【起業家インタビュー】WAmazing加藤史子「決断する時に考えるのは、挑戦なのか無謀なのか」

訪日外国人旅行者向けに日本国内での旅行に役立つ情報を入れたアプリ、そしてSIMカードを無料で提供するWAmazing代表取締役社長・CEOの加藤史子さん。「手の中の旅行エージェント」を目指す加藤さんは、観光産業の発展、地方の活性化こそが日本の新しいライフスタイルをつくると信じている。前職リクルート時代に手がけた『じゃらんnet』『雪マジ!19』から挑み続ける地方創生への思いを聞いた。


ユーザーファーストな「空港に自販機」システムを採用

WAmazingが提供するのは、日本国内1万軒以上の宿泊施設の予約や空港送迎サービス、日本でのアクティビティの予約手配と決済機能、ショッピング情報などを盛り込んだアプリと、インターネット通信環境(15日間有効、500MB)で使うSIMカードを無料で配布するサービスです。訪日外国人入国比率9割の玄関口を担う全国18空港に受取端末機を設置、まずはアプリをインストールして会員登録してもらいます。そこで発行するQRコードを受取機のパネルに読み込ませればSIMカードが受け取れる仕組みです。

全国18の空港に設置した自販機。事前に会員登録をしておけば、ここでSIMカードを無料で受け取れる。

観光で地方が元気になれば人の人生さえも変わる

前職のリクルートでは『じゃらんnet』の立ち上げと、『雪マジ!19』という、若者にスキー場へ誘致するプロジェクトなどを手がけました。『じゃらんnet』は、今でこそ当たり前になっている口コミ機能を採用。口コミを掲載するということは、広告主である宿泊施設にとって都合がよくないことが載ることもあります。そうなると、収入源の『じゃらん』紙媒体本体の広告出稿までもが取り下げられてしまう可能性があり、当初社内からは反発がありました。しかし、ユーザー目線の役立つ声は必ず支持されるであろうし、ユーザーが使い勝手のよい媒体が最後には残ると考えて押し切りました。

『雪マジ!19』は20年間低迷し続けているスキーリゾート市場をV字回復させるビジョンを掲げ、具体的には19歳の若者を対象に、全国のゲレンデでリフト券を無料にする施策です。とにかくスキー場に来てもらって、宿泊費、飲食代などを落としてもらい、経済を活性化するという考え方。当初、多くのスキー場に猛反対を受けましたが、最終的には90ヵ所以上の賛同を得て、現在は190以上のゲレンデに参加いただいています。

そんな経験から、日本が観光資源に恵まれた国だということ、その魅力や可能性についてはよく理解していました。先進国の構造として、どうしても都市部に人が集まることとなり、日本も例外ではありません。サービス産業とは人が人にサービスするものであり、人口密集地で成長していくものですから。そんな状況のなか、誰もが喜んで都市部に吸い寄せられていくというより、進学先や就職先があれば地元にいたいという人も少なくないわけです。嫌いじゃないのに地元を離れなくてはならない人がいるという事実に気づき、「観光産業が地方創生になればそれは解決できる」と確信、ライフワークとして関わっていきたいと考えました。多くの人々が、住みたい場所でやりたいことをして、家族や友人、地域の人たちと一緒にいきいきと暮らしてほしい。そんなことを考えていくうちに、結果として起業という形になりました。

インバウンド旅行者に日本の魅力を伝える意義

地域で産業を育てるために、観光を盛り上げたい。そこで考えたのが、旅行者向けアプリサービスです。日本国内を旅行する日本人は横ばい傾向にありますが、日本で旅行をする外国人の数は5年前の1000万人超から昨年は2800万人超える勢いに。産業規模でいうと、現在は、国内旅行市場は20兆円、訪日外国人による国内消費額は4.5兆円ほど。数年前は外国人市場は1兆円にも満たなかったので、伸びしろは一目瞭然です。今は大きいけれど今後さほど成長が見込めない産業と、今はそれほどではないが成長が見込まれるもの。どちらに賭けるかという話です。成長が予測される訪日外国人市場を、どうやって地域の魅力と結びつけるのかは正解がない事業ですが、ぜひ自分でやってみたいと思ったのです。

従来のやり方では訪日外国人旅行者には響かない理由

国内旅行の主役は60代以上のシニア層です。新聞広告やポスターを見て、旅行代理店のカウンターで手続きして……という世代。一方、アジアからの旅行者の大半は20~30代です。スマホが当たり前のように馴染んでいる人たちで、従来のアプローチではまったく役に立たないわけです。若者向けのITに通じたマーケティングができて、かつ日本をよくわかっている人でなければ、せっかくの成長産業がうまく活かせません。そんなプレイヤーが出てこないかなと2年くらい待ちましたが、現れる様子がなかったので、だったら自分でやろうかな、と。

インバウンドベンチャーはちらほら出てきますが、たいていがニッチなビジネス。「マスに向けたビジネスができるのに!」と心の中で叫んでいました。でも、実際着手してみると、ニッチなテーマのほうがやりやすいんですね。王道を攻めつつ、この隙間で勝てるかな、こっちではどうだろうと試行錯誤の日々です。ベンチャーはいかにニッチに集中するかが戦い方の一つですが、大企業的中長期的なビジョンと、今はここで攻めて成功体験を積むべきというニッチ戦略の狭間で悩むことも多々あります。

