矢沢永吉 成りあがれ!残りの時間で夢を実現させる いつの時代も汗をかきただ走り続けてきた

62歳、デビュー40周年を迎えて、なおエネルギッシュな矢沢永吉。その最新作『Last Song』では“夢”という言葉が繰り返し使われる。中でも、夢を抱く少年の頃のヤザワが62歳の今のヤザワに「旅を続けろ」と叫ぶバラード「LAST SONG」は、仕事でキャリアを重ねているゲーテ世代の胸を震わせる──。

いつの時代も汗をかき走り続けてきた

「夢を思い抱いていた遠い日のヤザワが今のヤザワに言うんですよ。まだ旅をしろ、とね。作詞家の山川啓介さんが、ヤザワのファンを代表してくれた。心を代弁した応援歌を書いてくれました。嬉しかったですね」

最新作のタイトルチューン「LAST SONG」の歌詞を矢沢は真っ先に山川に依頼した。

「Yazawa's『My Way』、歌いたいから、歌詞、バシッと決めてくれないかな?」

矢沢と山川とは30年を超える絆で結ばれている。1978年のミリオンセラー「時間よ止まれ」は作詞・山川、作曲・矢沢のコンビ。この曲を収録した『ゴールドラッシュ』もアルバムチャートで1位になった。

矢沢の依頼を快諾した山川が書いたバラードが、アルバムタイトルであり、最後に収録されている「LAST SONG」だ。

「山川さん、ありがとう。ありがとうございます!」

矢沢が心の底から感謝をしたその歌詞には、タイトルとは相反し、まだ最後ではない、ラストソングを歌うわけにはいかない思いが綴られていた。

ラストではないのに『Last Song』というアルバムタイトルにしてしまうのは、矢沢永吉だからこそかもしれない。

「うん。そういうのもアリじゃないの? 40周年を迎えてね、『Last Song』というアルバムタイトルつけて、それでもなお“Still”ロックシンガー。そういう域まで、ヤザワ、来ちゃったわけですよ」

デビュー40周年を迎え、日本のロックシンガーとして未踏の域を進み続ける。

「先にやった奴が誰もいない道、ヤザワは今走っています。ずいぶんたくさんのアルバム、作ってきました。武道館公演も117回。最多で走っています。まだ根性はある。大丈夫。あとは自分の身体との勝負でしょう。

だらだらしたステージ見せたくないですからね。マイクターン、左右ビシッ!と決めたいし。60だからもう走れません──そんなのヤザワにはありえない。ミック・ジャガーがまた世界ツアーやるって言ってるんでしょ? あの連中が元気なのにオレがやめるわけにはいかないですよ」

まだまだ走る覚悟だ。

「この号のテーマ、夢ですよね? いいテーマだと思いますよ。アルバム『Last Song』の歌詞で何度も“夢”という言葉を歌っているように、僕も夢を持って走ってきました。もちろんロックシンガーとしてだけではない、人並みの夢もありますよ。クイーンなんとかという豪華客船で世界一周をしてみたい、とかね。オーロラ見てみてえなあ、とか。アフリカ行きてえなあ、とか。たくさんあります。でも、そっちはね、実現できなければそれでいいかな、とは思っています。僕は専門職ですから。ロックという手に職を持っているからには、明けても暮れてもライブですよ。ライブ、ライブ、レコーディング、ライブ、ライブ、レコーディング。そして、こうして時々インタビューに答えてね。心を少しだけ和らげるために一杯の酒を飲む。そして、またライブ、レコーディング。オレの人生それだけか?──思うことありますよ。でも、こうしてひとつだけでも、神様に手に職をもらった限りはね、同じことを繰り返すのがヤザワなりの“Thank You!”なんじゃないですか」

それは年齢を重ねたからこその心境だという。

「同じ世代のね、キャメラマンでもデザイナーでも、みんな僕と同じことをぶつくさ言っていますよ。ひとつのことをずっとやってきた奴らはね。明けても暮れても同じことばっかりかよ、ってね。でも、ひとつでも手に職をもらえたのは御の字じゃないですか。歌うこと、曲を作ること、ライブをやること、これが仕事であり、夢だったことであり、ヤザワの“Love”ですよ」

