【起業家インタビュー】ABCash児玉隆洋 「日本人はもっとお金に強くなるべき」(前編)

「老後に2000万円が必要になる」という金融庁の審議会報告書に、ショックを受けた人も多いのではないか。さらに、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、将来のお金に対する不安は日々増している。そんな状況下で注目を集めているのが、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」。専属のファイナンシャルコンサルタントが資産形成について、3カ月間のマンツーマントレーニングを行ってくれるという新しいサービスだ。今、なぜお金について学ぶ必要があるのか。ABCash Technologies代表の児玉隆洋氏に聞いた。

サイバーエージェントを経て起業

2007年にサイバーエージェントに入社し、Amebaブログの立ち上げやAbemaTVの広告開発など、刺激的な仕事を担当させていただきました。ただ、私はそもそも「独立ありき」だったんです。サイバーエージェントを志望したのも、大学時代に藤田晋社長の著書『渋谷ではたらく社長の告白』を読んだのがきっかけ。いつかは藤田社長のように大きな会社を作り、社会の役に立ちたいな、と。その実現のためには、藤田社長の下で働くことがいちばんの近道だと思いました。

サイバーエージェントで働き始めて、藤田社長は改めて魅力的な方だと感じました。入社前は藤田社長が語る大きなビジョンやストーリーに惹かれていましたが、一緒に仕事をするようになって人としての緻密さが見えてきた。社員ひとりひとりをすごく大切にしているんです。

私がAmebaブログの責任者だったころ、藤田社長と会食する機会がありました。出していただいたワインが、たまたま自分の生まれ年と同じ年。「僕の生まれた年ですよ」と言ったら、藤田社長は「児玉君の誕生日が近いから、そのお祝いにね」と。そういうところに社員は「大切にされているな」と喜びを感じるんです。

起業のアイデアは、ずっと練り続けていました。というのもサイバーエージェントでは、常に新しい事業のアイデアを出すことが求められます。私の両親は、そろって警察官。社会のために働く両親の姿を見て育ちましたから、私の出すアイデアは「社会の役に立つこと」というのが第一条件です。

2017年、サイバーエージェントとリクルートが共同で実施する事業プランコンテストがありました。そこで選んだテーマは「ファイナンシャル」です。

日本人は金融を知らなさすぎる

世の中の多くの人は、お金についてさまざまな不安や疑問を抱えています。特に今は将来が不透明な時代。年金はちゃんともらえるのだろうかと心配になる人も多いでしょう。でも、貯金や保険、医療、住居など、お金が関わる疑問はたくさんあるのに、誰に相談したらいいのかわからない。特に、日本人はお金の話題を嫌う傾向が強い。「お金の話題は汚らわしい」と思われるところがあって、会社の上司や同僚、友達にはお金の話をしにくいものです。

当初はコンテスト用に練った企画でしたが、同じ問題課題解決を軸に、解決方法を変えて自分自身の事業としてスタートしようと決意しました。

事業の企画を進めるにあたって、ファイナンシャルアカデミーグループ代表の泉正人さんに偶然お会いできたことも契機でした。ファイナンシャルアカデミーは、2002年の創立。早くから金融経済教育の必要性を感じて、学校を展開した日本一のファイナンシャルスクールです。また同じタイミングでスターマイカ代表の水永政志さんとも出会い、2人とも日本の金融教育の遅れに危機感をもっていて、私の事業企画に賛同してくれました。

サイバーエージェントに辞表を提出し、2018年1月末に退社。2月2日に、株式会社ABCash Technologiesを創業しました。

お金のトレーニング「ABCash」

会社を立ち上げてから数カ月間は私一人。黙々と準備し、2018年6月6日にお金のトレーニングサービス「ABCash(※当初の名称はbookee)」をリリースしました。「90日間でわたしはお金に強くなる。」をキャッチフレーズに、3カ月で貯蓄可能な体質への改善を目指す、お金のパーソナルトレーニングサービス。専属のファイナンシャルコンサルタントがお客様と1対1で指導していきます。

ABCashでは、金融商品の販売・紹介は一切行いません。そこがファイナンシャルプランナーとの明確な違いです。あくまで中立の立場から、お客様に長い人生を自分の力で生き抜けるファイナンシャルの力をつけてもらいます。ABCashは教育の場なんですよ。

ニューヨークには、こうしたファイナンシャルジムが数多くあります。日本でもある程度の反応はあるだろうと考えていましたが、甘かったですね。2018年6月のリリースから約半年の間、お客様はほとんど来ませんでした。資金も底をつき、倒産寸前まで追い詰められました(笑)。

アメリカでは成立するビジネスなのに、どうして日本ではダメなのだろうか? やはり日本では、お金のことを考えたり、身につけたりするのは、恥ずかしいことなのだろうか。

まずは、その意識を変えなければいけないと感じました。お金について学ぶのがカッコよく、みんなが身につけるべきリテラシーなんだと納得させる。それさえ、できれば……。2019年、ABCashはカッコよさを前面に押し出す戦略に挑みました。そして、お客様が一気に増え始めたのです。

後編「事業のブレイクスルーとローラ登場」に続く


Takahiro Kodama
大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCash Technologiesを設立。代表取締役社長に就任。趣味はサーフィン。

お金のトレーニングスタジオ「ABCash」
https://www.abcash.co.jp/  


Text=川岸 徹 Photograph=大森 直