マスターズ優勝! タイガー・ウッズが髪の毛の代わりに得たもの ~ビジネスパーソンの言語学㊵

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「決してあきらめてはいけない。それしかないんだ。常に戦うこと。あきらめたら、道はひらけない」ーーーマスターズで14年ぶりの優勝を果たしたタイガー・ウッズ

小さく拳を握り、その後大声援にこたえるように両手を広げる。赤いシャツに身を包んだ、強いタイガー・ウッズが聖地に帰ってきた。

膝や腰の故障からくる不振に加え、不倫や離婚など度重なるスキャンダル。かつての英雄は堕ちるところまで堕ち、もはやその復活は不可能だと誰もが思っていたはずだ。だが、彼はマスターズで奇跡を成し遂げた。これこそ本物の英雄だと言わんばかりに。

帽子をとり、腕を高々と挙げて喜ぶ彼の後ろ姿が映ったとき、多くの人がその後頭部の髪の薄さに驚いたはずだ。11年ぶりのメジャー制覇、14年ぶりのマスターズ優勝。43歳になったタイガーは、年相応のオジさんになっていた。

優勝インタビューでは、髪のことをネタにして、「そのせいで薄くなった」と激しい戦いを振り返ったタイガー。ここまでの苦しい道のりに比べれば、そんなのどうでもいいと言わんばかりの清々しさだ。

タイガーは、マスターズについて、こう語っていた。

「このコースをプレーする方法として頭に小さな図書館を持っている」

髪は失ったが、そのぶん経験は豊富に持っているということだろう。以前ほどは飛ばない。スイングするたびに体中に痛みが走る。それでもタイガーは、ここに帰ってきて、そして経験を糧に勝利を収めた。

かつてタイガーは、ゴルフというエスタブリッシュのスポーツにおいて、人種の壁をぶち壊し、その景色を変えた。そしていま彼は年齢、ブランクという壁を壊した。人はいろいろなものを失いながら、いろいろなものを得て、生きている。年齢を言い訳に、走るのをやめる必要はないと、稀代の英雄が身をもって示してくれたのだ。

vol.41に続く

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images