原辰徳監督の就任会見にみる、チームを鼓舞する言葉力 〜ビジネスパーソンの実践的言語学16

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「彼が3年間で残してくれた素晴らしい足跡を、きちっとその足跡を踏みながら先に進んでいきたい」ーーー読売巨人軍・原辰徳新監督

原辰徳が読売巨人軍の監督に復帰。4年間優勝から遠ざかったチームの再建に挑む。過去2回12年シーズンで7回リーグ優勝し、3連覇を2回達成、3回日本一に輝き、さらにはWBCで世界一にもなった監督だ。その実績、手腕は言うまでもない。しかもこの人には、言葉を操る力がある。新監督の就任会見を見て、この人が名将といわれる理由がわかった気がした。

成績不振によって現場の責任者が外されるというのは、プロスポーツの世界に限ったことではない。企業でもままあることだ。こういった場合、後任となった人間は往々にして前任者のやり方を否定し、新しい自分の方向性を見せようとする。だが、それだけでは組織、チームはうまく機能しない。むしろ前任者を肯定する姿勢こそが、前向きな力を与えうるということを原監督は理解しているのだろう。

成績がふるわないのは、トップだけの責任ではない。おそらく巨人内部でも高橋由伸前監督が辞任に追い込まれたことに心を痛めているメンバーも少なくないはずだ。誰も負けようとして野球をやっているわけではない。それでもうまくいかない、噛み合わないときはある。もし新監督が前任者を全否定したとしたら、それはチーム全体を否定したのと同じことだ。高橋前監督を信頼し戦っていたメンバーは、原監督に対して面白くない気持ちを持つ可能性がある。だからこそ原監督は、高橋前監督や現在のチームについて否定的な意見を述べることはなかったのだろう。

「ジャイアンツは若い選手が出てきたり、数字的に悔しい結果になりましたけど、いいものを残してくれたと。彼(高橋前監督)が責任をとる、辞任をする必要はまったくなかったと思います」

そして会見では、自らが率いることになるチームのあるべき姿についても明確に伝えた。

「巨人軍でなければいけない。個人軍ではいけない。誰と戦うことがチーム、ジャイアンツにとって一番なのか。それを観察して、目標としてチームとして戦いたい」

「ひとつ選手たちに言いたいのは(中略)、スポーツ、野球の原点である、のびのびと楽しむこと。勝っては喜ぶ、負けては悔しがる。のびのびとやってほしい」

「その考え方(実力至上主義)がチームの和を作る。(中略)チームが勝つんだと強く思っている選手と戦いたい」

この会見を誰よりも熱心に見ていたのは、巨人軍の選手たちだろう。彼らがこういった新監督の言葉を聞いて、やる気にならないはずがない。低迷するチームを3年間外側から見て、気づいたことはたくさんあるはずだ。だが、あえて細かい指摘や個人に対する注文を避け、前向きな言葉で大きな方針だけを伝えている。就任の最初のメッセージとしては、100点満点だと思える。

「また原監督か、新鮮味がない」と思っている人も多いかもしれない。スキャンダルもあった。かつて若大将と呼ばれた男も60歳を超えた。だが、恐らく原監督は、巨人軍だけでなく、プロ野球界全体の未来のことも考えているはずだ。言葉を持った男が、低迷するチームをどう再建し、プロ野球をどう盛り上げていくか。ジャイアンツファンならずとも来シーズンが楽しみな気がする。


Text=星野三千雄


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