訪日外国人にも誘致するこちら側にもメリットを

365日の1週間に、非日常の小さなライフスタイルが詰め込まれているのが旅行です。遊ぶのも泊まるのも移動もワンストップのサービスがあれば便利なのではないか。コンセプトとしては訪日外国人のための手の中の旅行エージェント、コンシェルジュを目指しています。外国人にとっては便利で楽しいものであり、地域の人にとっては、「いいものなのに世に知られていないものがきちんとPRできる」ものでありたい。旅行で訪れることで経済活動が発生すれば、そこで雇用も生まれます。WAmazingはそんな貢献を目指しています。

また、訪日外国人とひとくくりにしがちですが、結構細分化されている。今は中華圏中心にサービスを提供していますが、対象国を広げれば、また新しい施策が必要になりますから、そこにも注目しています。

「いいものなのに伝わっていない」宣伝下手な日本

旅行とは無形性なもの。楽しかった、嬉しかった、おいしかったという思い出を買うもの。モノを購入する場合、お金を払えば商品は大抵同時に手に入ります。旅行は無形なものに対して、数ヵ月前に大きなお金を払って意思決定する特殊な消費。ここに行ったら楽しいんだろうな、これはおいしいんだろうなという想像を喚起させるマーケティングの力が大事です。

昔から日本はよい製品を作るのは得意ですが、PRやマーケティングは不得意。かつて日本が“ものづくり大国”をやっているうちは、使ってもらえればわかるから、いいもの作りさえすれば売れるという考えは正しかったのかもしれません。しかし、相手にお金払ってもらった上に、わざわざ来てもらわないといけないのが旅行です。観光産業における、「おいしいでしょ。美しいでしょ」はまったく伝わっていません。

いいものを持っているのに、それでは未来永劫伝わらないかも……。それはもったいないと思います。PRやプレゼンテーション次第でもっと伸びるのですから。例えば、ラーメン店も外国人が行列するのは決まって同じお店。でも日本人にしてみたら「他にもあるのにね」って思いますよね。でも仕方ないんです。だってそこしか情報発信されていないのですから。スキー場でもニセコだけが有名。インバウンドのたった1%しか東北6県に泊まっていないのです。安比だって蔵王だってありますよ、ということを伝えていきたいですね。

ゆくゆくは口コミ機能も導入できたらと考えています。『じゃらんnet』の時の経験からいっても、「下見にいけない。試せない。でも数万円の宿泊施設を決めないとならない」、そんな意思決定の背中を押すもの口コミです。かといって各国語で細かくレビューされても……。だったら言語障壁のない15秒動画で口コミ投稿してもらうというのもおもしろいかもしれません。

経営者に必要なのは退却の勇気

「こういう世界をつくります」というWAmazingの事業に賛同してくれる人がお金出したり就職してくれたりするわけで、事業は信じてくれる人がいないと成り立ちません。自分でも絶対の自信があるわけではないけど、私が自信をもっていないと人のお金も人生も預かることはできません。しかし当然ですが、いつもいつも必ず“当てられる”というわけではない。自己肯定感が強すぎると、「これ、間違ったな」という時に引くのが遅れたり、方向転換しづらくなります。元気にみんなを引っ張ることができるほどの自信をもちつつも、「違うかも」と思ったら、退却の勇気も必要。適切なセルフコンフィデンスの置き方が難しいですね。

時々、「挑戦と無謀の境界線ってどこにあるんだろう」と考えます。出た結論は「成功すれば挑戦。失敗すれば無謀」なんですよね。決断を下さなければならない時には、「これは無謀なのか挑戦なのか」と自問自答し、なるべく“正解そう”なものを選んで、その後はそれを正解にすべく努力する。けれども「違うかも……」と思ったら潔く引く。それも経営者の仕事だと思っています。


●座右の銘(好きな言葉)
最近見つけたものですが「人生は5つのボールのジャグリング」という、コカ・コーラ元CEOブライアン・ダイソン氏の言葉。

5つのボールとは、「仕事」「友人」「家族」「健康」「自分の心」。そのうち1つのボールはゴム製で、それは「仕事」。あとの4つはガラス製のボールです。一度落としたら割れてしまい、元には戻りません。仕事は、落としても、どうせ跳ね返ってくるからと恐れずにチャレンジできるはずだし、落としたとしても、倍に跳ね返ることだってあります。トップとしての考え方に通ずると感じ、言い得て妙だなと。マネジメント面での心構えにも活かせるなと思いました。

●愛読書
田坂広志さん、稲盛和夫さんの本。女性経営者のビジネス書ではFacebook COOシェリル・サンドバーグの『LEAN IN』はおもしろかったです。自分のためにというより、自分の娘たちが大きくなるころには『LEAN IN』が目指す世界になっていればいいなという願いがあります。そのために自分が今できることをやっていきたいです。

Fumiko Kato
慶応義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、1998年にリクルート入社。 「じゃらんnet」の立ち上げ、「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、主にネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。 スノーレジャーの再興をめざし「雪マジ!19」を立ち上げ。 その後、仲間とともに「Jマジ!」「ゴルマジ!」「お湯マジ!」「つりマジ!」など「マジ☆部」を展開。 国・県の観光関連有識者委員や、執筆・講演・研究活動を行う。2016年7月、WAmazingを創業。
WAmazing
2016年創業。従業員数は現在約50名。"日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に" をコンセプトに掲げ、訪日外国人旅行者が日本旅行中に使う 「スマホ向けアプリサービス」 を提供。訪日前に居住国にてアプリをダウンロードし、会員登録(無料)をすると、日本滞在中に無料インターネット通信が可能になる。さらに、宿泊金額に応じて無料データ通信量が増える宿泊予約サービスも提供する。第三者割当増資および融資による資金調達は10億円を超える。
https://corp.wamazing.com/


Text=三井三奈子 Photograph=太田隆生