【起業家インタビュー】シナモン平野未来 「AIでホワイトカラーの仕事を変えたい!」

かわいらしい社名とは裏腹に、最先端のテクノロジーを駆使して、AIで仕事現場をもっと便利にしようとするのが、今ベンチャー業界で注目を集める企業、シナモンである。先日、約9億円の資金調達を達成し、ますます勢いが増す同社CEOの平野未来さんに、AIと人々が共存する未来について聞いた。


2度目の起業

現在の商品ラインナップは4つありまして、なかでも注力商品は『Flax Scanner』。申請書、Eメールなどの書類から情報を読み取り有意な情報を抽出し、新たなドキュメントを作成できるシステムです。対象書類は手書きでもデジタルでも構いません。現状は金融・保険業界で申込書や口座振替申請書に採用いただくことが多いですが、今後はデジタルドキュメントを扱うことも増えていきそうです。

そして、これから大きな伸びを見込んでいるのは、音声認識を扱うプロダクト。企業向けソフト『ロッサボイス』の開発が最終段階です。すでにスマートフォンなどに搭載されている音声認識機能もなかなかの性能なのですが、ビジネスシーンで使おうとすると正確性や商品名・業界用語の識別でやや厳しい面があります。そこを克服して、そのまま議事録を作れたり、コールセンターの記録作成に役立つものを提供できる予定です。

私たちが事業の目標に掲げるのは、ホワイトカラーの生産性を最大限に向上させること。ホワイトカラーがしている仕事を大別すれば、メインは書類作成および人と話すことになると思います。ということは、ドキュメント作成と音声認識の分野を押さえられたら強いはずだと考えて、商品ラインナップを築いています。

AI関連の事業を始める以前はアプリ開発ビジネスをしていたのですが、そのころから技術力・開発力には定評をいただいておりました。そこは現在に至るまで、明確な強みになっていますね。

CEOの私と、CAIOを務める堀田 創はもともと、大学で人工知能を研究していた人間です。技術・知識的なバックグラウンドがあったことが、事業の展開に大いに生かされているのは確かです。それに、社会の追い風を受けていることも感じますよ。いまは明らかにAIが注目を浴びる分野になっていますからね。

実は、私が会社を起こすのはこれが2社目。最初は2000年代で、学生という立場のままでの起業でした。いまと同じように人工知能を使ったプロダクトを売ろうとしたんですが、これがまったく売れませんでした。時代より先に行ってしまったといえば聞こえはいいですが、つまりはタイミングを図るということを知らなかったんです。それで当時は人工知能をあきらめ、いったん方向転換をしました。社会の動きを知り、しっかり読みを働かせることが事業には不可欠だと学びましたね。

日本の大企業の方が人工知能に対して、売上をアップさせたりコストを下げたりといった数字に直結する働きを、大いに期待していることは強く感じます。ときに『なんでもできるんじゃないか』と過剰な期待を持たれてしまうこともありますが、関心の高さは本当にすごいのでうれしいかぎりです。

ベトナムにAIラボを設立


私が学生時代を過ごした2000年代は、グーグルが勃興し隆盛を極めていくころでした。それまでのインターネットの世界はまだまだタウンページを電子化したくらいのものだったけれど、興味のあること検索すれば一瞬であらゆる情報が出てくるようになって、こんなに便利なことはないと実感しました。

自分のしていた研究もたまたま、グーグルのアルゴリズムとかなり近しい内容でした。ひょっとすると、この研究や知識がそのまま社会的インパクトの大きいビジネスに使えるんじゃないか。あるときそう気づいたんです。人の生活のありようを、根本的に変えられるようなプロダクトをつくっていけたらおもしろいと強く思いました。

商売をやっている家系ということもありましたし、グーグルを立ち上げた人たちも学生時代に起業しているので、やってやれないことはないだろうと踏みました。始めてみると、うまくいかないことだらけでしたけれど。先の話のように、まったく売れないプロダクトをつくってしまったこともありましたし。それでも、とにかく受け身では何もできないんですよね。

10数年続けてきて強く思うのは、事業にはやはりタイミングが大事だということ。事業の成功の8〜9割は、タイミングの問題なんじゃないでしょうか。世の中、常にイノベーションは起きています。ここ15年を見ても、スマホが出てきてスマホアプリ全盛期になり、そのあとにソーシャルゲーム、これが落ち着くとAIやVRへと潮流がはっきりしていて、それにうまく乗っていると成功の確率が全然違います。

