新人王・大谷を讃えるイチローの飽くなき向上心 〜ビジネスパーソンの実践的言語学19

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「この先、どれくらい同じ時間を共有できるかは僕次第ですが、この歴史的にも稀有な存在の選手と渡り合うべく、励んでいきたい」ーーーシアトル•マリナーズ会長付特別補佐イチロー(大谷翔平のMLB新人王獲得についてのコメント)

二刀流でメジャーリーグに挑戦、若くして多くの人の予想を覆す大活躍を見せた大谷翔平。記者によって選ばれる新人王レースでも圧倒的な得票を集めての受賞は、彼が日本だけでなく、アメリカにおいてもスターとして認められたことの証といえるだろう。この新人王獲得について、熱いコメントをよせたのが2001年にメジャーに挑戦し、驚異的な成績で新人王を獲得したシアトル・マリナーズ会長付特別補佐のイチローだった。

「推測ですが、翔平にとっては獲得したいタイトルというより"獲得しなくてはならないタイトル"というスタンスであったのではないでしょうか。いわば最低でも新人王ということです」「(中略)獲得して当然の立場で実際にそれを達成することは実は思いのほか難しいものです」

このコメントは、17年前に同じ立場を経験した彼にしか語れないものだ。実際、17年前に新人王を獲得した際にイチローは、「ホッとした」とコメントしている。期待をプレッシャーに変え、プレッシャーをパワーに変える。そのくらいの強い精神力がなければ、世界の舞台で活躍することはできないのかもしれない。

44歳で迎えた今シーズン、古巣マリナーズに復帰したものの、思うような成績を残せず5月に会長付特別補佐として契約したイチロー。現役でもなく、引退しているわけでもない。試合には出場しないが、これまで通りのトレーニングを続けており、来シーズンの日本で開催される開幕戦では、現役復帰も確実視されている。そんなイチローだからこそ、決して大谷翔平を単なる後輩としては見ていない。二刀流のニュースターを“歴史的にも稀有な存在”と讃えながら、「45歳になった僕にも大いに刺激を与えてくれた」「渡り合うべく、励んでいきたい」と自分へのムチに変えている。

決して長くはないコメントだったが、そこからはイチローのワクワクした気持ちが伝わってくるような気がした。恐らく彼は、日本でもメジャーでも長く孤独な戦いを続けてきた。ひたすらに自分を磨き続け、何十回、何百回とさまざまな「日本人初」を達成してきたイチローにとって、大谷翔平はようやく現れた自分を超える可能性を持った手強いライバルなのだ。

大谷翔平が誕生した1994年、オリックス・ブルーウェーブの鈴木一朗は、登録名をイチローに変更。プロ野球史上初となるシーズン200安打を達成するなどの大活躍で、一気に国民的スターとなった。イチローは大谷を認めながらも、心のどこかで「若造には負けない」と思っているのではないだろうか。

大谷は確かにすごい。だが、自分の半分ほどの年齢の大谷と本気で競おうとしている45歳のイチローは、やはりカッコいい。ケガの影響で来季は打者に専念する大谷。投手として復帰するのは2020年といわれている。大谷が投げる160キロ超えの豪速球を打ち返すイチロー。そんなシーンを見てみたいと思うのは、私だけではないはずだ。


Text=星野三千雄


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