建築家 永山祐子 考察のない試験は受容しない 滝川クリステル いま、一番気になる仕事

26歳で独立後、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた永山さんの発想は柔軟だ。建物ができるその瞬間まで、最良の道はないのか、粘り続ける懐の広さもある。どんな局面でも、常に前向きにものごとを転換する、その発想法に迫る。

26歳という若さで独立、仕事に育てられてきた

滝川 今日は永山さんのご自宅にお邪魔しています。ご自身でリノベーションされたマンション。こちらで作業をされることもあるんですか?

永山 ながら作業は得意なんですが、自宅では簡単なチェックくらいですね。ここはキッチン兼居間なので、普段は5歳の息子と3歳の娘がおもちゃを広げてゴロゴロ遊んでいます(笑)。

左:建築家 永山祐子、右:滝川クリステル [滝川さん]ブラウス¥168,000、パンツ¥133,000、ピアス¥49,000、リング¥37,000(すべてフェンディ/フェンディ ジャパン TEL:03-3514-6187)

滝川 飾られているのはご主人(アーティストの藤元 明氏)の作品ですね。ご夫婦の会話からも、発想の刺激を受けることはあるのでしょうか?

永山 やっていることの違いが面白いなと思います。一般的に似たような職種と思われがちですが、アートの観点と建築的な考え方ってかなり違うんです。アーティストは自分のなかでテーマを見つけて、つくっていく。一方私たちはまずお施主さんの思いがあって、環境的な条件や法規的・社会的な要件、完成する5年後の世の中にフィットするかどうかも含めて考えつつ最適解を探します。ただ最終的に表現するところは共通点もあるので、そこは面白いですね。

滝川 コンセプトのイメージはどうやって考えていくんですか。例えば「URBANPREM南青山」なんて、他では見ないユニークな建物ですよね。もはや名所のようになっていますが。

[滝川]ずっとそこに居たくなってしまう。そんな居心地のよいお家でした。

永山 都市計画の規制として、高い建物は幅のある幹線道路の脇にしかつくれないんです。高層ビルの裏手に低層住宅が並ぶ、東京らしいスケールのギャップのある風景のなかでどちらにも属さない、スケール感のわからない建物にしたいなと思って。5階建てなんですけど、湾曲しているので下から見ると建物の上端が見えずどこまでも伸びているように見えたり、窓が1階につきふたつあるから、10階建てだと思う人もいるみたいです。

滝川 この建物を見て「黒ひげ危機一発」を思い出しました。剣を刺すと上からポーンと......。

永山 アタリみたいに何か出てきたら面白いですね(笑)。

女神の森セントラルガーデン

滝川 すみません(笑)。最新の作品は山梨県小淵沢にある「女神の森セントラルガーデン」。5385平方メートルもある、ホールなどの複合施設です。こちらのコンセプトはどのようなものですか?

永山 アルソアという化粧品メーカーの持っているホールなんですが、森に溶け込んでいるような、新築だけど新築に見えないようにすることを主眼にしています。森って葉っぱとか枝とかそういう小さなものの寄り集まりでつくられていますよね。だから森の中では大きすぎる建材の面を分割するために、ひとりの職人さんが「森綾」という模様を1200平方メートルくらい、手のストロークで塗っています。遠くから見ると1枚のパネルだけど、近くで見ると細かい模様があって、陰影もある。他にも、さざ波のように映る天井材を使ったり、森の肌理(きめ)を建物に取り込んでいます。

滝川 本当に森の中みたい。それにしても手がけられている施設が幅広いですよね。住宅や、ホテル、神社、茶室に船も。

展示ハウス@山梨県

永山 実はプロダクトもやっていて、このテーブルも私のオリジナルデザインです。

滝川 そうなんですか。葉っぱみたいな楕円でかわいい。今までで一番難しかった作品は何ですか? それぞれに難しい点は違うと思うんですが、総合的に。

「こんな素材は使えない」と言われたルイ・ヴィトン京都大丸店

永山 独立したての頃に手がけた「ルイ・ヴィトン京都大丸店」ですね。外装に偏光板っていう、建材としては使われたことのない光学フィルムを使ったんです。でも最初ゼネコン側に「こんな素材は使えない」と言われてしまったんですよ。建材用の試験機で、紫外線とか雨とか湿気とかさまざまな過酷な条件にかけられて、ボロボロになってしまって。実際はそこまで酷い状況下にはならないと説明したんですが、聞いてもらえず。でもそれで変更してオープンを遅らせでもしたら、建築家人生終わりだと焦りました。

滝川 どうしたんですか?

