文字は人の心を映しだす! 美文字先生・中塚翠涛が描く言葉のチカラ

字は自分を変えることもできる。そう中塚翠涛さんは説く。 現代だからこそ大切な、文字のチカラ。 気鋭の書家が追求する新たな文字の世界を追った。 


さまざまなメディアで活躍する気鋭の美人書家

PCのテキストやメールで、筆はおろかペンさえも持つ機会の少ない現在。そんななか、文字を書くことで自分自身を見つめ直し、自分の思いやなりたい姿を表現できると〝文字のチカラ〞を伝える活動をしている書家がいる。それが美しき書家と巷で話題の、中塚翠涛さんだ。

映画『武士の献立』をはじめ多数の題字やドラマの書道監修を手がけ、バラエティ番組では〝美文字〞講師として出演者たちを的確に指導。さらに著書『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』シリーズは累計370万部を超えるベストセラーになっている。

『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』シリーズはすでに9 冊! きれいな文字を目指したい人に、基本のひらがなから漢字まで、なぞり書きをすることで無理なく上達できる。お礼状・伝言メモや、宛名がまっすぐに書けるなど実用的な例文が多く、頑固なくせ字も解決。大人の学び直しにも最適だ。

書家でありアーティスト。活躍の場は国内外に

今年も早々から明治維新150周年を記念した、佐賀の食材と文化を伝えるイベント「CUISINE SAGA」で、パリ「クラウン・バー」の渥美創太シェフとコラボレーション。テーブルに敷かれた紙に中塚さんが書をしたため、シェフがそこにアペリティフを盛りつけるパフォーマンスを展開した。自らデザインした有田焼に、ひと皿ずつイカ墨のソースで書を描く料理など、新たな試みが話題をさらった。

活動は国内にとどまらず、昨年の日本・デンマーク国交樹立150周年記念プロジェクトでは、オペラの舞台芸術から出演者のメイクまでを担当。さらにマティスや藤田嗣治も会員だったソシエテ・ナショナル・デ・ボザール(フランス国民美術協会)に招待作家として選出。パリ・ルーブル美術館(カルーセル・ドュ・ルーブル)で発表した300平方メートルにわたる作品は、インスタレーション部門にて「金賞」と「審査員金賞」をダブル受賞する快挙を達成した。まさに、書の枠を超えた活躍は多岐にわたる。

今年4〜5月には、書く人や書き方によってさまざまな表情やキャラクターを持つ文字の楽しさを表現した個展「コトバノオモチャ箱」を開催。会期中に行われたワークショップには、幼稚園児や小学生が集まった。ほとんどが書道は初めてという子供たちだが、墨だけではなく金色で描かれた絵画のような文字や、モニターの映像のなかで人間のように跳ね回る「PLAY」や「SMILE」などの文字の動きに、思わず目が釘付けに。そのあと、実際に筆を使う練習も点や丸を自由に書かせ、文字への興味を引きだしていく。

個展では、墨と紙を超えたさまざまな素材と手法で文字や所の魅力を表現。漢字の”楽”を表現したオブジェとともに。

「自分も子供の頃は筆遊びから。初めて書に触れる経験が、楽しいものであるように心がけています」

そんな彼女のクリエイションの礎も幼少時代にあるという。それはまだ書道を習う前のこと。

「絵画好きの母親に連れられて訪れた美術館で、ミロの絵やジャコメッティの彫像が、まるで文字のように見えました。子供ですから、文字を紙に書くという書の固定観念もなく、ただ純粋に、文字が飛びだして動いているような感じがしたんです」

実はミロの話には後日談も。仕事でパリに行くようになったある日、知り合った人から晩年のミロがカリグラフィー(文字を美しく見せるための手法)に興味を持ち、実際に書いていたという話を聞く。

「子供のころ絵の中に書を感じたアーティストが、実は書を学んでいた時期があったことへの驚きと喜びを感じました」

自分らしさを見つける。それが本当の美文字

習字の授業ではお手本通りに書けず、今も自分の字にコンプレックスを持つ人も多いだろう。しかし彼女が説く「美文字」とは、お手本をなぞる教科書的な美しさだけではない。

「上手下手にこだわるだけではなく、いかに自分らしい文字を書くのかということが大切なんです。字を自分のものにするために、まずはペンでも筆でも、自分の名前を書き慣れておくといいでしょう」

文字にはなりたい自分を表現する力もあるという。

「力強く生きたいと思うなら、はらいの部分を力強くしたり字を大きめにしたり。小さな字でも、細すぎなければ誠実な印象になります。右上がりが強すぎると我が強い印象を与えますが、余白でバランスをとれれば、自己主張だけではない格好よい文字に見せることも可能です」

また、文字を書くのはヨガやジムのトレーニングの感覚と似ている、と中塚さんは言う。

「仕事を離れてリラックスしたり、自分の呼吸を見つめ直す。きれいな字を書かなければと構えるのではなく、自分自身と対話する時間だと思います」

だからこそ自分の手から直に生まれる文字には、自分の気持ちがそのまま表れる。お礼状ならどれだけ楽しかったか、相手のことを考えながら書いた文字にはその思いがこもる。それが本当の美文字なのだ。

お礼状をイメージして一言。「〝一期一会〞にご縁と感謝の気持ちを込めて。長文を書かなくても、こんなカードなら喜ばれます」

目指すのは文字の持つ空気感を伝える作品

アーティストとして、作品作りに悩むことも多い。絵画と違って重ね塗りができないので、一枚一枚が本番。しかし時には、半分書いた後何日か置き、もう一度見直して余白に書き足していくこともあるそうだ。実はこれはパリで行った展示会の作品制作のために、現地でリトグラフ(石版画)に挑戦した経験から。

「書は本来瞬間を切り取るもの。しかし、水と油の反発を利用して制作するリトグラフでは、職人の擦る技術が加わるので、一緒に作り上げる喜びがある。そんな書とは異なる体験が、自分自身の制作方法にも新たなインスピレーションを与えてくれています」

そして多忙ななか、時間を見つけては旅に出る。目的はさまざまな作品との出合いだ。

「例えば、ヒューストンにあるロスコ・チャペル。マーク・ロスコの抽象画が壁の内側にぐるりと飾られたそのチャペルは、天井から外光が差しこみ、朝・昼・夜で雰囲気が変わっていく。まるで瞑想するような空気感は、写真では伝わらない。その場に実際に行って、自分の肌で体験することが重要なんです」

すべての体験の蓄積が彼女の豊かなクリエイションの源になっていく。

「まだまだ自分は発展途上。これからも違う景色に身を置き、もっと自分の新たな姿を見たい」と中塚さんは語る。

「今は、もっと規模の大きな作品を手がけてみたい。文字に包まれるような場所はどうだろう、文字の中に入ってみる感覚はどんな感じだろう……自分が旅で感じたような、そこに流れる空気感を体感できる、〝文字が持っているチカラ〞を誰もが感じられる空間を作ってみたいですね。最終的には、小さいけれども言葉のチカラを強く放つ作品を作りたいと思っています」


Suito Nakatsuka
岡山県生まれ。4歳から書に親しみ、古典的な書法を習得。ペン字練習帳やエッセイの出版、映画やドラマなどの題字制作のほか、陶器や映像などあらゆる素材と幅広い手法で独自の表現を追求した作品を発表している。


Text=牛丸由紀子 Photograph=吉田タカユキ