矢沢永吉 極限を超えた男に接近!「誰にも真似できない自分になれよ」

本気で欲しいものを本気で探せ。うつむいていたら夢がダメになる。そして──誰にも真似できない自分になれ。『ゲーテ』の撮影で、スーパービジネスマンに扮したロックミュージシャン 矢沢永吉は熱く語る。これらのメッセージは、新作『TWIST』で、これでもかと歌われる今の時代を強く生きるキーワードだ。「汗かくってカッコ悪くない? 頑張るって古くない?って、きれいごと言ったバカがいるんだよ。全部ウソ。どんな時代も這い上がろうとしなくちゃダメだ」。矢沢は断言する。

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 1978年8月27日深夜。新宿の京王プラザホテルの一室に、矢沢永吉はいた。
「お前、よくここまで来たなあ」
 窓ガラスに映る自分に話しかける。ライブで旅から旅への日々。頬はすっかりそげていた。
「大丈夫。お前ならきっと、カッコいいステージをやれるよ」
 窓ガラスの中の矢沢に励まされた。げっそりと疲労はしているが、目は強く力をたくわえている。翌28日は、後楽園球場で6万人のオーディエンスを集めての大コンサートだった。矢沢29歳。この年、「時間よ止まれ」が大ヒットした。自叙伝『成りあがり』も大ベストセラーになる。長者番付の歌手部門では、美空ひばりを抜き最高納税額に。“矢沢時代”の幕開けだった。
「あれから20年はあっという間でした。前だけを見て突っ走って、気付いたら50だった」
 '99年9月15日、横浜国際総合競技場。50歳のバースデイ・ライブ「TONIGHT THE NIGHT! ありがとうが爆発する夜」で、矢沢は「アイ・ラヴ・ユー、OK」を歌った。デビュー時のバンド、キャロルを解散して、ソロとしての最初のシングルナンバーである。
「横浜の夜、『アイ・ラヴ・ユー、OK』のツー・コーラス目、長くつらい道も お前だけを支えに歩いた、という歌詞で声がつまってね。言葉が出なくなった。そこまではビシッときたのにね。あの時、29歳の京王プラザの夜の記憶が蘇って。はっきりわかったんですよ。『アイ・ラヴ・ユー、OK』の歌詞の“お前”というのは、女房? ノー。ガールフレンド? ノー、ノー。“お前”とは、ホテルの部屋の窓に映った矢沢自身でした」
 50歳を過ぎても歌っているとは思っていなかった。
「オレ、50まで、ロック、やるから」
 30代で矢沢は宣言している。
「あれ、ポーズですよ。30代の若造が50歳なんて先まで読める? 読めないですよ。そんな計算なんてできないって。じゃあ、矢沢、なんで言ったと思う? 酔いたかった。わかります?」
 絶頂の自分を楽しみたかった。
「オレ、50まで行くから」
「永ちゃん、カッコいいー!」
「だろ?」
 そのやり取りに酔いしれた。
「ところが、本当に50まで歌い続けちゃった。そのうえ、60に来たわけですよ」
 矢沢永吉60歳。6月9日、新作『TWIST』をリリースする。

矢沢のロックンロールは若い奴らにはニュー!

「50の時は、クーッ!とこみあげてきたけどね。60は、センチな気持ちにはなりませんでした。えっ、いつの間に60? マジかよ!?って感じです」
 60代を迎える手前、2008年は一年間活動を休止した。ソロになってから約30年間在籍したEMIミュージックを離れて、自身のレーベル「GARURU RECORDS」を立ち上げた。
「活動を止めてみたんですよ。キャロルから35年、ろくすっぽ周りも見ないで、ノンストップで来たから。充電ですか?って聞かれたけど、オレ、“充電”って言葉、好きじゃないの。よく、7年か8年しかやっていない小僧が、充電します、とか言って休むでしょ? 何? 充電? バカ野郎!だよ。だって、たかが7、8年でねえ」
 活動を止めた矢沢は、周りを見て自分も見つめた。
「一年間冷静に周りと自分を観察したらね、思ったとおり、何も変わっちゃいなかった。それまでと同じでした。自分がやってきたことが間違っていないって、よくわかった。わかったから、意味のある一年でしたよ」
 活動休止明けの'09年夏、矢沢は大爆発する。アルバム『ROCK' N' ROLL』のリリースに前後して、夏フェスのステージで歌いまくったのだ。「ap bank fes」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」。大雨で中止になったが「HIGHER GROUND 2009」にも出演する予定だった。さらにタワーレコードの屋上でインストア・ライブも行う。
「夏フェスに関しては、オレ、なめたこと、言ってました。矢沢の場所じゃないでしょ、若い奴らのものじゃないの、って。夏フェスの客、20代中心ですからね。ところが、観客がスゴイのよ。矢沢が登場したとたん、ウオーッ!てね。音楽に国境がないのと同じように、音楽にエイジ関係ないの。オレの場所じゃない、なんてとぼけたこと言ってた自分に腹が立ったね。『ROCK' N' ROLL』はいい数字行きましたよ。それまでの矢沢ファンだけじゃなくて、夏フェス観た若い奴らが買ってくれたからです。今の10代、20代にはすごくフレッシュな、ど真ん中食い付きのロックンロールだったわけです。彼らにとっては、もうニューですよ、ニュー!」
 その夏には、すでに『TWIST』のアイデアは生まれていた。