もちろん流れを見極めたうえで、いいプロダクトがつくれないといけません。アプリでもソーシャルゲームにしても、いろんな事業者がありましたが、勝ち残るところは少数だったものです。

人工知能の世界では、どれだけいい技術を生み出せるかは、いいエンジニアがいるかどうかにかかってきます。AIエンジニアの質と量が勝負です。ところがAIエンジニアは極端に数が少なく、日本にも限られた人数しかいません。そこで私たちは、ベトナムにAIラボを持つことになりました。

なぜベトナムか。プログラマーの数が、日本とベトナムでは全然違うんです。たとえば東京大学で情報系の学科を選択しているのは、全学生の1%ほど。一方でベトナムのトップに君臨するハノイ工科大学やハノイ国家大学では、約3割が情報系を選択しています。その背景には、エンジニアに対するイメージと待遇の差があります。

日本では、プログラマーになるというのは必ずしもかっこいいイメージではありませんよね。ベトナムでは、文系なら官僚になること、理系ならプログラマーになって外資系企業で働くのが成功への道になっています。社会背景がまったく違うんです。実際、ベトナムのエンジニアはたいへん優秀でクオリティが高いのです。

ベトナムに事業進出するというのは、一般的にはコスト削減のためというのが多いでしょうが、私たちはより有為の人材獲得のためにベトナムへ進出しています。

出産を機に、働き方を変える必要性を再認識

「ホワイトカラーの生産性向上」に寄与するプロダクトを生み出す、それがシナモンの使命となっていますが、この方針は立ち上げ当初からすんなり見出せたものではありませんでした。当初はAIコンサルのようなことをしていて、その頃に私が第一子を出産しました。子どもができると、自分の仕事の意義みたいなものを改めて問い直したくなります。社会をよりよい方向にしていくものをつくらなければいけないんじゃないかと、強く思うようになったんです。

今の私たちの働き方って、まだまだ改善したいところがありますよね。たとえば長い時間満員電車に揺られなければいけないとか、無駄に長時間労働してしまっていたりとか。自分たちの子どもが大人になるころまで、同じような問題を放置しておくのはいけないんじゃないか。

そこで自分の会社の方向性として、ホワイトカラーの生産性を向上させることを明確に目指そうと考えました。最終的なゴールとしては、世の中から面倒ごとをすべてなくすことです。私も仕事自体は好きですが、付随する面倒ごとはやっぱり嫌だなと思います。そういうことをテクノロジーで解決していければ、誰もがもっとハッピーに働けて、自分や家族との時間をさらに楽しめるようになるはず。そんな未来を思い描いています。

現在は大企業のお客様が多いのですが、世の中のすべての仕事から面倒ごとをなくすという理念に照らせば、もっと幅広い方々に使っていただけるプロダクトを提供していかねばなりません。

もちろん海外展開も推し進めたい。私たちにとって日本はテストマーケットの場。ここでプラットフォームを改善していって、さらに使いやすい・売りやすい商品にしていき、文字どおり世の中のすべての人を対象としたサービスを提供していけたらと、心から思っています。


●座右の銘
「夢をアップデートしていく」。いまの私が描けるマックスの夢と、1年後の私のそれは、自分がちゃんと成長しているならば当然違ってくるはず。ならば夢も定期的に更新していかないといけませんから。

●座右の書
『MBAでは教えない「創刊男」の仕事術』くらたまなぶ著


Miku Hirano
1984年生まれ。シナモン 代表取締役CEO。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事し、'08年に東京大学大学院修了。在学中にネイキッドテクノロジーを創業し、iOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をmixiに売却し、’12年にシンガポールにてシナモンの前身であるSpicy Cinnamonを創業。人工知能に関連するプロダクトの開発やコンサルティングを行う会社。
シナモン
2016年設立。平野未来氏が、堀田創氏、家田佳明氏と日本で共同創業。従業員数は、現在約80人。日本、ベトナムにオフィスを構え、ベトナムでは50名以上のエンジニアが在籍する巨大なラボを運営する。株主は、FinTechビジネスイノベーション投資事業有限責任組合、SBIベンチャー投資促進税制投資事業有限責任組合、FFGベンチャー投資事業有限責任組合第1号、伊藤忠テクノソリューションズ、サイバーエージェントベンチャーズなど。’19-'20年のIPOを視野に入れ、事業を拡大中。
http://cinnamon.is/

Text=山内宏泰 Photograph=太田隆生