瀬々敬久監督がドラマ『悪党 〜加害者追跡調査〜』で描く、被害者と加害者の葛藤

『64-ロクヨン-前編/後編』など骨太な人間群像劇で知られる瀬々敬久監督。5月12日から始まるWOWOW『連続ドラマW 悪党 〜加害者追跡調査〜』では探偵事務所を舞台に、刑を終えた加害者の追跡調査を依頼する人々の複雑な心模様を描いていく。凶悪な殺人事件を起こした少年のその後を描いた話題作『友罪』に続き、薬丸岳の小説『悪党』をどうドラマ化したのか。被害者家族の払拭できない心の傷、加害者の背負うべきもの、その題材にどう取り組んだのかを聞いてみた。 



――昨年の『友罪』に引き続き、薬丸岳さんの小説を映像化されましたが、薬丸さんの作品にはどういうところに共感されますか?

僕が若い頃に、藤原新也さんが1983年に出した写真集『東京漂流』のなかでも書いた、息子が親を斬殺してしまう「金属バット殺人事件」がありました。その後、「宮崎勤事件」や神戸の「酒鬼薔薇事件」のように、時代を象徴する暴力的な事件がありましたよね。2000年前後から、14歳、15歳の少年たちがナイフを持って人を刺す事件が各地でおきましたが、そういう時代を僕たちは生きているんだと薬丸さんも自覚的に小説に書いているし、僕もその感覚はすごくある。つまりは、こういう事件は社会との関わり合いのなかから出てくるし、同じ時代を生きているからには、どこか僕らにも関係している。そういう背景があって薬丸さんが小説にして、僕が映画にするのは、やっぱりそこに、なんでこんな悲惨なことができるんだろうと、加害者に対しての最大の謎があるからだと思うんです。その謎がどうしても知りたいと思って作るんですけど、結局、なかなかわからない。薬丸さんの場合、特に未成年の事件をずっと描き続けていて、そこには若い人たちへのメッセージっていう言い方はおかしいかもしれませんが、応援といいますか、暖かい眼差しみたいなものが込められていると感じます。

――今回手がけられた『悪党 〜加害者追跡調査〜』は、昨年の『友罪』に続き、犯罪における罪と罰を題材としています。瀬々監督がこの題材に引き付けられる理由はなんでしょうか?

僕は以前、『ヘヴンズ ストーリー』という、家族を殺されて生き残ってしまった少女の映画を撮りました。この少女が10年後、妻と子供を殺された若い男の復讐劇に加担するまでを9章仕立てで構成したのですが、主人公が事件の被害者遺族であるところが『悪党』と似ているなと思ったんです。『悪党』の主人公の佐伯は元警察官で、探偵としていろんな事件に遭遇していく。彼自身、少年期に姉が殺されていて、調査の過程で他人の事件なのに、あたかも自分が遭遇したかのように自己投影して関わっていく。『ヘヴンズ ストーリー』の時は、被害者遺族の人たちがどうやって事件のトラウマから乗り越えられるか、その落としどころがなかなか難しく、全部撮り終わって、編集してからも追撮をしました。今回に関しても、東出昌大さんが演じる佐伯修一という男は姉を殺した犯人への復讐心や憎しみ、そういう感情を抱えつつも前を向いて生きていくのだと至るまでをどう表現したらいいのだろうと、前回と同じ悩みを抱えつつ、勝負の仕方を考えました。

――佐伯修一役の東出昌大さんは昨年の『菊とギロチン』に続いてのキャスティングとなります。彼に主役を任せたのは?

よく言うんですけど、彼はコールアンドレスポンスに長けている。お芝居って一人でできないもので、他者がいて、相手をするわけじゃないですか。その時の受けと発信とが、彼の場合、すごく相手のお芝居をちゃんと見て、返す。格闘技的と言いますか、プロレス的と言いますか。それはすごく感受性豊かだなと思うんです。あと、彼本来の優しさみたいなものが、やっぱり出てくるんだと思うんですよね。今回は佐伯の相手役として、探偵事務所の所長役を松重豊さんにお願いしたのですが、あの方は悪魔的な部分と天使的な部分の両方を持っている。演じてもらった所長の木暮は金さえもらえば、どんな依頼も受けますよという『笑ゥせぇるすまん』的な要素を持ちつつ、一方で、佐伯の守護天使的な存在で、彼の隣でずっと見守っていて、ある導きへと連れて行くキャラクターでもある。そこが東出さんにとってぴったりだなと思ったし、お互いに高身長ですし。遜色ない体型をしているわけですよ。

――今回は全6話で6つの事件の犯人の追跡調査をしながら、佐伯の姉の事件に関わった人物たちへの調査も並行して進んでいきます。昨今、性犯罪に対して判決が甘いという報道や意見がメディアによく出てくるなど、法律が定める刑が本当にその罪に対して妥当なのか、騒がす事件も多々あります。ドラマではどのような目配せをされているでしょうか?

