サッカー アルベルト・ザッケローニ 自分のスタイルを押しつけず選手にアジャストする

いよいよブラジルワールドカップ開幕まで3カ月を切った。サッカー日本代表を牽(けん)引するイタリア人指揮官でプロフェッショナルサッカー監督であるアルベルト・ザッケローニ氏にリーダーとしての心得を聞いた。

 スイス・ジュネーブ。1月に開催された新作時計市SIHHにアルベルト・ザッケローニ監督はゲストとして招待されていた。招待主はザッケローニが常に身につけている時計ブランド「IWC」だ。
 インタビューと撮影の設定は、16時からの45分間。ジュネーブ市内の高級ホテルの一室で監督の到着を待った。IWCのスタッフ曰く「部屋で一旦、休んでから来ていただきます」と話していた。
 インタビュールームの外で待っていると16時きっかりに彼はやってきた。いわゆるイタリア人的な時間のルーズさはない。廊下で顔見知りの日本人と東京でお気に入りのピッツェリアの話をしてから、リラックスした表情で部屋に入ってくる。
 今号の表紙撮影では「監督のキャラクターとは少し違うかもしれないのですが、自信と牽(けん)引力を感じさせる写真にしたい」というオーダーに応えてくれた。
 撮った写真をパソコンで確認しながら、「怒ると、ここ(口角あたり)に出るんだよね」と監督は笑っていた。

──今回は時計の聖地、スイスでのインタビューです。まず時計に対する監督の考え方を教えてください。

「時計というのは自分のキャラクターを投影するものだと思います。毎日使うものなので、自分らしいものを身につけたい。IWCは自分のパーソナリティに合っている。エレガントな時計でありながら、悪目立ちする時計ではないし、カッコつけてつけるような時計でもない。そこがとても気に入っています。例えば洋服は100%フィーリングが合わなくても、そんなに気にならないんですけれど、時計の場合は自分に100%合わないと嫌なのです。朝、起きたらすぐに時計をつける。時計をしていないと、たとえ服を着ていても、裸でいるような感じでなんだか落ち着かないんです(笑)」
 時計に対する言葉ひとつひとつをとっても、謙虚でありながら、芯の強そうなザッケローニ監督の性格が伝わってくる。
 2010年。南アフリカワールドカップで予選リーグを突破し、ベスト16進出を果たした岡田ジャパン。その後、日本代表を率いることになったザッケローニ監督は、異国・日本で結果を出し続け、着実にチームを進化させてきた。
 アジアカップで優勝し、そして、日本サッカー協会から託されていた『ブラジルワールドカップ出場』の権利を得るという任務も達成した。
「物事の考え方とか、メンタリティは、日本人とイタリア人では全然違う。最初はどこが違うのかを理解しよう、感じようと努めました。そして、ピッチ外のこと。例えば、食べ物やミーティングの時間設定などの文化的なものは絶対に変えちゃいけないと思ったので、そこは日本式に従い、ピッチでのみ自分なりのコーチングをするように心掛けていました。日本に来てすぐわかったのは日本の選手はみな監督やコーチをとても尊重してくれる。そして『みんなで勝利を掴(つか)みたい』というチームワークの意識がとても強かったんです。私の経験では選手がコーチのルールを守らない、ドクターがコーチのルールを守らないとか、そういう規律面での問題が多々あったんですけど、日本ではそれが全くない。自分の仕事に100%フォーカスできないというのは非常に残念なことなので、この点はストレスがなくて助かっています」

幼少時代、瓶の蓋を選手に見立ててフォーメーションを空想するのが好きだったそう。監督の代表的な戦術「3-4-3」をチェスで見立ててみると、「もう少しディフェンスラインの幅を絞りたいね」と修正。時計はIWCの「ポルトギーゼ・オートマティック」¥2,290,000(IWC TEL:03-3288-6359) 衣装協力:ダンヒル

──ザッケローニ監督のやり方を見ているとひとりひとりに対してしっかりコミュニケーションをとるという印象があります。

「私の仕事は対『選手』と話すことだけじゃなくて、対『人間』と話す必要がある。だから、ひとりひとりとできるだけ深い人間関係を築きたい。そのやり方は当初(日本では)驚かれましたけど、単なる命令を出すだけではなく、自分の意図を理解してもらうためには、必要な手法だと思います。選手というのは、監督が言っていることが理解できると個々の動きもチーム全体の動きも明らかにスムーズになるんです」

──監督が就任してから約3年半が経過した。長い期間、同じチームを指揮すると、当然チームのパフォーマンスや士気が下がる時もあったと思います。

「昨年の10月あたりは少し結果が出なくて、選手は自信がなくなったかもしれないけれど、『あまり深く考える必要はない』と伝えた。それよりも『結果が出ないのは理由があるわけだから、しっかり分析しよう』と伝えました。冷静に明確に分析できれば、立ち直ることができるものなのです」

──監督は20代の頃、実家のホテルの運営をしながら、監督を志していました。やがてウディネーゼで旋風(※イタリアのセリエA一部に昇格したばかりのチームを攻撃的サッカーでリーグ3位という好成績に導いた)をおこし、名門ACミランでリーグ優勝を果たすなど、監督として結果を積み上げてきた、いわば“たたき上げ”です。トップに立つものとして、常に心がけてきた信念はありますか?

「監督にもいろいろなタイプがいる。自分の絶対的な『型』があって、そこに選手を当てはめる人もいます。私の場合は、選手のプレイの特徴や力量を見て、自分のコーチングの考え方を変えるようにしてきました。あとは、チームのパフォーマンスが悪くても選手のせいには絶対にしない。これは選手にも常々言っています。最後の責任は監督である自分がとるべきだからです」

──最後に。6月のブラジルワールドカップについて聞かせてください。

「もう4年間、頭の中ではブラジルのことを考え続けています。まだ5カ月(※インタビューは1月に行われた)もあるので先は長い。よく(選出する)23人の選手は決めました? と聞かれるんですけど、そんなことは絶対にない。試してみたいこともあるし、やるべきことはたくさん残っている。ブラジルではできるだけ上、トップまで登りつめたいので、努力を重ね、気力を振り絞ってワールドカップに立ち向かいたいと思っています」
 日本人のことを深く理解しながらチームを熟成させてきたザッケローニ監督が、大会本番まで、どのようにチーム力を高め、戦い抜くのか、その手腕に期待したい。

Alberto Zaccheroni
イタリア・ロマーニャ出身の60歳。
実家のホテルの仕事を手伝いながら、指導者の道を志す。30歳で当時セリエC2のチェゼナティコの監督に就任。その後、ウディネーゼ、ACミラン、インテルなどの名門の監督を歴任。1998-99年シーズンにはリーグ優勝を達成した。2010年から日本代表の監督に就任し、アジアカップ制覇、ブラジルワールドカップ予選を突破するなど結果を出し続けている。

Text=二本柳陵介(ゲーテ編集部) Photograph=峯岸進治

*本記事の内容は14年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい