【エイベックス松浦勝人】いずれダメになるんだったら、ぶっ壊して前に進んじゃえ


投資は事業じゃなくて、人に対してするもの

先日、両親と食事をした。父親は昔からお酒が好きで、母親は美味しいものが好き。だから美味しいお酒と料理が楽しめる店を用意した。でも、父親はあまり飲まず、日本酒に水を入れて薄めて飲んでいる。母親も美味しいと言いながら少ししか食べない。大きな病気を乗り越えてきたこともあるけど、父親ももう80近い。「近頃は飲めなくなった」と寂しいことを言う。

この何年か、世の中があまりにも不透明で不安が多く、この国はどうにかなってしまうのではないかという思いもあって、リスクを負うような投資もせず、お金を減らさないようにしてきた。自分の将来や老後が怖くて、お金を持っておこうとどこかで思ってしまっていた。

でも80歳になった親を見て、いくらお金を貯めておいても、使おうと思った時に使えなくなっているかもしれないと思った。

この何年か、僕は"まじめ"の魔法にかかっていた。上場企業のCEOなんだから、立派な経営者でいなければいけないと思いこんでいた。お酒も飲まない。どうしても飲まなければならない席でも口をつける程度。朝早く起き、運動をし、シャワーを浴びてスーツを着て出社する。それが立派な経営者だと思いこみすぎていた。

誕生日が近くなって、周りは屋形船だのパーティだのいろいろな企画を考えてくれた。でも、全部やめてほしいと断った。せっかく我慢に我慢を重ねて規則正しく、品行方正な生活習慣を身につけたのに、誕生日でお酒を飲んでしまうと、それが全部崩れてしまう。

でも、周りが準備してくれたものをすべて断るわけにもいかない。それで誕生日パーティをやった。案の定、バカ騒ぎになった。みんなでバカなビデオを撮って、バカなことばかりして、朝から晩までお酒を飲んだ。その大騒ぎを眺めながら、そういえば、僕はずっとこうやって息抜きをしていたなと思いだした。昔の僕は毎日こうだったよなと思いだした。

昔から僕のことを知っている人は、”まじめ"な僕を見て「らしくない」と言う。騒がない僕を見て「つまらない」と言う。昼は会社で懸命に働き、夜になると大騒ぎをして発散し、寝ずにそのまま会社に行って、また懸命に働く。そういう狂ったような空間や出来事のなかから、さまざまな大ヒットが生まれてきたことは間違いない。それが僕だったよなと思いだした。

体が自由に動くのは70歳ぐらいまでだろう。だったら僕もあと15年。その間に、やりたいことはやって、無駄遣いをするわけじゃなく、有用なものであるならば、お金も使ってみようと思うようになった。

それで今、ホテル住まいを始めてみている。短期間なら経験あるけど、長期間暮らしたことはない。今回は1年ぐらい、飽きるまで住んでみようと思う。僕にとっては相当に思い切った贅沢。ホテルに住むことにどんな意味があるのかわからない。でも、今までやっていなかったことをやってみようと思う。

エンジェル投資もやっていく。ライヴ周りで面白いことをやっている知り合いがいて、とにかくその本人が面白い。投資は事業じゃなくて、人に対してするもの。いくら数字やデータを持ってこられても、その本人が信じられなければ投資はできない。でも、企業として投資をする場合は、どうしても数字やデータという客観的なもので判断をしようとする。だから、個人でエンジェル投資をする。

依田(エイベックス元会長)さんは、50歳ぐらいの時に20代前半の僕と出会い、僕を信じて人生を賭けてくれた。この出会いがなければ、今のエイベックスは存在しない。これ以上年をとると、僕の人を見る目も曇ってくるかもしれない。ちょうど投資をすべき時期なのだと思う。

社内にも面白い人物がいる。ゲームやアニメの分野で面白いことを考えている。社員なので投資はできないけど、彼に思いっきり裁量を与えて、どんどん進めてもらおうと思っている。

ゲームの世界は今変革期で、潮目が変わろうとしている。ゲームはすべてクラウドになって、コントローラーさえ手元にあればいいようになる。内容だって、ただ遊ぶだけじゃなくて、eスポーツのようにゲームをやる人、それを見て楽しむ人が出てくる。ということは、必ず、誰が勝つか負けるかという勝負が生まれる。そこに何かがある。潮目が変わって新しいものが生まれる時期には、エイベックスにも大きなチャンスがある。

古いものが壊れて、新しいものが生まれる。その変革期に、いずれダメになることがわかっているのに、そのタイミングをできるだけ遅らせようと考える人たちがいる。でも、僕たちは、いずれダメになるんだったら、ぶっ壊して前に進んじゃえというマインドを持っている。

実際にそうするかどうかは別として、CDだって売れなくなっているんだから、配信中心の発想に変えてみたら? 芸能プロダクションの発想ってアメリカと比べたら古くない? 海外って個人契約が多いじゃん! 値段がつくうちに売っちゃって、新しいものをどんどん作った方がよくない?

古くて劣化しているものは、どんどんぶっ壊して先に進む。反発する人が出てくるのは当然。どのタイミングでぶっ壊すかも重要。でも、「ぶっ壊して前に進む」という考え方を持っているのが、エイベックス。

世の中がどんどん変わっていく。変わっていく先を読んで、そこに投資をしていく。今まで、「CDがなくなる」「音楽は配信になる」「ライヴが主流になる」と世の中の先を読んで、それを社内外で口にしてきた。でも、自分がダメだなと思うのは、わかっていたのになんでもっと早くやれなかったんだよ、ということ。僕は評論家じゃないから、思っただけでは意味がない。経営者なんだから、やらなきゃ意味がない。

僕にはあと15年しか時間がない。"まじめ"の魔法にかかった自分も、古いエイベックスもぶっ壊して先に進む。

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Text=牧野武文 Photograph=有高唯之

松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。
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