やっぱり法律ってどこか国家のものじゃないですか。司法というものが本当に人々のものになればいいんだろうけど、どこかネーションステイト的なものの代行者みたいになっているところがある。今回で言えば、柄本明さんが弁護士役で出てくるのですが、この弁護士はそれまでいろいろと策を練って加害者のために立ち回り、刑を軽くしたこともある。ところがある時、娘を殺され、被害者遺族になってしまう。このドラマのなかでこの弁護士は「法というものがすべてを救えるものではない」と言うのですが、やはり現実の社会のなかで法律というのは、人の心とは違うところで進んでいき、治安を維持するための方法と化してしまうとこがありますよね。それでいいのかという議論は当然原作に出てきて、ドラマでも継承しています。

――コンパクトに各話の見どころを教えて頂いていいでしょうか?

1話は青柳翔さんが調査対象なんですけど、話題になってるオレオレ詐欺を扱っています。佐伯は被害者遺族ですが、僕は青柳さん演じる坂上との間に奇妙な友情というか、何らかの結びつきができるところが興味深かったですね。2話3話に関しては、ある事件を契機に別れてしまった母と息子、姉と弟の話で、涙なしには見られない人情噺になっています。4話に先ほど話した柄本さん演じる弁護士が出てきて、いよいよ『悪党』のテーマが出てきます。すなわち、犯罪とは、加害者とは、被害者とは、それを含めて法律とは? 5話になって佐伯が動き出し、いよいよ姉を殺した犯人たちと対決して6話へと向かいます。

――2話の母を探す青年役には『菊とギロチン』でデビューした寛一郎さんを指名されていますね。過去の瀬々監督の作品の常連の方もいれば、初めての顔合わせの方もいます。

寛一郎は3年ぶりでしたけど、いっぱしの俳優に成長していてびっくりしました(笑)。あと、山中崇さんが今までの日本の映画やドラマでは見たことのないような狂気的な悪人を演じていて、これは見る価値があるし、個人的には一番許せない人物です(笑)。あと、三浦誠己さん演じる男は過去の犯罪をなかったかのように成功したいかにもの男で見どころがありますし、波岡一喜さん演じる人物は余命幾ばくもないという設定で、衣装合わせの時にすでに痩せてこられて、本番では顔面に青筋が立っていて、その青筋が彫刻のように素晴らしかったですよ。ちょっとすごいショットが撮れました。あと、探偵事務所の事務員を演じてもらった板谷由夏さんが、事務所で凄惨な事件の話を聞く時のリアクションがとても一般の人の目線に近くて、キャッチャーミットみたいにいろんな感情を受け止めてくれるので、そのリアクションがとてもよかったです。

――最後の質問になりますが、瀬々監督は『ヘヴンズ ストーリー』、『64-ロクヨン-』、『友罪』とずっと贖罪という題材を扱ってきていますが、作品を重ねる度に、人が人を許す、罪を赦すということについてどう考えていらっしゃいますか?

そうですね。罪を犯した人間への憎しみを持ち続けるっていうことは、もちろんしんどいことだし、相手を許すっていう時には、自分も許される瞬間になるべきではないか。加害者、被害者のどちらかだけの言い分では成立しなくて、それぞれの葛藤と拮抗の具合が関係すると思います。被害者側が許すと言ったから、それで成立するってわけでもないというか。両方向からの動きがない限り、罪が許される瞬間は訪れないような気がします。互いの行き来というか、交流がない限り、それはないような気がするんですよね。ダサい言い方ですけど、互いの立場を分かり合うということがない限り、許すっていうことは、なかなか難しいなとは思います。


Takahisa Zeze
1960年大分県生まれ。映画監督。京都大学在学中に自主制作した映画『ギャングよ、向こうは晴れているか』を発表。その後、助監督を経て、'89年に映画『課外授業・暴行』で商業監督デビュー。近年『64-ロクヨン-』『友罪』『菊とギロチン』など多数の話題作を手がけている。10月18日から、吉田修一の小説『犯罪小説集』を映画化した『楽園』が公開される。


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『連続ドラマW  悪党 〜加害者追跡調査〜』
探偵事務所で働く佐伯修一のもとに舞いこんできた一件の依頼。それは「息子を殺し、少年院を出て社会復帰している加害者の男を追跡調査してほしい」というもの。佐伯自身も幼いころに姉を殺された被害者遺族で、犯人への復讐心を胸に抱えて生きてきた。その後も続く、刑を終えた加害者の追跡調査を依頼を通して、自らの過去と向き合っていく。そして、ずっと探し続けていた姉を殺した犯人たちを見つけだした時、佐伯が取った行動とは……。
原作:薬丸 岳『悪党』(角川文庫)
監督:瀬々敬久
脚本:鈴木謙一
出演:東出昌大、松重 豊ほか
WOWOWにて、5/12(日)22:00より放送スタート。
毎週日曜22:00~(全6話・第1話無料放送)
番組特設サイト及びWOWOW公式YouTubeチャンネルにて第1話をまるごと無料配信。
配信期間:5/12(日)23:00~5/19(日)22:00


Text=金原由佳 Photograph=杉田裕一[POLYVALENT]