テニスプレイヤー西岡良仁が東京五輪出場にこだわる理由【東京五輪の現場から③】

54年ぶりに東京に五輪が戻ってくる2020年。本連載では、オリンピック担当として東京五輪に向けた取材を続けるスポーツニッポン・木本新也記者が現場の生の声を届ける。メダルを目指す選手のスペシャルな思考や、大会開催の舞台裏とは――。第3回は、 テニスプレイヤーの西岡良仁(24=ミキハウス)について。

オリンピアンという肩書きの意味

一球、一球が計算されつくしている。一手、二手先を読むスタイルは詰め将棋やチェスにも例えられる。テニス男子シングルス世界ランキング66位の西岡良仁は全豪オープン(1月20~2月2日)で4大大会初の3回戦進出を果たした。16強入りを懸けた戦いで王者ジョコビッチ(セルビア)に敗れたものの1、2回戦では世界ランキングの格上を撃破。特に強風の中で第30シードのエバンス(イギリス)に6―4、6―3、6―4でストレート勝ちした2回戦は"らしさ”が凝縮されていた。

エバンスのバック側に弾道の高いトップスピン(高く跳ねるボール)を送り、相手の持ち味である片手バックハンドの強打を防いだ。さらに「あえて緩いボールを打って風で球をブレさせてミスヒットを待った」と強風も利用。ミスを誘う戦術で主導権を握ると、後半は積極的にネットに出る攻撃的なプレーに転じた。温存していたサーブ&ボレーを勝負所で初めて使う試合巧者ぶりも発揮。「序盤はしっかりミスを誘い、後半は攻めていくメリハリが良かった」とうなずいた。

身長1m70cmの小兵。パワーでは敵わない相手に、いかにして勝つかを追求してきた。相手の特徴を把握する分析力、頭で描いた戦い方を体現する技術、決断力に長ける。意表を突くドロップショットや絶妙のロブショットで会場を沸かせることも多い。昨年の全仏オープン2回戦では第8シードのデルポトロ(アルゼンチン)にフルセットの末に敗れたが、会場からはスタンディングオベーションと「ヨシコール」を送られた。独特のスタイルは海外のファンも魅了している。

ここ数年は肉体改造にも着手。広背筋や肩周りのウエートトレーニングを重点的に行っている。昨年11月の国別対抗戦デビスカップでは、サーブが自己最速204キロを記録した。フォアハンドもパワーアップ。簡単に打ち負けないベースができたことで、戦術の幅も広がった。昨年8月のウエスタン・アンド・サザン・オープンでは錦織圭(日清食品)に勝利。1月の国別対抗戦ATPカップでは格上を次々と撃破した。今年に入ってからはジョコビッチとナダル(スペイン)の2人にしか負けていない。

順調にキャリアを積む西岡が今季の最大の目標に掲げるのが東京五輪だ。4大大会での実績や世界ランキングでの評価が定着しているテニス界には五輪を重視しない選手も多い。'16年リオデジャネイロ五輪ではラオニッチ(カナダ)、ティエム(オーストリア)らトップランカーが出場を辞退するケースが相次いだ。年齢制限があるサッカーや、7人制を採用するラグビーと同様に五輪は必ずしも最高峰の舞台ではない。それでも西岡は「日本では五輪に出場したかどうかで、アスリートとしての評価が決まりがち。オリンピアンという肩書きがすごく大きい。東京五輪には絶対に出たい」と力を込める。

全日本男子プロテニス協会で最年少理事を務め、昨年6月にはYouTubeに「Yoshi’sチャンネル」を開設。テニス界の発展に向けて、競技の認知度を上げる活動を積極的に行っており、錦織圭、大坂なおみ(日清食品)の他に全国区の知名度を誇る選手が出ていない現状を危惧している。24歳にして、生涯獲得賞金は240万4649㌦(約2億6150万円)。プロテニス選手として成功者の域に足を踏み入れつつあるが、テレビ出演などの露出を増やすためにもオリンピアンの肩書きは何としても手に入れたい。

東京五輪のシングルスの出場枠は64。全仏オープン後の6月8日に発表される世界ランキングの上位56人が出場権を得るが、各国最大4人の条件がある。出場辞退者も予想されるため、世界ランキング70位前後がボーダーラインになる可能性が高い。西岡は「五輪を最優先にしているので、ランキングによって出場する大会の選び方も変わってくると思う」と言う。プレースタイルと同様に綿密な計画を立て、東京五輪への道を切り開いていく。

Text=木本新也