Googleが認めた起業家・加藤崇「シリコンバレー暮らしで見えてきたこと」<後編>

SCHAFT(シャフト)、Fracta,Inc.(フラクタ)と、世界規模のビジネスを立て続けに成功させた加藤崇氏。2015年から暮らしている米国シリコンバレーとはどんな街なのだろうか? インタビュー後編では、世界が手本にする“シリコンバレーの強さ”と、現地での生活を通して見えてきた“日本の課題”について話を聞いた。


「NO」と言える日本人になる

僕はいま、米国サンフランシスコ郊外のサンノゼ地区、通称"シリコンバレー"で暮らしています。2015年に単身渡米して、もう3年半になりました。シリコンバレーはインテルをはじめとした半導体メーカーや、Apple、Google、Facebookといったインターネット企業が本社を置くエリア。世界から起業家やエンジニアが集まり、毎日のように新しい企業がスタートアップしています。

渡米直後は、シリコンバレーの空気にすぐには馴染めませんでした。こっちの人はめちゃめちゃ自己主張が強い。例えば、僕が人を雇うと、全員がすぐに「給料を上げてくれ」と言ってくる。断ったら傷ついて辞めてしまうのではないかと思い、最初はなかなか「NO」と言えませんでした。でも、勇気を出して「NO」と言うと、全然気にしていないという感じで軽く「OK」と返ってくる。その後も何事もなかったかのように、付き合いができるんです。いまでは平然と「NO」を連発しています。

スピード感も、日本とは比べ物にならないくらい速い。シリコンバレーでは、ひとつの企業で働く勤続年数が、平均1年3ヵ月程度という統計もあるくらいです。人材の流動性が極めて高いんですよ。人が動くから、新しいものが生まれ、カタチになっていく。シリコンバレーは、ある意味、節操のない街。チャレンジしてダメだったら、過去を捨て、ほかのことをやり始める。ひとつのジャンルに固執して成功を待つよりも、新しい挑戦を続けることに価値があると思われています。

そうした環境で働くことは、とても疲れます。毎日が新しいチャレンジで、真剣勝負ですから、肉体的にも、精神的にもぐったりとします。だから、コンディションづくりが大切。シリコンバレーに移住してから、お酒はほとんど飲まなくなりました。空いた時間はトレーニングジムに通っています。起業家というより、アスリートのような生活です。

ただ、アメリカ型の自己主張の強さやスピード感に慣れてしまうと、シリコンバレーは居心地がいい。要は完全にフェアなんです。国籍や人種は関係なく、日本人であることなんか誰も気にしない。「君は何人なの?」と聞かれたことは一度もありません。移民の国ですから、人を受け入れることが自然にできるんです。もちろん、受け入れてもらうには、自分の考えを堂々と述べることが重要。ほかの人と違った意見でも構わない。日本人は周囲の反応や同調圧力を気にすることが多いですが、アメリカではその癖を捨てることですね。

シリコンバレーの強さの理由は?

約3年半を過ごし、シリコンバレーがどうして世界屈指の“スタートアップの街”なのか、理由が見えてきました。いま、世界の多くの国がシリコンバレーを模倣したイノベーションの街を作ろうとしていますが、本家であるシリコンバレーには敵いません。その理由は、歴史が違うからです。

シリコンバレーは60年代に半導体メーカーが相次いで創業し、最大の成功者といえるインテルが誕生しました。その成功によって財を成した人が、次なる時代への投資を行った。パーソナルコンピューターの時代が訪れ、成功者たちは、今度は遺伝子工学に投資。さらに遺伝子工学で資産を作った人はインターネットに投資した。その連鎖が、今も続いています。半導体、パーソナルコンピューター、遺伝子工学、インターネット、ソーシャルネットワーク、電気自動車、人工知能……。それぞれ独立したジャンルのように見えますが、一本の歴史の糸でつながっているのです。こうした歴史があるから、ほかの国が模倣してもうまくいきません。資金の量や、昔から続く人脈がけた違いですから。シリコンバレーの強さは圧倒的なのです。

では、日本はどのような状況かというと、そもそもベンチャーの土壌がない状態。法制、税制を見ても、ベンチャー企業は大企業に比べて圧倒的に不利な状況が続いています。その原因は、60~70年代、日本の景気がよすぎたためです。大きな会社に勤めることがスタンダードになり、画一化したベクトルができあがってしまった。その一致団結したベクトルによって日本は大きな成長を遂げましたが、現状ではイノベーションを遠ざける原因になってしまっています。

日本は十分に世界と闘える

「日本はもうダメなのか?」と言われれば、そうでもありません。ありがたいことに、日本はいま、本質的には、景気が悪い。景気が悪いときこそ、イノベーションの芽は出てくるものです。このままではダメだと感じる人が増え、大企業に勤めるよりも自分で何かをやろうという意識が高まってくる。現に、起業が再びブームになりつつあると感じています。

それに、日本にはいい点はいっぱいあります。特に「枝葉に対する美的感覚」は素晴らしい。アメリカのような多民族国家では、わかりやすさが重視されます。さまざまな人が理解できて、納得できることが重要ですから。でも、ほぼ単一民族国家である日本では、細部にこだわることができる。"刺身のつま"に気を配るなんて、アメリカではあり得ないことです。そうしたきめ細かな美的感覚が、クールジャパンといわれる所以。ざっくりしたアメリカと闘うには、そういう特徴を生かしていくことですね。

日本人は勤勉で、基礎研究にものすごく強い。東洋の小さな島国が、物理学賞をはじめ、ノーベル賞受賞者を毎年のように輩出しています。これって、本当にすごいことですよ。この優秀な知性を、日本の強みとしてもっと活用しなければなりません。現状、日本はアメリカと中国に大きく水をあけられています。追いつくためには、過去に縛られず、変わっていかなければなりませんね。


Takashi Kato
1978年生まれ。早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東京三菱銀行等を経て、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者(兼取締役CFO)。2013年11月、同社を米国Google本社に売却し、世界の注目を集めた。'15年6月、人工知能により水道配管の更新投資を最適化するソフトウェア開発会社(現在のFracta,Inc.)を米国シリコンバレーで創業し、CEOに就任。'18年5月に株式の過半を栗田工業に売却し、現在も同社CEO。著書に『未来を切り拓くための5ステップ』『無敵の仕事術』『クレイジーで行こう!』(日経BP)など。


『クレイジーで行こう! 
グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む』

¥1,728 日経BP


Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生