【萩野公介】レース前に"耳を引っ張る"集中法は誰に教わった?~ビジネスパーソンの言語学74

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座74、いざ開講!


「耳を引っ張ると自分のやりたいことに集中できると聞いて。前に引っ張ると、泳ぐこと、技術に集中できる」―――東京五輪での復活を目指す競泳男子の萩野公介

東京五輪での復活を目指す金メダリスト萩野公介。今年最後の大会となった東京都シニア冬季公認記録会に出場し、まずまずのタイムを記録。復活の兆しを見せた。かつての泳ぎを取り戻すべく調整中の萩野だが、レース前のルーティンでは、両耳をぐいぐいと引っ張る新しい動きも。

「耳を引っ張ると自分のやりたいことに集中できると聞いて。前に引っ張ると、泳ぐこと、技術に集中できる」

実際にやってみたが、あまり効果があるような気はしない。萩野はこの集中法を誰に教わったのだろうか?

「食堂のおばちゃんです。あまり集中してないときは耳が痛い……。今日は痛かった。まあ、痛くても痛くなくてもいいんですけどね」

昨年以来、原因不明の不調に苦しみ、今年は半年間競技を離れて休養をとった。復活ロードとなる今大会の2日目には、萩野以外の選手が全員欠場するという珍事も発生。記録会ゆえの出来事だが、萩野の表情は明るかった。

「競技やっていて初めての経験です。珍しいというか。生後6ヵ月からベビースイミングをやっていますが、1人のレースは初めて。今後ももうないと思いますよ」

ロンドン、リオデジャネイロと2大会連続で五輪に出場。リオでの400m個人メドレーでの金など、すでに4つのメダルを獲得している。まだ25歳とはいえ、モチベーションを維持するのはかなり大変だったに違いない。もともと天才肌で繊細な性格だといわれるが、彼なりにもがき苦しみながら、来年に向けて自らを立て直す工夫をしているのだろう。

「自分がいろいろ経験して、歩いてきた道は大切なものだったし、自分のものとして進んでいきたい」

おばちゃんのアドバイスにしたがって耳を引っ張り、なりふりかまわず前に進む萩野。トンネルを抜けた天才は、きっとさらに大きくなって、東京五輪の主役になってくれるはずだ。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images


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