エブリデイがハッピーなんて無理ですよ。

「『ROCK' N' ROLL』がヒットしている昨年夏には、間髪入れず次行かなくちゃいけないと思っていました。もう畳み掛けですよ。矢沢のオヤジ、スゲエな。ただのCMのオッサンかと思っていたら、いかすロックンロールやってるよ。若い奴らがそう思っているうちに、同じ路線のアルバムをね。それが『TWIST』。どストレートなロックをやった前作よりも、艶感とダーティーな匂いのあるアルバムです」
 1曲目はいきなり「サイコーなRock You!」。いかにも矢沢らしいタイトルだ。メロディーも、リズムも、ギターのリフも、歌詞も、この上なくシンプル。ほとんどのミュージシャンが照れ臭くなるような歌詞も、矢沢永吉ならばはまりにはまる。
「タイトル、イイでしょ! ただのロックじゃなくて“サイコー”のロックですよ。それから、8曲目の『ワニ革のスーツ』ね。あれは最初、『クロコダイル』だったの。それじゃあ、つまんないでしょ? やっぱりワニ革ですよ。オレ、ステージでワニ革のスーツ着て歌うよ。襟はピーン!ととがっていたほうがいいね。裾はタキシードみたいに長くて、ワニのしっぽになっているの。そんなスーツ着てこの曲を歌ったら、たまんないでしょ? 矢沢の60歳のテーマは面白がること。本気で、徹底的に面白がります。オレね、ここまでけっこう頑張ってきたわけよ。だからというわけじゃないけれどね、これからは思い切り面白がることにした」

「ワニ革のスーツ」で、矢沢は、誰にも真似できない自分になれよ、とくり返し歌う。この「誰にも真似できない」は新譜の重要なテーマだ。他にも「Shake Me」という曲でこのフレーズは象徴的に歌われる。
「そう、それですよ。今、世の中に問われているんだよね。誰にも真似できない自分になれ、って、響くでしょ? 響くと思うよ。生き残るにはね、他の誰とも違う自分にならなくちゃだめですよ。ポジティヴに。ガツガツと。オレ、そう思うよ」
 矢沢永吉はバブルの時も、不況の今も、ガツガツと前向きなロックを歌い続けている。
「それが真っ正直だし、本心だし、真実。豊かな時も、苦しい時も、その時代なりに這い上がろうとしなくちゃ、落ちていくだけです。這い上がるといっても、戦後の焼け野原と今は違いますよ。でも、常に上を目指さないとダメになる。それなのに、どこかの誰かが、ウソをついたの。汗かくってカッコ悪くない? 頑張るって古くない?って、きれいごと言ったバカがいるんだよ。絶対に間違ってるよ」
 バブルで豊かに感じられた時期も、不況の今も、心がけなくてはいけないことは実は同じだ。
「矢沢っていつも頑張っていてダサいわねー。トレンディドラマ全盛期には、そういう声、たくさん聞こえましたよ。でも、そんな奴らも、今は、矢沢って、けっこうイイよね、と言い始めています。オレ自身はいつも同じですよ。不器用だから」
 男は不器用。時代によって自分をシフトチェンジしたり、一日をONとOFFに自在に切り替えるなんて難しい。
「仕事とそれ以外を区別するなんてできる? オレにはできませんよ。仕事も楽しみも一緒よ。そう考えると、オレにとっては、仕事=音楽=生きがい、と言えるかもしれないね。そもそも、女性と比べて男は不器用だから、あれもこれも、いつも、エブリデイがハッピーで、うまくいくなんて無理ですよ。10日のうち9日はかったるい日々、って奴、ほとんどじゃないの? でも、いいんじゃない? 10日に1日でもクーッ!と抜けるような日があれば、また頑張れるでしょ? オレは頑張れるよ。かったるい日があって、ちょっぴりイイ日があって、人はそのくり返しをやって死んでいく。汗かいてね。それでハッピーでしょう!」

「サイコーなRock You!」「闇を抜けて」「Shake Me」などタイトルだけでも、そこにつまるロックスピリッツが感じられるアルバム『TWIST』 。全11曲。一度聴いただけで口ずさんでしまうような、シンプルでスコーンと耳に入ってくるロックだ。6月9日発売。¥3,000 GARURU RECORDS
EIKICHI YAZAWA
1949年広島県生まれ。'72年、キャロルのリーダーとしてデビュー。'75年解散。「アイ・ラヴ・ユー、OK」でソロデビュー。今日まで日本のロックシーンを牽引する。自伝『成りあがり』は大ベストセラーに。10/28新潟県民会館~12/20日本武道館の全国ツアー「EIKICHI YAZAWA CONCERT TOUR 2010『TWIST』」を開催。 http://www.eikichiyazawa.com/

Photograph=操上和美 Text=神舘和典

*本記事の内容は10年4月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい