【滝川クリステル対談】北極冒険家・荻田泰永「努力も根性も、キツイこと大嫌い!」

2018年1月6日に、日本人初の「南極点無補給単独徒歩到達」に成功した荻田さん。 極限の状況を乗り越えるための秘訣は、ただただ思考することにあった。


深掘りしていくうちに「北極バカ」になっていた

滝川 荻田さんとは同じ'77年生まれですね。初めて北極に行かれた2000年は、私がアナウンサーになった年でもあります。当時は閉塞感というか独特の雰囲気があった気がして、同級生には面白い人が多いなと思っているんですけど。初海外旅行で北極に行く方はあまりいない気がします。その後、計15回の北極行、そして2018年には日本人初の南極点無補給単独徒歩到達成功という偉業も。

荻田 北極と南極しか知らないんです。ハワイとか行ってみたいけど、溶けちゃいそうで。

滝川 えっ、他の国はなし?

荻田 行動力ないんです。あと、あまのじゃくだから(笑)。特に目的もなく大学を中退して、たまたま見ていたテレビ番組で冒険家の大場満郎さんを知ったんです。凍傷で足の指10本、手の指2本ないというような話をしていて、なんだこの人すげえなと思って。講演会に行って帰ってから手紙を書いて、大場さん主催のカナダの北極圏を700キロ、35日間歩く企画に参加したのがきっかけですね。

滝川 それまで北極に興味があったわけでもないんですね。

荻田 全然。北極どころか海外にもアウトドアにも興味なかったんですけど。当時の自分って、持て余しているエネルギーをどこに向ければいいのかわからなくて悶々としていたんですよね。そこへ大場さんという自分のエネルギーの向け場所をわかっていて、かつ実践している人を知り、惹かれたんだと思います。

滝川 次の年にはひとりで。

荻田 バイトしかない日常にすぐに戻り、また悶々として今度はひとりでどうにかしようと。でもビビリなので知らない場所は怖い。となると選択肢が北極しかなかった。バックパックでアジアとか、身ぐるみ剥がされそうでとても無理だなと。

滝川 確かに北極には、強盗はいないかもしれませんが……。

荻田 ホッキョクグマに至近距離で遭うという別の怖さを味わうんですけどね。でも回を重ねるごとに北極に魅せられていったんです。イヌイットと一緒にアザラシやトナカイ狩りに行ったり。日本では経験できない物事に好奇心をすごくかき立てられる。イヌイットの生活や野生動物たちの季節ごとの変化が気になりだすと、また北極に行きたくなる。その繰り返しで今にいたる感じ。もともと何でも深掘りしたいタイプなんですよ。そして北極はたまたま出合って、Fall in Loveしちゃったっていう。

滝川 恋愛と一緒なんですね。

何かを伝えるよりも感じる「場」を作りたい

滝川 これまで2回、無補給での北極点到達に挑まれていますが、3回目のご予定は……?

荻田 悩ましいところです。これまでの2回で北極海の実態をリアルに捉えられるようになりました。今は、命をかけて行くほどの燃える気持ちが身体の底から湧きあがってくるのを待っているところです。

滝川 無補給単独で北極点を目指す時、一番危ない瞬間ってどういう時なんでしょう。

荻田 北極海を歩くというのは、海水の表面が凍って2メートルくらいの厚さになっているだけで、その下はもう水深2000メートルの海水です。氷は海流で流されるし、風が吹けば動きます。あちこち割れて、重なり合ったり、まだ薄すぎて歩けない部分もある。薄いところは迂回する必要があるのですが、判断を間違うと海に落ちます。外気温がマイナス35℃とか40℃の環境でずぶ濡れになるというのは、まあ危険ですよね。

滝川 足元の氷が割れる……。

荻田 落ちたこともありますよ。逆にいうと北極海で絶対に安全な場所はありません。どんなに慎重に場所を選んでも、テントを張った真下が寝ている間に割れる可能性はゼロにはならない。幸い私は凍傷にもならず無傷で帰ってこられていますが。

