ベネッセ 福武總一郎 直島メソッドとは? ~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

現代アートを用いて、瀬戸内海の島々とその地に暮らす人々を活気づけ、 自身も生き生きとして常にパワフル。そんなベネッセホールディングス名誉顧問で公益財団法人福武財団理事長の福武總一郎氏は、御年 72 歳だ。 高い志を持ち、自由な発想で誰も成し遂げたことのないことを実現し続ける。「よく生きる」という意味を持つ造語、ベネッセ。福武氏の豊かな生き方の源泉に迫るーー。

時間をかけて育む文化こそが、真のアイデンティティになる

滝川 美術館と宿泊施設が一体となった「ベネッセハウス」が直島にオープンしてから、早26年。以降、瀬戸内海の島々を舞台に展開する「ベネッセアートサイト直島」は、アートの聖地、また地域再生の見本として、国内外から注目を集めています。フランスの友人にもファンが多いんですよ。まだ行っていないので、怒られていて(笑)。近々やっとうかがえそうなんですけれど。

福武 最低でも2泊は必要だからね。せっかくなら他の島も回れるといいけど。先日、世界一読まれているといわれる旅行ガイド『Lonely Planet』の日本版でも、直島は「訪れるべき名所」の6番目に掲載されたんです。東京、京都、日本アルプス……と続いて、厳島神社や富士山よりも前に掲載されていて。褒められたくて始めたわけじゃないけど、30年かけてつくってきたものが評価されたのはやはり感慨深かったね。

滝川 2010年から3年に1度開催されている瀬戸内国際芸術祭も、第4回開催を来年に控えています。改めて構想のきっかけを教えていただけますか。

ドレス¥152,000(ポール カ/アオイTEL03・3239・0341) ピアス¥21,250(スワロフスキー ジュエリー)、リング¥21,250、バングル¥27,750(ともにアトリエ・スワロフスキー/すべてスワロフスキー・ジャパンTEL0120・10・8700)

福武 32年前、僕が40歳の時に創業者である父が急逝し、東京から本社のある岡山に帰ることになりました。それまでは毎晩のように都心で飲み語らっていましたから、最初は困ったんだ。でも趣味も兼ねてクルーズで島々を回るうちに、素晴らしい自然と、共に生きる暮らし、根ざす歴史や文化を知り、逆に東京の歪さに気づいたんです。情報や娯楽は多いけれど、ストレスも多い。そして文化は海外の真似ばかりでしょう。赤坂迎賓館すらベルサイユ宮殿の真似で。

滝川 そうかもしれません。世界各国、日本中からよいものが集まってもいるけれど……。

福武 地方も美味しいものを簡単に東京に渡してしまうからいけないの。地方が枯渇したら国は滅ぶからね、食べに来てもらわないと。かつて藩制度があった時代は、地方が各々の個性を活かして自立していて、ゆえに文化レベルも非常に高かったと思うんですよ。

滝川 文化、アートには昔からご興味があったんですか?

福武 子供の頃から絵を習っていたし、父が国吉康雄という、アメリカで活躍した岡山出身のアーティストの絵画コレクションをしていたこともあり、アートは身近なものでしたね。

滝川 島々とアートを結びつけるという発想はどちらから?

福武 直島や瀬戸内の島々は、九州の霧島や雲仙と並んで国立公園に指定された第一号です。つまり日本で最も美しい場所と言って過言でない。それなのに国は亜硫酸ガスを排出する銅製錬所をつくって禿山にし、産業廃棄物の不法投棄を行い、大島にはハンセン病の方々の療養施設をつくって社会と隔絶したんです。近代化、都市化の犠牲となり、過疎化、高齢化してしまった美しい場所を元気にしたい。そして文化的なレジスタンスの”アジト”のような存在にしたいという気持ちもありました。

滝川 アジト、ですか。

福武 逐一キャプションで説明はしないけれど、作品はすべてメッセージ性の強いものばかりです。さらに従来の美術館のように箱をつくって展示するだけではなく、その作品が「あるべき場所にある」ことを重視しているから、アーティストの思惑以上に作品のメッセージが増幅する。そして一番の特徴は、そんな尖った作品について、島の人たちがフレンドリーに案内をしてくれることでしょうね。アーティストは作品をつくる一定期間、島に滞在するから、島の人も交流のなかで自然と作品や作者についての情報を知ることになる。説明のない作品の前でお客さんが首をかしげていると、島のじいちゃん、ばあちゃんがにこにこ、堂々と説明を始めるんですよ。言葉が通じなくても、ボディランゲージで。どこの国でも現代アートといえば都市部の若者のものでしたからね。みんな、びっくりします。

