【HEROs】『世界ゆるスポーツ協会』澤田智洋「僕たちはスポーツを元の形に戻しているだけ」

2017年10月、アスリートによる社会貢献活動の輪を広げていくことなどを目的に「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」(以下、HEROs)が日本財団によって創設された。GOETHEでは社会貢献活動に励むアスリートの声を伝える連載をスタート。第7回は、本来スポーツが持っている「息抜き」「楽しみ」「余剰エネルギーの発散」という本質に立ち戻り、「新しいスポーツを創る」という挑戦を行う一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会」の思いを届ける。


テクノロジーの力を利用し、誰もが参加できるスポーツを作る

「世界ゆるスポーツ協会」という日本生まれのクリエイター集団の思いや行動を理解するにおいて、まずは彼らがこの世に産み出した世界のどこにもない新しいスポーツを知るところから始めなければならない。

※写真と競技説明は、すべて世界ゆるスポーツ協会HPより抜粋。

ここに示したのは、2015年に活動を始め、彼らが新たに生み出したスポーツの中のほんの一部。現在では、約70競技の「ゆるスポーツ」が開発され、今後も加速度的に増やす意向だという。代表理事の澤田智洋さんは、アイデアの産み出し方について、こう説明する。

「さまざまな立脚点がありますが、たとえば全身動かないけど声は出るおばあちゃんが、できるスポーツはなんだろう、とチームで考えて生まれたのが『トントンボイス相撲』。声でやる相撲。トンって言うと土俵が揺れるんですけど、元々は要介護4以上のおばあちゃんのために作りました。昨年から全国発売しているんですけど、子供のいる家庭を中心に広がっています。おばあちゃんに向けて作ったものが、結果的に世の中のいろんな人のものになっていることは、もの作りのあり方として可能性を感じました。

眼の前にいる明確な誰かに向けて作ると、逆に本質的なクエスチョンが抽出されて、みんなにとってのアンサーになったりするんです。あと、僕らはテクノロジーの力を借りている部分もかなり大きくて。スマートフォンがあれば、いっぱいスポーツを作れてしまう。たとえば、『ベビーバスケ』という競技があって、ボールが赤ちゃんみたいに泣いてしまうんですけど、それはスマホにベビーバスケアプリがインストールされていて、それをボールに入れているだけ。めちゃくちゃコストを低く新しいスポーツを開発できている」

『ベビーバスケ』

協会のコアメンバーは約10人だが、プロジェクト単位でその都度、チームを組成。不定期で参加するクリエイターを含めると、少なめに見積もって200名以上が「世界ゆるスポーツ協会」に関わっているという。

基本的には、普段から運動をしていない人、できない人、または、日本の義務教育においての体育に馴染めなかったマイノリティな人に対し、スポーツが本来持つ力を感じて欲しいがために活動している。その原点は、元々運動が苦手だった代表の澤田さんの幼少期からの実体験に基づいている。

「僕が体験した小学校、中学校の体育は、勝つことが唯一の正義であるみたいに、物凄く狭い領域に入っていて、僕は日本の体育教育が馴染まなかった。先生の指導の仕方とかもやっぱり、強い人を称えるし、弱い人は怒るし。それが、高校からアメリカに行って初めて日本の体育って凄く変だったんだと気がついたんです。

アメリカは、体育ではなく、フィジカルエデュケーションと言います。すごく自由で、日本の体育より概念としても広いから、もっと健康軸のことで学んだりとか、勝利以外のスポーツの価値を総合的に考えることができました」

『こたつホッケー』

大人になり、知識をつければつけるほど、スポーツが元来持っている意味合いが、日本の体育教育とはかけ離れているものであることを澤田さんは知った。

「元々はスポーツというのは、(ラテン語の)デポルターレというのが語源で、息抜きとか気晴らしとか、そういった意味合いがある。近代に入る前までは病気とか戦争とかで、人間は生きるのがもっと大変だった。現代人とは違うストレスがあり、それを緩和するためにスポーツがあった。子供が亡くなったとか、食べるものがないみたいなしんどい状態の中でも、ボールが1つあって、それを蹴っていれば、そのしんどさを忘れることができた。それが、スポーツの元々の役割です。僕たちは新しいものを発明しているというよりは、スポーツを元の形に戻しているだけ。元々、みんなのものだったのだから」

『フライングエッグ』

昨年4月にスポーツ庁が出した調査では、週に1度以上運動をしている人の割合は51%。かつて、みんなのものだったスポーツが、日本の現在社会では約半数の人が、日常的に何もしていないということになる。それを「ゆるスポーツ」によって、元に戻したいのだという。そもそも、日本のスポーツ産業が、戦後から何もアップデートされていないことに対して、未だに疑問を募らせている。

「日本の運動会って明治時代に生まれて、初めは校庭が学校になかったので、近くの神社とか境内を借りてやっていた。子供だけじゃなくて、檀家さんも含めてみんなが楽しめることをいっぱいやっていこうということで、パン食い競争とか緩い競技が入ってきた。

ただ、その後に戦争が勃興するとともに軍事教育みたいな軸が入ってきて。今問題になっている組体操とかも集団としての士気を高めるとか、一体感を高めるみたいなことを目的に開発された運動会コンテンツ。そういう歴史があるのに、日本の教師はあまり考えずに、組体操はやるものだからやるんだとか、そういう感じになっていて。

