【中村俊輔】未来のビジョンは監督。「一番下のカテゴリーから仕事をしていきたい」

数々の称号を得て、今も現役を続ける天才レフティ中村俊輔。現在、J2の横浜FCに所属する彼に、何を想い、何を求めて、ボールを蹴り続けるのか、独占インタビューを行った。短期連載第3回。

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ブラジルで小学生年代の育成から学びたい

現役を引退したあと、指導者になりたいと考える選手は多い。自身が重ねた経験を日本サッカー界へフィードバックさせることが、恩返しになるとも考える。Jリーグ発足後30年あまりの時間が過ぎて、Jリーグを経験した監督が増えてきた。森保一現日本代表監督もそのひとりだ。

現役時代のキャリアは、監督業で活きる場面も確かに多いけれど、同じサッカーに携わる仕事でも選手と監督とでは、必要な能力、知識などが変わる。世界のサッカー界と同様に日本でも、指導者になるためには、ライセンスが必要で、引退後にはライセンス取得のための講習会などを経なければならず、引退即監督というわけにはいかない。選手の年齢に応じたさまざまなカテゴリーで経験を積みながら、監督としての学びが必要性だと中村俊輔は考えている。

もちろん、中村も自身の未来のビジョンに「監督」という仕事を掲げている。さまざまな監督のもとでプレーしながら、監督が選手にかける言葉など、その振る舞いに興味を持ち続けた。監督の手腕は、戦術眼やそれの言語化だけでなく、選手の心を動かす掌握術が重要だと考えているからだろう。そこでは現役時代のカリスマ性が活きることもあれば、現役の経験が役に立たないこともある。

「自分が監督になりたいから、その勉強のために……というわけではないけれど、純粋に監督の言動は気になる。チームメイトにかける言葉にも耳を傾けるというのは、若い頃からずっとやってきたことでもあるんだけれど」

高校を卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)へ加入したときの、スペイン人のハビエル・アスカルゴルタ、アルゼンチンのレジェンド選手だったオズワルド・アルディレスやセルティック時代の元スコットランド代表のゴードン・ストラカンをはじめ、代表でもフィリップ・トルシエやジーコ、イビチャ・オシム、岡田武史など様々なタイプの監督のもとでプレーしている。

「アルディレスやストラカンは、僕が質問しても『そんなこと考えなくていい。思うようにプレーすれば問題ないから。お前のプレーを見ていると楽しいし、お前のようなサッカー小僧が大好きなんだ』と言ってくれた。きっと、現役時代を思わせるような夢を持ち、エネルギーに満ち溢れている選手はのびのびプレーさせるべきだと考えていたんだと思う」

高い自由度を与えることで、強い自覚と覚悟を促し、成長できる選手を見極めたに違いない。かたや厳しい規律を敷いて、すべての選手を管理下におき、スター選手を毛嫌いするような指揮官もいる。常にメディアの関心を集め続ける中村は、監督の性格を認識しつつ、自身の振る舞いにも気を使ったに違いない。選手として生き残るためには、監督のタイプを見極める力が欠かせない。だから、中村は監督を知るため、彼らの言葉に注力する。それと同様に監督も選手たちの性格を見極めて、指揮を執らなければならない。そういう意味での人間力が問われる仕事だ。

「欧州の選手たちはみんな我が強い。それは教育を見ればわかる。日本では規律を重んじ周囲と同じ行動が重んじられるのが自然だけど、欧州では、組織からはみ出すほどの個性が評価される。だから、自然と自己表現力が身についている。そういう選手たちをまとめていくのは一筋縄ではいかないと思うよ」

だからこそ、現役時代とは違う思考が必要なのだろう。

「Jリーグにも外国人選手はいるし、日本人選手でも、選手ひとりひとりの個性や能力も違う。自分が描く戦術や求めるプレーを伝えるうえでも、相手は自分とは違う人間だから、同じ解釈でやろうとしても、伝えられないと思う。指導者ライセンスを持っていても、ヨーロッパで指導法を学んだといっても、いざ監督になったときに、イメージ通りのチーム構築ができるわけじゃないし、セオリー通りにやっているだけでは、ゲームプランを実行させることもできないし、選手を伸ばすこともできないと思う。だから、監督をやるとなれば、選手時代に自分が経験していたことだけじゃ、まったく足りない。だから監督になったら、選手時代に『こうしたほうがいいはず』と感じていたことは、ほとんど間違いだと思ってやらないといけないと考えている」

とはいえ、選手時代に数多くの現場を経験することは無駄になるわけではない。いろんな性格や能力を持つチームメイトと闘うことで得られる学びは多いし、選手として見る監督の姿は、自身が監督になったときの指標のひとつにはなるだろう。

「世界へ出ても戦っていける選手を育てたいという気持ちを持っているけれど、選手を育成するだけが監督の仕事じゃない。仕事場を手にするためにも、そしてその仕事を長く務めるためにも、チームを勝たせなくちゃいけない。成績が悪ければ、まず解雇されるのは監督だからね。勝つためには自分のサッカーに選手を染めることも大事だし、試合で起用できない選手たちのモチベーション維持にも気を配らなくちゃいけない。数多くの仕事を担うなかで、自分ひとりでできないことは、スタッフに託す必要もあるだろうし、そういう意味ではスタッフとの関係性も重要だと感じる。だからこそ、高度な戦術を持っている戦略家としての能力だけでは、監督は務まらない」

現役選手として、さまざまなチームで経験を積むのと同様に監督としても、多くの現場を体験したいと中村は考えている。

「いきなり、プロのトップチームで仕事をするんではなくて、たとえば、一番下のカテゴリーから仕事をしていきたい。小学生年代なら、ブラジルで学びたいとも考えている。やっぱりブラジルはサッカーの原点だと思うし、サッカーが染みついた国での子どもたちを見てみたい」

現役時代はエリートとして歩み続けた中村だが、指導者としては未知数だ。はたしてその能力があるのかも今はまだわからない。そして、その道を踏み出すのはまだ先の話だ。今、中村は現役としての戦いに没頭している。

続く

Shunsuke Nakamura
1978年神奈川生まれ。横浜F・マリノス、レッジーナ、セルティックFC、RCDエスパニョール、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田を経て、現在横浜FC所属。日本代表98試合出場/24得点。


Text=寺野典子 Photograph=杉田裕一



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