永山 試験結果の考察はできているのか聞いたら、できていないと。そこで「考察のない試験は受けつけない。私はこれを実現するために選ばれたのだから、1カ月で絶対大丈夫だと証明する新しい試験データを持ってきます」と言いました。感情論ではひっくり返らないので。

滝川 かっこいい。

永山 28歳の若気の至りもありましたね(笑)。そもそも、前例がないので、自分で試験計画を立て、研究者の父に計画を見てもらいました。そして、運よく、施工の方のなかに元旭硝子の研究員の方がいて、試験場に掛け合ってくれたんです。でも、偏光板ってもう十分にシェアがあるので、建材用に使うメリットがメーカーになくて、アポイントが取れず。でも、これも本当に偶然なんですけど、担当スタッフのお母さんのお友達の旦那さんが、世界で一番の高耐久偏光板のシェアを持つ偏光板メーカーの社長さんだったんですよ。それで直接会って説明をしたら「よく勉強してる」と感激してくれて、全面的に協力してくださって、ついに条件をクリアする方法を導き出せました。

滝川 めぐり合わせですね。

協力者の存在とチームワークが本当に大事

永山 円形ハゲができる程のプレッシャーがありましたが、そうして仕事に育てられてきましたし、その時に協力してくれたチームとはその後も一緒にやっています。豊島横尾館で使った赤いガラスを世界中から探してきてくれたのも、ルイ・ヴィトンでサポートしてくれた方です。

豊島横尾館 美術館@香川県

滝川 きっと困難が多い分、チームの絆も強まるんでしょうね。

永山 ひとりではつくれないので、協力者の存在とチームワークが本当に大事です。みんなにとって代表作になるよう、120%力を出してもらえるような環境をつくるのも、この仕事の楽しいところかなと。

滝川 永山さんに依頼される施主さんからは、どんなことを求められていると感じますか?

永山 柔軟でやりやすい、と言っていただけることが多いです。建築家って、お施主さんの出題に対して、デザインで回答する仕事なんですね。エゴを出さず、固定概念を外し、常に対話のなかからヒントを見い出すよう心がけています。ただ出題自体が間違っていることも少なくないので、そこは見逃さないように。

滝川 景観を無視した建築物も、まだありますものね......。

永山 最近は町おこし的なことや、古い建造物のリノベーションといった案件の、コンセプト部分から声をかけていただくことも増えてきています。そうやって出題部分から入っていく視点も、これから建築家に必要なのかなと思います。......あ。 

仕事と育児を両立できる状況づくりを進めたい

滝川 ? 何か音が。

永山 すみません、炊飯器のごはんが炊けた音です(笑)。

滝川 いい匂いがするなと思ってました(笑)。男性中心のハードな建築業界で活躍しながら、ふたりのお子さんを育てて家事もして、本当にパワフル!

永山 ながら仕事が得意なんです(笑)。たしかにまだ女性建築家は少ないですが、うちの初期スタッフは全員女性で、みんなお母さんになりました。今はツールも発達していますし、仕事と育児を両立できる状況づくりを、私なりに進めていけたらいいなとも思っています。

Yuko Nagayama1975年東京都生まれ。98年昭和女子大学卒業後、青木淳建築計画事務所を経て、2002年永山祐子建築設計設立。05年「ルイ・ヴィトン京都大丸店」にてJCDデザイン賞2005奨励賞を受賞し注目を集める。14年JIA新人賞「豊島横尾館」等受賞多数。


Text=藤崎美穂 Photograph=中田陽子(maetico)、表 恒匡、阿野太一 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=野田智子

*本記事の内容は17年5月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)

滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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