドンオリンピック・パラリンピック委員会でコマーシャルディレクターを務め、大会のために約3360億円の資金を調達。その功績が認められて’13年に大英帝国勲章を受章。バッキンガム宮殿で女王陛下から勲章を授与される。


Text=田中 滋 Photograph=太田隆生