パリ・オペラ座ダンサー二山治雄「バレエという伝統芸能の火を消してはいけない」

ロックダウンが大幅に解除され、第2波に備えながらも日常を取り戻しつつあるフランス・パリで暮らす日本人に、現地在住のカメラマン、松永 学が取材。 今回はパリ・オペラ座の契約団員でバレエ・ダンサーの二山治雄さんに話を聞いた。

いつ再開されてもいいように体と心を整える

6月14日にマクロン大統領が「最初の勝利」と演説し、制限を大幅に解除しました。15日からはレストラン(それまでは屋外は大丈夫でした)での飲食、すべてではありませんがヨーロッパの他国への移動も可能になりました。22日からは学校も再開されています。

ただ、たくさんの人が集まるイベント等はまだ開催されず、パリの芸術の象徴であるオペラ座もクローズされたまま。バレエやオペラ、クラシックのコンサートなど年内の公演は行われないようです。

このパリ・オペラ座のバレエ団に唯一の日本人男性ダンサーとして在籍しているのが、二山治雄さんです。

二山さんは2014年、17歳のときに世界の若手バレエダンサーの登竜門といわれるローザンヌ国際バレエコンクールで見事1位に輝き、現在はパリ・オペラ座バレエ団と契約し、パリで暮らしています。

そんな二山さんに現在の状況、またダンサーとしてのこれからのことをうかがいました。

「僕が初めてパリに行ったのは6年前、ローザンヌでのコンクール後に観光で立ち寄りました。いろいろな観光名所を訪ねましたが、当時はコンクール後の疲れや興奮もあったせいか、とりたてて印象に残っているようなことはありませんでした。

その後何度かバレエの関係でパリを訪れ、2017年からは本格的に住み始めました。フランス語が一切わからず、英語もままならない状態でしたので、生活は大変でした。それから少しずつ周りの環境にも慣れ、言語の面で苦労することはありましたが、それまであまり良い印象ではなかったパリの街をだんだんと好きになっていきました。

今は、休日に一人で散歩に出かけ、綺麗な街並みやお洒落なお店など、それまで知らなかったものを発見したりすると、改めて魅力的な場所だと感じています。

ときどき仕事や普段の生活の中で不平等な扱いを受けることもありますが、海外で生活する中では避けられないことですし、パリは日本人も多く、日系のお店もたくさんあるので比較的住みやすいと思います。

僕が契約しているパリ・オペラ座は、フランスという国の中でとても重要で特別な存在。劇場や施設は歴史があって素晴らしく、ここにいると、自然と気持ちが引き締まります。

僕は、夏にオペラ座のオーストラリアツアーに参加することになっていましたが、予定はすべてキャンセルとなりました。さらに、今シーズンのパリでの公演もなくなりました。これはパリ・オペラ座バレエ団に限ったことではありません。世界中のバレエ団が同じ様な状況です。少しずつレッスンなどは再開されてきていますが、まだどうなるか分からない状態です。

状況が変われば公演も再開されるかもしれませんが、確実なことはわかりません。 この期間、どう過ごせばいいのか。僕自身、時間があることを前向きに捉えたいと思います。たくさんのものに触れたり経験したりして、これからの挑戦に備えたい。 そして、いつ再開されてもいいように心身を整えておくことが大事だと思います。でも、常に準備をするという意識は今までと何も変わりません。

今は、コロナのせいで心や体が疲れたり、落ち込んでいる方がたくさんいると思います。僕が踊ることで少しでも元気や勇気を届けられないか、そのためにどうしていくべきかを考えています。

そんななか、 プロのダンサーやカンパニーの先生達がいろいろな動画を配信しています。ただ、小さい子や学生向けのレッスン動画がなかったため、僕はそういう人たちに向けて動画を配信することにしました。

新型コロナウイルスがいつ終息し、コロナ前とコロナ後でダンスの世界がどう変わっていくのか、僕は専門家ではないのでわかりません。きっと様々なことが変わっていくでしょう。ただ、例えどんな状況になろうとも、ダンサーは観客を楽しませるものであると考えていますし、自分の中でそこは曲げずにやっていかなければならないと思っています。またバレエは歴史ある伝統芸能でもあるので、これからもその伝統を引き継ぎつつ、多様な表現で伝えていけるように精進していきたいと思います。

この瞬間に自分にできることを見つけ、それに対して精一杯、全力で取り組むことが大事、今はそう思っています」


Text=松永 学 Photograph=Maria-Helena Buckley(トップ画像)