高橋一生 心地よく“見栄を着る”ということ

役柄によってその印象をまったく変え、摑んだと思った瞬間、すでにその指先からすり抜けている。そんな俳優、高橋一生の心地よい裏切りに、見る者は戸惑いつつも魅了され、次への期待を高める。時代を駆け抜ける役者の思う、演じるということ、そして見栄を着るとは。

「役の後ろに隠れていたい。登場人物でありたいんです」

 この夏、政次ロスとまで騒がれた大河ドラマ『おんな城主 直虎』、対して新作映画『リミット・オブ・スリーピング ビューティ』ではまるで幻想にも思える役柄を演じた。その対極のようなキャラクターに血肉を与えるのが高橋一生(いっせい)さんだ。だが意外にもそれぞれの役に向き合う瞬間は"諦め"から始まるという。

「蜷川幸雄さんのおっしゃった『いつかなり得た自分』という言葉が僕にとって揺るぎないものになっています。極端にその役にジャンプするのではなく、別の人間にはなれない諦めを前提に、咀嚼(そしゃく)し、より近づいていくという姿勢です」

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 そしてそんな自分とはものすごく小さくて密度の濃い存在、と言葉を続ける

「自分という存在を膨らませなければ、役になっていくうえで人間性が邪魔することもありません。ただし中心となる核は密度を濃くすることで、量子のように細かく、力強く動くことができる。瞬間的に反射する感じです。それが外殻(がいかく)を広げていく。反射というと受動的なようですが、じつはそこに自分の本質が出るとも思います」

 そう語る高橋さんは、演技ではなく芝居という言葉を使う。

「演技とは演じる技であり、あくまでもベースであって、最終的には芝居という芝の上に居るような自然体に到達しなくちゃいけない。僕は役の後ろに隠れたくて、むしろそのために演技を使うこともある。でもだからこそ核心となる部分はブレないよう大事に持っておかないと」

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「この役と一緒にいたいと思える瞬間がすごく幸せです」

 そうして生まれたキャラクターは「ずっとこの役と一緒にいたい」と思うほどだそうだ。

「たぶん自分のなかにフィードバックできる人格だからでしょう。それはドラマも映画も変わりません。これまでの人生で得たものを役に与え、そのフィードバックが僕の人格のひとつとなり、さらに役に注がれる。そのサイクルなんです。芝居をしていて虚実ない交(ま)ぜになってしまう感覚がとても楽しい。実際の体験ではなくても、『以前愛する人から槍で刺されたんだ』みたいな(笑)。そうした外圧によって密度を高める一方で、僕というものはどんどん小さくなりたいと思うんです」

高橋一生さんにとって"見栄"とは何ですか?

 多彩な役柄と同様、高橋さんはプライベートでも多趣味であり、ファッションにも一家言(いっかごん)ある。その基本は気持ちいいかどうかというフィルタリングという。そんな高橋さんにとって"見栄を着る"とはどういうことなのだろうか。

「見栄という概念自体が僕にとっては背伸びという感覚ではないんです。気持ちのいい服を着た時って自ずと見栄が切れている。ビスポークのスーツを着た瞬間もそうです。信頼しているテーラーでいつもお願いするのですが、お互いがぶつかって何か面白いものができるという期待とできあがった時の満足感。着ていても気持ちがとても上がる。

ジャケット¥460,000、パンツ¥130,000、ニット¥80,000(すべてジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03-6274-7070)

 それは自分のライフスタイルに裏打ちされているものであり、自分がこうなんだと再認識することでもあるからなんでしょう」

 たとえスーツでも基本は地べたに座れるものであって欲しいと思う。それが何よりも自分が心地いいから。

「見栄で着て、汚れるのが嫌だなんて思ったら、違ったものになってしまいます。僕にとって見栄というのはストレスではなく、心地よさ。見ている人もやっぱり格好いいと思うはずで、それがすごく大事だと思います」

 さてスタジオでの雑談中、スケートボードが話題に上ると「僕、ボード持ってますよ」と高橋さんが声を上げた。小学生の頃から続けている趣味だ。急遽クルマから持ってきていただき、撮影することに。

 ボードを手にした瞬間、それまでの役者の顔から変わった。スケートボードに乗った高橋さんが軽やかに時代を疾走する姿が思い浮かぶ。だがそのしなやかさとは裏腹に、何ものにも揺るがぬ体幹、そして意志を秘めていることを僕らは感じた。

「見栄とは背伸びではなく、心地よくあること」
ジャケット¥460,000、ニット¥80,000、パンツ¥130,000(すべてジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03-6274-7070)

『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY 
リミット・オブ・スリーピング ビューティ』
26歳にして40本以上の自主映画を手がけた二宮健監督の商業映画デビュー作。現実と妄想が交錯する物語に、スタイリッシュな映像美が絡む。桜井ユキの初主演であり、そのミステリアスな恋人役を高橋一生が演じる。
原案・脚本・監督:二宮 健
出演:桜井ユキ/高橋一生ほか
配給:アーク・フィルムズ
10月21日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

Issey Takahashi
1980年東京都生まれ。多くのキャリアを重ね、ドラマ『民王』『カルテット』『おんな城主 直虎』などで今、最も注目される俳優に。現在ドラマ、映画、舞台に幅広く活躍する。この秋も『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?』(フジテレビ)、NHK連続テレビ小説『わろてんか』、海外ドラマ『THIS IS US 36歳、これから』(NHK総合/主人公の声)など出演作が目白押しである。


Direction=島田 明 Text=柴田 充 Photograph=若木信吾 Styling=藤永祥平 Hair & Make-up=田中真維

*本記事の内容は17年9月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)