繰り返しになりますが、僕は日本の体育教育は当時から馴染まなかったのですが、大人になって勉強して、やっぱり歪んでいたんだなと。これが結構、日本のスポーツ界の諸々の問題の元凶であるとわかった」

2020年には、東京にオリンピック、パラリンピックがやってくる。一般的には、盛り上がっているように見えているが、それに対しても、本来のスポーツを取り戻すという理念を持つ「世界ゆるスポーツ協会」としては、必要性を感じない限りはそのムーブメントに身をゆだねることはしていない。

「オリパラというものがあるから、もちろんいろいろ促進されているけど、軍事教育と体育が合わさった歴史のように、スポーツの本質から遠ざかってしまうこともある。僕らはプリミティブなスポーツの価値をシンプルに追求しようとしているので、その目的が叶えられない限りはその中に飛び込んでいくことはしません。

既存競技を僕はトップスポーツと呼んでいて、それに対して、僕たちが目指すのは、ポップスポーツ。トップを目指すというよりは、スポーツのすそ野を広げたい。すべての人が気兼ねなく参加できるのが、ポップスポーツと定義している。ただし、トップスポーツと、ポップスポーツは互換関係にある。トップは上へ行こうみたいに垂直に動き、ポップは横に水平的な動きなので、垂直×水平みたいに、両方運動が生じてくると、日本のスポーツ産業も、どっしりとして立派な山ができてくると思います」

では、澤田さんが考える「世界ゆるスポーツ協会」の今後の展望とは?

「オリンピック、パラリンピックが終わった後の2021年以降から積極的に海外に向けてもゆるスポーツを展開しようと思っています。特に高齢化が日本と同様に進んでいるいわゆる中国とかアメリカとか先進国に対して、高齢者でも世界チャンピオンになれるスポーツをどんどん展開していきたい。それは他国よりも先に超高齢社会、超高齢国家を迎えた日本の責務だと思う。ちゃんと、日本のテクノロジーを生かしたソリューションを築き上げて行くことが、世界貢献になると思っています」

『トントンボイス相撲』

ここまで読んでもらうと、お分かりかもしれないが、「世界ゆるスポーツ協会」とは、単なる慈善団体ではない。スポーツの本質を理解したうえで、緻密な調査に基づき、明確なる仮説とビジョンをたて、テクノロジーを利用しながら誰もが参加できるようなスポーツを次々と産み出し、時代をリノベーションしていくクリエイター集団。澤田さんの思考は、スポーツの持つべき力によって社会を良好なものにしていくための、アイデアで溢れて返っているのである。

澤田智洋さん
世界ゆるスポーツ協会
2015年に、スポーツの力で日本社会に漂う閉塞感を打ち破りたいという思いから活動を開始。世界ゆるスポーツ協会は、本来スポーツが持っている「息抜き」「楽しみ」「余剰エネルギーの発散」という本質に立ち戻り、「新しいスポーツを創る」という挑戦を行っている。高齢者でも障害者でも参加でき、日本ならではの技術やアイデア力が活かされている、日本発のスポーツとして「ゆるスポーツ」を創出。「YURU」という日本概念を中心に据えながら、日本のみならず世界中の課題解決につながることを目指して、「21世紀の新しいスポーツ」を世界に届けることを目指し活動している。


【HEROs AWARDとは?】

社会のため、地域のため、子供達の未来のため、競技場の外でもスポーツマンシップを発揮している多くのアスリートたちに注目し、称え、支えていくためのアワード。その年、最も「社会とつながるスポーツマンシップ」を発揮したアスリート、チーム、団体を表彰し、次の活動へとつながる支援を行う。スポーツの力を活かした社会貢献活動のモデルにふさわしい、もっとも優れたアスリート・チーム・リーグ・NPOから選出される「HEROs of the year賞」、スポーツの力を活かし優秀な社会貢献活動を行った「HEROs賞」が選ばれる。


【HEROs AWARD 2017受賞者】

■HEROs of the year賞■

宮本恒靖:~スポーツを通じた民族融和プロジェクト~ボスニア・ヘルツェゴビナのスポーツアカデミー「マリモスト(小さな橋)」の挑戦

■HEROs賞■

・鳥谷敬:「RED BIRD PROJECT」
・アンジェラ・磨紀・バーノン:「Ocean’s Love」
・坂本博之「こころの青空基金」
・福島ユナイテッドFC(サッカー):風評被害払拭活動「ふくしマルシェ」
・一般社団法人世界ゆるスポーツ協会:すべての人々にスポーツを

※各部門の活動動画はHEROs AWARD 2017 Webサイトで視聴可能


【HEROs AWARD 2018受賞者】

■HEROs of the year賞■

特定非営利活動法人Being ALIVE Japan:スポーツを通じて、長期療養を必要とするこどもたちに「青春」を

■HEROs賞■

・赤星 憲広:Ring of Red~赤星憲広の輪を広げる基金~
・有森 裕子:HEARTS of GOLD
・飯沼 誠司:ATHLETE SAVE JAPAN いのちの教室
・長谷部誠:プロジェクト名:ユニセフを通じて世界の子どもたちを支援
・浦和レッドダイヤモンズ:浦和レッズハートフルクラブ×バーンロムサイ

※各部門の活動動画はHEROs AWARD 2018 Webサイトで視聴可能


Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)