【バンク光本勇介】世の中に化学変化を起こす"クレイジー"な生涯起業家<前編>

「STORES.jp」「CASH」「TRAVEL Now」。次々と常識外れのビジネスを生みだしてきた、バンク代表・光本勇介。混沌とした時代を飄々と駆け抜ける最"狂"IT起業家の思考に迫る。


自分の仮説を検証し、社会の反応を見る

目の前のアイテムが一瞬で現金になる。そんな夢のような、いや、もはやクレイジーともいえるサービス「CASH」をリリースし、世間を騒然とさせた男がいる。バンク代表取締役兼CEOの光本勇介だ。CASHはSNSを中心に爆発的な話題となり、公開後16時間で約3.6億円が現金化され、サービスを一時休止することになる。

「ヤバいかなとは思いつつも、まだ誰も見たことのない実験の結果がわかるぞっていう、ゾクゾクとした快感がありました」

会社として、個人として大きなリスクを背負うことになるかもしれない瞬間、光本はそう考えていた。光本にとってビジネスとは実験であり、自分のアイデアや仮説を社会と混ぜ合わせ、化学変化を起こさせる場なのだ。

ビジネスの面白さを知った原体験

光本がインターネットの可能性に魅せられたのは、高校生の時。親元を離れ、イギリスの高校に通っていた頃だ。

「当時は『裏原ブランド』がものすごいブーム。夏休み期間中は毎年日本に帰ってきていたのですが、友達もいないので暇を持て余していました。そこで、インターネットを使った転売ビジネスを始めたんです」

高校時代の1枚。10歳〜18歳まで、デンマークおよびイギリスで過ごす。

原宿で購入したTシャツを電子掲示板で紹介し、売却する。まだネットオークションも一般的ではない時代、購入者は後を絶たず、多い時には月150万円ほどの利益になったという。見知らぬ人が自分の”商品"を買ってくれる。インターネットを使ってモノを売ることの面白さを実感した。

帰国し大学に入学してからも、在学中にインターネットを使った翻訳サービスや留学の斡旋といったビジネスを立ち上げ、運営していた。将来起業したいとは思いつつも、まずは社会人としての振る舞いや会社という組織について学ぶために、就職する道を選ぶ。

会社を選ぶ時に重視したのは、いろいろなビジネスを"覗き見"できるということ。就職活動をするうちに、どうしても入りたい外資系の広告代理店にめぐりあうも、困ったことにその企業は新卒採用をしていなかった。そこで光本は驚きの行動にでる。

「新卒を募集していないことは承知で、人事部に7回も履歴書を送りました。最初の3回はメールで、残りの4回は郵送したり、直接持っていったりして。当然断られ続けましたがそれでも諦めきれず、最終的に『御社の社長に持ってこいと言われました』と嘘をついて受付に履歴書を渡したんです。社長の名前をだせば、必ず渡してくれると思ったので。案の定、うまくいきました(笑)」

光本のアタックはそこで終わらない。「タダ働きでも構わない。面接だけでもしてほしい」といった主旨のメールを作成し、社長の名字と名前の組み合わせで20とおりのアドレスを作って送信。すると宛先不明で19通が返ってきた。つまり、1通は届いたのだ。後日人事部から面接の連絡があり、入社することとなる。家にもほとんど帰らず寝る間を惜しんで働き、社会人としての基礎を身につけた。

生涯起業家として生きていくという決意。そして「CASH」の誕生

広告代理店に4年ほど勤めた後、ブラケット(現ストアーズ・ドット・ジェーピー)を創業。最初に手がけたのは、個人間でクルマの貸し借りをする、日本で初めてのカーシェアリングサービスだった。

しかし、まだSNSも一般的ではない時代、光本の発想に理解を示す人はほとんどおらず、その後もいくつかのサービスをリリースするもヒットするにはいたらなかった。

そんななか、軌道に乗ったのが「STORES.jp」だった。誰でも簡単に”最短2分"でオンラインストアを開設できる同サービスは、リリース直後から大きな話題となる。

ブラケット時代、複数のサービスを手がけるも大ヒットするにはいたらなかった。預金通帳の残高が、2万円台にまで減った時期も。

「これまでのサービスとは明らかに感触が違って、『やっと価値あるものを世に送りだせた!』と興奮しましたね。起業家としての成功体験はこれが最初です」

STORES.jpリリースの1年後、ブラケットの全株式をスタートトゥデイ(現ZOZO)に売却。その3年後、同社に対してMBOを実施し、ブラケットの全株
式を再取得した。

「ZOZOグループにいる間はSTORES.jpを充実させることだけに集中していました。でも、3年間前澤さんの近くで仕事をしていくなかで、ZOZOTOWNのような誰もが知るサービスをつくってみたい、やっぱり起業家として生きていきたいという思いが強くなっていったんです」

ZOZOを離れ、バンクを設立し、次に仕かけるサービスを模索していた光本が注目したのが、国内最大のフリマアプリ「メルカリ」だった。なぜメルカリ
がブレイクしているのか……。その理由を光本は、少額資金のニーズがあるからだと分析する。

「メルカリでの平均販売単価は3000円程度だと聞いたことがありました。そのお金を得るためにみんな、キレイな写真を撮って、文章を書いて、値段交渉をして、梱包して、と結構面倒くさいことをやっています。つまり、そこまでしても、少額でいいからすぐにお金をほしいと思う人たちが多くいるということ。その需要に応えるために考えだしたサービスが、CASHでした」

後編に続く


Yusuke Mitsumoto
神奈川県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2017年2月バンクを創業し、同年6月、即時買い取りアプリ「CASH」をリリースして話題に。また、10月にDMM.comがバンクを70億円で買収したことでも大きな注目を集めた。


『実験思考』
バンク代表 光本勇介
NewsPicks Book刊 390円

Text=竹村俊助(WORDS)、宮寺拓馬(ゲーテWEB編集部)  Photopraph=川口賢典