「それ、会社病ですよ。」なぜ"官僚的価値”を世界に提供できないのか?日本のビジネスはちっともクールじゃない Vol.16


経済産業省主導でクールジャパン機構が誕生しました。何を目指すのかまだはっきりしていないので、今後のお手並み拝見というところですが、少なくとも日本企業が理解しておかなければいけないことがあります。それは、今の日本のビジネスはちっともクールではないということです。
 世界的な時計ブランドがひしめくスイス。しかし、スイスの今は、日本のメーカーに追い詰められた結果でもあります。かつて時計はいかに正確か、という精密メカの機能競争の世界でした。それを一変させたのがクオーツの登場。私が中学生の頃です。
 ここから時計の世界は大量生産ゲームに変わってしまいます。そして日本メーカーが世界を席巻していく一方、スイスが生き残りのために選んだのが機能訴求から、官能訴求、付加価値訴求への方向転換でした。
 そして今、何が起きているか。スイス製なら1000万円の時計だって平気で売れてしまう、という現実です。極めて利益率の高いビジネスが展開できているのです。
 これは時計に限りません。戦後の日本の成功は、機能的価値のコストパフォーマンスを追求することによってもたらされました。自動車然(しか)り、電子機器然り。そして日本勢の勃興で、欧米のメーカーは追い詰められていった。

今、日本がかつての欧米と同じように新興国勢から追い詰められています。ところが、日本企業は量とコストと安売りから抜けだせない。一方でヨーロッパ勢と一部のアメリカ勢の独壇場である官能訴求、付加価値訴求のマーケットでもほとんどダメ。世界的に中途半端なポジションにいるのです。
 官能訴求とは、男性に例えれば、目を疑うような絶世の美女とたまにデートできる。そんな感覚でしょうか。誰でも簡単に手に入れられないし、数にも限りがある。しかし、官能訴求は、どんな美女でも毎日会えば飽きるように、いつか飽きられてしまうもの。栄枯盛衰の激しい世界です。だから、ブランドと価格を守りビジネスを安定させるには、大変な工夫が必要になる。
 例えば、プラットフォームを作る。実はディズニーやソニー・ピクチャーズの競争基盤の本質はBtoB側にあります。資金を集めるプラットフォームと、映画を作るスタジオというプラットフォームと、販路というプラットフォームを持ち、映画を作りたい人たちに提供する一種のインフラ産業なのです。
 そして、すでにドイツの自動車メーカーも、官能訴求、付加価値訴求ビジネスに見合った仕組みやエコシステムを自社で作り上げています。日本にも、こうした新しい概念が出てこなければいけない。求められているのは、大胆な構造転換なのです。
 そんなことができるのか、という声もある。しかし、スイスにできたことが、日本にできないはずがない。それができるだけの歴史的背景や文化的背景も日本は持っている。事実、明治や大正時代、日本は官能訴求のビジネスができていたのです。新しいチャレンジは、できるはずです。

Text=上阪 徹 Illustration=村田篤司
*本記事の内容は13年12月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい