【シリーズ秘書】まさに宇宙兄弟! 人工衛星を開発するアクセルスペースのCEOと秘書

莫大な費用がかかるため、国家プロジェクト扱いとなっていた宇宙開発に参入し、宇宙ビジネスを実現したアクセルスペース。「夢」を追いかけるトップのエンジニア集団を「現実」というビジネス面でサポートする秘書とは――。


ビジネスと研究、両翼で宇宙へ

人類が誕生して以来、天に手を伸ばすことが許されたのは権力者のみだった。近代になっても、莫大な費用を必要とする宇宙開発は国家プロジェクトであり続けたが、アクセルスペースはここに風穴を開けた。

オフィスに社長室はなく、他のエンジニアに交じってフラットに仕事をする。席も隣同士だ。

重量100㎏以下の超小型人工衛星を開発、コストを100分の1に下げて、打ち上げに成功。商用観測データを取得し、販売する宇宙ビジネスを実現した。これによって宇宙は誰でも手を伸ばせる場所となった。

この挑戦にはテクノロジーという「夢」と、ビジネスという「現実」の両面が必要だった。中村友哉社長が夢を追いかけ、右腕となる野尻悠太さんがそれを現実に着陸させる。その役割は明確だ。

ふたりは東京大学の研究室で出会った。中村社長は衛星開発のため博士課程に進んだが、ビジネスの道を選んだ野尻さんは修士課程を終えたところで、証券会社に就職した。その後2008年に中村社長ら3人のエンジニアがアクセルスペースを起業、翌年に野尻さんが証券会社を退社し、合流した。

「立ち上げから関わっていたかった、という思いもありました。でもビジネスと研究、両方を知っているからこそ、できることがありました」

野尻さんがそう語るように創業当初、アクセルスペースは技術は一流でも、経営面では素人同然。野尻さんが加入しビジネス面を見ることで、中村社長は開発に集中でき、同時にビジネスとしての展望も開けた。

「彼は、会社の手綱を締めてくれる存在。僕らエンジニアはどうしても、アイデアが浮かぶと、それいいね!と盛り上がってしまいますが、そこにリアルな課題やリスクを指摘してくれるんです」(中村社長)

そもそも研究室時代に、ともに衛星開発に携わった野尻さんだからこそ、中村社長に苦言を呈することもできる。

「以心伝心、必ずベクトルは同じ方向を向いている。プロジェクトを実現したいという気持ちは同じ。それに、意見してくれる人がいなければ、飛躍はできません」(中村社長)

3人からスタートしたアクセルスペースは年々拡大し、今や世界中のエンジニアが志す企業にまで成長した。

今年打ち上げ予定の「GRUS」の模型。その分解機能は 、宇宙空間から自動車が判別できる2.5mと精密。「これがこれからの会社と中村を支えます」(野尻さん)

しかし中村社長が言うように「意見を言い合う」ため、毎週誰でも参加できるミーティングを行ったり、社長と食事をしながら意見交換する「CEOランチ」などの交流を積極的に行っている。

「中村が、じっくりと話を聞いてくれるのがありがたいですね。考え方は違っても話をすることで、どんな問題でも必ず答えが見つかるので」(野尻さん)

今年はいよいよ次世代型超小型地球観測衛星「GRUS」を打ち上げ、高頻度で地球を観測する「AxelGlobe」というビッグプロジェクトが始まる。理性の右腕が、感性のボスを羽ばたかせる、その日はもうすぐだ。


Yuya Nakamura(左)
1979年三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中3 機の超小型人工衛星の開発に参加、2008年アクセルスペースを創業。
Yuta Nojiri(右)
1981年静岡県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻にて修士号取得後、証券会社に入社。2009年にアクセルスペースに参画。
Company Data
2008年8 月創業。超小型人工衛星を利用して、宇宙開発のコストを一気に引き下げた。大学発ベンチャー表彰2016にて、経済産業大臣賞を受賞。年内には現在開発中の次世代型超小型地球観測衛星の「GRUS」を打ち上げ予定。2022年までに多数の衛星を軌道に投入、地球の様子を高頻度に観測できる体制を目指す。

Text=牧野武文 Photograph=西村裕介