滝川 過酷ですね……。無補給で達成した方はいるんですか

荻田 唯一’94年にノルウェーの冒険家が成功しています。ただし、その後25年間で、北極海の氷は急激に薄くなっています。同じ装備・手段ではもう到達できない。南極はそこまでの急変はないのですが、北極は短期間で激しい変化が起きています。世界はむしろ、北極海航路の動向に目を光らせていますよね。

滝川 ユーラシア大陸最北の沿岸部ですね。氷がどんどんなくなっている。

荻田 氷がなくなれば船が通れるわけで、ロシアは「どんどん溶けろ」と思っていますよ。

日本人初の無補給単独歩行で、50日間で標高2,800メートルを超える南極点に到達。その距離、1126キロにおよぶ。食料や燃料など、テントに積んだ重さ約100キロのそりを引きながら歩いた。

滝川 北極は注目されていますよね。荻田さんは北極へはどんなルートで行くんですか?

荻田 カナダの都市、オタワあたりで1泊すれば、翌日イヌイットの村に着きます。

滝川 3月には若者を連れて北極圏徒歩遠征をされるんですよね。かつてご自身が参加された、大場さんの企画のような。

荻田 20代前半メインに10数名を連れて、カナダ北極圏を600キロくらい歩く予定です。

滝川 春がベストシーズン?

荻田 海が一番ちゃんと凍って、歩きやすい時期は3月から5月ですね。私もいつもその頃に北極に行きます。夏は小学6年生を対象に、国内で「100milesAdventure」という、160〜170キロぐらいの距離をキャンプしながら歩くイベントをやっているんですよ。始めてから7年になります。

滝川 どんなルートですか?

荻田 毎年変わるんですが、東京駅から富士山の頂上とか、厳島神社から出雲大社とか、別府から熊本城とか。こういう活動をしているとよく「子供たちに伝えたいことは?」と聞かれますが、伝えたいことは特になくて、面白い場を用意したいだけです。世界は広く、70億人以上のいろんな価値観がある。私が何かをいいと思っても、それはごく一部の社会の常識でしかないので。子供たちは感受性豊かですから、各々が自分なりの感じ方をしてくれたらと。

滝川 あまり多くを言わず、なんですね。そのほかの季節はどんなことをされているんですか。

荻田 最初の頃は北極資金のために時給の高いアルバイトをかけ持ちしたり、情報を集めるために人に会いに行ったりしていたんですが。経験のストックができてきてからは、脳内のシミュレーションをしている時間が一番長くなりました。海流や海域も衛星写真で確認できる時代ですし。ずっと考えています。

滝川 先ほど海に落ちても無傷で、凍傷になったこともないとおっしゃっていました。万全の備えなんでしょうね。

荻田 メカニズムを把握していれば危険は防げます。痛いのもキツイのも、もっというと努力とか根性とか大嫌いなんですよ。ビビリですし。徹底的に考えるのも、とにかくきついことを避けたい気持ちが大きくて。

滝川 北極点を目指すって相当きついように思いますが……。

荻田 やりたいことと、そのためのオンライン上にあることならいいんです。例えば北極に行くために肉体労働のアルバイトをするとか、睡眠時間を削るとか、それはOK。そこにつながらないやりたくないことは、そもそもやりませんけど。

滝川 冒険家って仕事というのか、生き方そのものですよね。私も北極に行ってみたいと思っているんです。その時はぜひアドバイスをお願いします。荻田さんに聞けば安全に行けそう。

荻田 もちろん。北極はきちんと準備をすれば行きやすいし、地球環境や生態系の急激な変化もわかりやすい場所です。南極は基地しかないけれど、イヌイットの暮らしもあるから面白いですよ。ぜひ北極のファンになってもらいたいですね。


Yasunaga Ogita
1977年神奈川県生まれ。大学中退後2000年より15回の北極行を経験。カナダ北極圏、グリーンランドを中心に10,000km以上を冒険してきた。2012年より北極点無補給単独徒歩到達に挑戦。’18年には日本人初の南極点無補給単独徒歩到達成功。「2017植村直己冒険賞」受賞。「100milesAdventure」主宰。

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Text=藤崎美穂 Photograph=青木 渚 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=野田智子

滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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