ワクチンがなくても開催する!? 誰のための何のための東京五輪

各界のトップランナーたちのコメントには、新時代をサバイブするヒントが隠れている。当コラムでは、ビジネスパーソンのための実践言語学講座と題して、注目の発言を独自に解釈していく。最終回、いざ開講!

「とにかく、どんなことがあっても、来年は必ずやります」―――来夏に延期されている東京オリンピック・パラリンピックについて、組織委員会の森 喜朗会長

リーダーの力強い言葉と聞こえなくもない。だが、今このコロナ禍の現状でそんな言葉を聞いても疑問しか湧いてこない。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森 喜朗会長が自民党細田派のパーティで、来年夏に延期されている大会について、開催可能だとの認識を強く示した。

「とにかく、どんなことがあっても、来年は必ずやります」

「何から何まで全部、今、細かな詰めをしていまして、どんなことがあっても、必ずオリンピックは開かれます」

この言葉の背景には、22日に国際オリンピック委員会のバッハ会長がオリンピック関係者にあてた書簡で「ワクチンがなくても、大きなスポーツイベントを安全に運営できる」と述べたことがあるのだろう。森会長は、25日に開催された組織委員会とIOC調整委員会の合同会議でもこう述べている。

「大会を必ずやるという決意はしている。新しい日常の中で、世界規模イベントのロールモデルを示し、人類のレガシーとしたい」

IOCもJOCも、日本で新型コロナウイルスの蔓延が止まらなくても、世界でそれ以上のパンデミックが広がり続けていても、「とにかく、どんなことがあっても」「ワクチンがなくても」、東京大会を“強行”する気まんまんなのだ。ちなみに森会長は、7月にはNHKのインタビューで五輪実施の重要な要素についてこう答えている。

「コロナが収束していくことだろう。具体的に言えば、ワクチンや薬が開発されてきたとかいうことが第1のポイントではないか」

「今のような状態が続いたらできない」

7月からどのくらい状況が変わったというのだろうか。変化があったとしたら、コロナ禍での生活にみんなが慣れてきたことくらいだろう。世界中で行われているワクチンも特効薬の開発もいまだ成功の声を聞かない。しかしこの段階で会長自らが「とにかく、どんなことがあってもやる」と発言したことが関係者に与えたプレッシャーはかなりのものだったと考えられる。

2017年、安倍晋三前総理が森友問題に関して、「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」と発言したことで、財務省による文書改ざんが行われ、それを苦にした職員の自死にまでつながった。責任のある人間の“断言”は、それだけの力を持つ。自らの意思を示すのはいい。だが、その断言、強弁が何を引き起こすのかということまで考えてほしい。

誰のための、何のための東京五輪なのか。少なくとも開催に関しては、もっと国民の意思を確認すべきだろう。権力者の強引さが目立てば目立つほど、国民の五輪への関心は薄れていくということをもっと認識すべきだ。


Text=星野三千雄