滝川 面白いですね。その交流はなかなか真似できない。

福武 どんどん真似てほしいけれど。現代アートを用いて過疎化・高齢化した地域を活性化した世界初の試みとして、フランスの『アートプレス』誌が「直島メソッド」と名づけてくれました。人も町も一緒で褒められたらきれいになるんですよ。

滝川 直島だけで年間40万人以上のお客さんが来られるのですもんね。

福武 そうすると若い人たちも集まってくる。カフェやレストラン、民宿を開いたり。移住者もかなり増えました。男木島は閉鎖していた学校が再開して、50人くらい移住したそうです。

滝川 そんなに勢いが。

福武 生活費もかからないから。海に網を下げればその日の夕飯が穫れる。庭つき一戸建てが月5000円くらいで借りられる。小豆島は2010年に参加してから、1500人くらい人が増えたと聞きますし、ここ数年はアーティストとのコラボレーションだとか、ユニークな活動が活発に起きているようですよ。それから、これは直島での話だけど、京都の美大を中退してやってきた24歳の女性が72歳の島の男性に惚れこんで、仲人してほしいと頼まれたこともあります。

滝川 えっ、20代と70代?

福武 結局籍は入れていないんだけど、15年たった今も仲いいですよ。彼女の友人が撮ったふたりのドキュメンタリー映像が、10年くらい前に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されて、ミュンヘン市の映画祭でも入賞したとか。そんな話もあるから、じいちゃんもばあちゃんもすっかり若返った。元気な島になりました(笑)。

滝川 すごい。福武さんは現在ニュージーランドにお住まいですよね。

福武 はい。それもあって「直島メソッド」について海外で講演することがほとんどです。

滝川 ニュージーランドの魅力ってどんなところでしょう。

福武 基本的にエネルギーも食料も自給自足が可能であること、だから競争もストレスもほとんどないこと、そしてやっぱり自然かな。僕はクルーズや電気自動車に改造したクラシックカーが趣味なんだけど、空を飛びたくなって60歳でヘリコプター免許をとったんです。モーターグライダーもやるんだけど、日本は規制が厳しいんだ。それで64歳でニュージーに移住して、ワーッて飛んでる。

滝川 楽しそう。私も運転とか潜ったりとか好きなんです。

福武 楽しいよね。昔は仕事こそ生き甲斐だと思っていたけど、変わってきたね。だいぶ働いたから、あとは後継に任せて。

滝川 悠々自適に。

福武 そう。ただ「地域づくり」は今も一番楽しい仕事だし、まだ注力していきたい。日本は手段と目的が逆転しているけれど、本来、経済は文化の僕(しもべ)なの。文化こそが、国のアイデンティティになる。自分はいち事業主だから日本がどうこうの話は専門の人に任せますが、アートを使った地域再生活動には財団で助成をしているし、活動のリーダーの養成活動も始めたところです。そういうことを、あちこちの企業、経営者がやればいいのにとは思う。企業の寄付は業績が悪くなったらすぐに止まっちゃうでしょう。文化をつくるには長い年月がかかるのに、安定性や継続性が乏しい。だったら、株式の一部を出して財団化し、財団を企業の大株主にして、配当金を公益事業に充てたらいい。そういう「公益資本主義」をずっと提言しているんです。いいことするのにいちいち頭下げるの、僕、イヤなんだわ。

滝川 わかります……。

福武 滝川さんはこうして経営者に会われているんだから、意見をどんどん言ったらいいですよ。まずは直島に来て。

滝川 はい。近いうちに必ず。

福武 都会で疲れている人には特に薦めます。よく生きるとはどういうことか、人生の豊かさとは何か。そういった日本の原風景が、瀬戸内海に来れば肌でわかるはずだから。

Soichiro Fukutake
1969年早稲田大学理工学部卒業。’73年福武書店(現ベネッセホールディングス)入社。’86年に社長就任、2007年に代表取締役会長兼CEO。’16年10月より現職。香川県・直島、豊島、岡山県・犬島を自然とアートで活性化するプロジェクト(ベネッセアートサイト直島)を30年以上にわたって指揮。電気自動車普及協会名誉会長などを兼任。

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Text=藤崎美穂 Photograph=斎藤隆悟 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=COCO(関川事務所)


滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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