Twitterで"匂わせ"メッセージを送るトランプ流駆け引き ~ビジネスパーソンの言語学㊻

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「北朝鮮は小さな武器を何発か発射した。それは我が国民の一部や他の人々を困らせたが、私を困らせてはいない」ーーートランプ米大統領が、北朝鮮が5月上旬に日本海に向けて短距離弾道ミサイルを発射したことについてツイート

トランプ大統領は、Twitterを駆使してメッセージを送り続ける。もちろん彼がメッセージを送るのは、彼の“岩盤”と呼ばれる支持者だが、そこには必ず表の意味と裏の意味があり、メッセージを受け取った側は、そこからさまざまな意図を読み解かねばならない。今回の来日中も絶えずTwitterを更新していたが、そこには日本や北朝鮮に対するメッセージも込められていたと思われる。

「日米貿易交渉では大きな進展が起きつつある。特に農業と牛肉だ。ただし、大きな数字を期待するのは7月の選挙のあとだ!」

「北朝鮮は小さな武器を何発か発射した。それは我が国民の一部や他の人々を困らせたが、私を困らせてはいない。私は金正恩・朝鮮労働党委員長が私への約束を守ると信じている」

貿易交渉のツイートについては、首脳会談の場で参院選後の"密約"があったのではないかと憶測を呼んでいる。密約云々はともかく、日本はこのツイートによって、妥結のリミットを示されたことは間違いない。期限を守らなければ、アメリカ国内で日本を批判する声が上がる可能性もある。このツイートにどういった反応があるか、観測気球とする意味合いもあったのかもしれない。

北朝鮮のツイートは、明確に金正恩に対するメッセージでありつつ、日本や韓国、中国など、北朝鮮と直接的な利害関係がある国に対して、自らの立ち位置を示したものともいえる。その短いメッセージには、「自分はアメリカの大統領であり、北朝鮮がアメリカ以外の国を困らせても自分には関係ない」という意味も込められているのではないだろうか。

長年、ビジネスの世界で"駆け引き(ディール))"を行ってきたトランプ大統領は、この短文メッセージの使いみちに自信を持っていると思われる。彼はTwitterであえてハレーションを起こし、自らの敵と味方を分断。味方が喜ぶメッセージを送る一方で、短文に込めた"匂わせ"メッセージで敵を揺さぶる。SNS時代の大衆心理を熟知していると言ってもいいだろう。

しかしこのトランプ流駆け引きは、一歩間違えれば、自らもSNSの濁流に飲み込まれかねない危険性をはらんでいる。短文であるがゆえにインパクトがありパワフルだが、いったん逆流になれば、自らの真意とはかけ離れた方向に進んでいく。「私を困らせてはいない」とタカを括っていたら、いつの間にか炎上の真っ只中に置き去りにされるという事態にもなりかねないのだ。

TwitterのようなSNSが便利なのは間違いない。だが、ツイートするときも、そのメッセージを受け取るときも、短文が持つ危険性にじゅうぶん注意すべきだ。たった140文字で自らの正確な意志を表現できるほど、単純な思考で人間は生きていないのだから。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images