【特集サイバーエージェント】藤田社長は10年後の未来の世界が見えているのか?

藤田 晋率いるサイバーエージェントは今年で創業20年。いまや社員数4500人以上、IT業界のリーディング企業だ。サイバーエージェントとはどんな会社か――という問いに対し、多くの人が「人材」の会社だと答える。そこでサイバーエージェントで活躍するキーパーソン8人にインタビュー。最終回は藤田 晋社長。サイバーエージェントの強さとは何なのか――。


「会社人間」こそが成長できる

人が資本、とりわけ採用が肝だ。そう人事担当役員・曽山哲人さんは明言した。人事が何より大切、という方針はサイバーエージェントを貫く哲学か。

「それは会社を始めたころから意識してきたことです。人材が集まる会社をつくらないと持たないだろうという確信は、最初からありました。いい人材が集まる会社は、例え不況になっても、なんとか耐えられる。だから何を措いても、やる気があって優秀な人を採ることを最優先にして、続けてきました」

採用の基準は「素直でいいヤツ」であるという。学歴や実績、課題を与えての得点といった数値で測れる指標に比べ、至極あいまいにも思えるのだが。

「絶対的な基準にしているつもりはありませんが、いつのまにか採用基準がそういう表現に集約されていって、根づいていたという感じですね。斜めにものごとを見ていたら、正解のない新しい市場で勝負することはできません。信じて、まっすぐに進んでいける人でないと、新しいことに取り組むことはできません。

それに、サイバーエージェントの仕事は基本的にチームでやるもの。『素直でいいヤツ』というのはつまり、チームの一員としてうまくやれる人という意味です。経歴や成績を見ると優秀そうでも、チームプレーができず成果を上げられない人はたくさんいます」

サイバーエージェントはすでに数千人規模の企業。そんなにたくさん「素直でいいヤツ」を見つけられるものなのだろうか。

「決してサイバーエージェントにいる全員がそうあるべきとは言いません。マジョリティが前向きでポジティブな人であればいい、と言う考えでいます。人が最も影響を受けるのは、結局は人。過半数がポジティブならまわりの人にもいい影響が及ぶし、逆にネガティブな人が多数派だと、そうじゃなかった人も染まっていく。

素直でいいヤツがマジョリティという状態を維持すれば、それは文化となって定着していきます。トップが強い統制力を持って方向を示すだけでは、文化は醸成されたりしないものです」

サイバーエージェント独自の文化とは、言葉にするとどういうものになるだろう。

「全体的に、若くてやる気がある雰囲気に満ちているのはたしかだと思います。

みんなのやる気を引き出すことは、非常に重視しています。そのためにできることは、全部やっているつもりです。表彰制度をつくったり、トピックメールを送ったり、積極的に褒め合う機会を設けたり、私も含め役員が頻繁に社員と食事に行ったり。社員のやる気のためなら時間もお金も惜しみません。

ただし、いま言ったのは細かいことで、大前提として、自分たちのやっている仕事が伸びていると実感できて、仕事に対する対価をしっかり得られること。それがしっかりあってこそ初めてやる気が出るものだというのは決して忘れてはいけません」

若手の大胆な抜擢や、失敗してもチャンスを与える方針も、やる気を引き出す施策ということになろうか。27歳で執行役員になった山田陸さんは「役職に育てられた」と言い、内定者社長として話題になった飯塚勇太さんは現在、新規事業開拓を牽引する立場にいる。女性初の執行役員、横山祐果さんはゲームにインターネットTVとジャンルを超えてヒットを飛ばすプロデューサーで、当初は英語を話せなかった岡田寿代さんが海外展開を統括する……。抜擢を受け、チャンスを得て活躍する例は枚挙にいとまがない。

「若手を抜擢する狙いは、育成目的が半分、ポテンシャルと勢いに賭けているところが半分です。抜擢された人は、自分に足りていないことを認識しており、そこを埋めようと猛烈にがんばるので、急速に成長します。それは自分の経験からも断言できます。もちろん若いから失敗もしますが、必ず次のチャンスを用意します。絶対にその失敗は生きるはずですから。

もちろん、他の追い越された人がふてくされたりする懸念はあります。それでもメリットとデメリットを天秤にかければ、メリットが上回るのは明らかです。若手抜擢のように反発も予想される施策は、やり続けるということが肝要です。突然始めたりすると前例がないなどと言われるし、たまにしかやらないと悪目立ちして不満が出るものです。

基本的に、インフラ以外のインターネットに関わる領域でチャンスがあるものにはどんどん参入しています。社員からあがる、こういった事業をやりたいという声も聞いています。テイストにこだわりはありませんが、ただし、クオリティは厳しくチェックします。クリエイティブで勝負する会社になると宣言し、社内で生まれるサービスについてはクリエイティブ担当執行役員の佐藤洋介とともに、私自身が漏れなく見ていきます」

サイバーエージェントで活躍している人材には、共通点があるだろうか。

「やはり、やる気のある人ということになるでしょうね。それに、会社が好きな人ということも言えそうです。自分が自分が、というタイプよりも、結局はフォア・ザ・チームの精神を持っていて組織への貢献意欲が高い人のほうがパフォーマンスは高い。

よく『会社人間』というのはバカにされがちですが、その見方は間違っています。少なくともサイバーエージェントでは『会社人間』的な人こそ伸びていく。そういう意味でもこの会社は、若くて新しいことをやっている会社である一方で、じつは日本の風土に合わせた企業経営をしています。

高度経済成長期の自動車産業や電機産業の雰囲気に、おそらくはかなり近いのではないでしょうか。成長産業の中の成長企業で、日本の風土に合ったやり方を模索し、そこで社員がいきいきと働いています」

経営者として有望な事業を見出していくのも、伸びる人材を見つけ出すのと同じ方法を用いているのだろうか。

インターネット広告事業からブログサービスを立ち上げ、さらにはスマートフォンへのシフトを経て、現在ならAbemaTVに注力。新しい分野に平然と飛び込み、次々成功させていくさまを目の当たりにすると、藤田社長は常にさぞかし10年後の世界が「見えている」のかと思えてくるのだが……。

「私ができるのは、ごくありきたりな予測だけです。ただ、会社を経営する身としては、あたかも先々が見通せているようなそぶりをしておくのは、けっこう大事なことでもあります。『ああきっと社長には見えているんだ』と思わせたほうが、社員は安心して新しい仕事に取り組めるでしょうからね(笑)。

例えば、いずれフィーチャーフォンからスマートフォンに変わっていくのは明白だけれども、足元はまだPCやフィーチャーフォンの売上が圧倒的に多いと、それを捨ててスマートフォンにシフトする判断がなかなかできない。そこを判断できるかどうかは単に度胸や勝負勘で、見通せているのとは違います。これから起こることについて、もちろん人が慣れるのには時間がかかるから、どれほどのスピード感で実現するかはわかりませんが、そうした変化を虚心に見ていれば、誰にだって未来は予測できるはずです。

しかし、先入観や目先の事象にとらわれる、基本的なところをつい見失ってしまう。だからこそ、当たり前のことをありのままに見る、そこは心がけています。

麻雀でもなんでも、勝負事は8割、9割勝てるとなったら、誰でもそこに賭けますよね。しかし、ビジネスでは多くの企業が1割、2割のリスクをとることができずに勝負できない。私がやっているのは、ただそれだけのことです」


Susumu Fujita
1973年福井県生まれ。’98年にサイバーエージェントを’創業し、2000年に当時、史上最年少社長として東証マザーズに上場。「21世紀を代表する会社を創る」を会社のビジョンに、インターネット産業において高い成長を遂げる。新経済連盟 副代表理事。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』、『起業家』、『仕事が麻雀で麻雀が仕事』がある。


Text=山内宏泰 Photograph=太田隆生


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