アルバム『Last Song』は、夢を諦めるな、という内容を歌う曲が多い。その中でバラードナンバー「LAST SONG」と双璧をなすといえるのが1曲目に歌われるストレートなロック、「IT'S UP TO YOU!」だろう。

「この曲の歌詞を書いたのは馬渕太成って作詞家です。彼はヤザワのアルバムには初めて参加したんだけど、なかなかですよ。スタッフにね、ヤザワとジャムやってくれる面白くてとんがった奴、いない?って探させたら、人づてに紹介されたんです。太成はヤザワのこと、好きみたいでね。詞を書くために、ヤザワの著書『成りあがり』や『アー・ユー・ハッピー?』から過去のインタビュー記事まで読み直したみたいよ」

この曲はメッセージ性が高いロックに仕上がっている。

「今、日本は厳しい時ですよね。それでも、若い連中に、時代のせいにばかりしないで自分の足で歩け!と『IT'S UP TO YOU!』では言いたいわけです」

どの世代かにかかわらず、今の境遇を時代のせいにしても、何も起こらない。

「日本は1980年代から'90年代初頭に豊かになりすぎて、あれが普通だと勘違いした奴ら、たくさんいるわけですよ。20代、30代の主人公が都心の2LDKで暮らすトレンディドラマとか見ちゃって。これはメディアにも責任はあると思いますけれどね。あんなのウソでしょ? 家賃いくら? 35万円? ありえないでしょ? もっと現実を見なくちゃだめよ」

日本が豊かな時代も、矢沢は汗をかき、吠え、走ってきた。

「'70年代からずっと、這いあがるので必死でしたからね。当時の自分の映像を見るとね、吠えて、吠えて、吠えまくっています。たぶん、不安だったんでしょうね。怖かった。まだ青いから、怖くてしかたがなくて、ふざけんな!と叫ぶしかなかったんだと思います」

矢沢が歌う音楽にも、その怖さが表れていた。

「曲のどこもかしこも全部譲らなかった。必死だから。それで、ひたすら走ってきたら、40年経っていたわけです。いつのまにかこの辺へ来た。この辺って、どの辺かというと、62歳の現役ロックシンガーです」

今ようやく幸せを感じている。

「現役というのは、過去の名前で芸能界にぶらさがっているのではなく、常に何万人ものオーディエンスを集められる、本物の“Still”ロックシンガーですよ。ただし、62歳ですからね。身体がどこまで持つかはクエスチョンです。だから、ライブの前には自分の身体に言うの。お前頼むよ、と。ステージやっている途中に壊れるなよ、と。ヤザワの身体、ギリギリですからね。でも、そのギリギリ感がまた嬉しい。自分の身体が愛おしい。“Thank You!”ですよ」

ステージはギリギリ。しかし、CDの音にはいい意味で余裕が生まれてきた。

「今回のアルバム『Last Song』も、かっちり作っていません。きれいに作っていません。ルーズさというか、いい加減、いいあんばいを大切にして、揺れ感を出しています。楽器もね、ドラムス、ベース、ギター、オルガン、サックス……いろいろ入っていますけれど、前に出ているのはヴォーカルとそれを支えるサブの音一発でいい。じゃあ、あとの楽器は何で入っているの? 香り感ですよ。曲に香りを感じさせてくれている」

40年キャリアを重ねたからこそ、音楽も矢沢もさまざまなものがそぎ落とされ、シンプルにシンプルになっている。

「ほとんどの曲は一発録りです。めちゃくちゃ腕の立つメンバーが集まって、じゃあ、やるよ!でガーン!と音出して、OK! もう触るな!とね。その結果ストーンと直球で胸に来るロックンロールができたわけです。一発録りだからこその揺れ感、聴いてもらえると思いますよ。キャリア40年だからこそのアバウト感であり、セクシーさなんじゃないですか」

Eikichi Yazawa
1949年広島県生まれ。'72年、キャロルのリーダーとしてデビュー。'75年解散。「アイ・ラヴ・ユー、OK」でソロデビュー。今日まで日本のロックシーンを牽引する。自伝『成りあがり』は大ベストセラーに。 http://www.eikichiyazawa.com/


Text=神舘和典 Photograph=大森 直 Special Thanks=LITTLE WING ENGINEERING

*本記事の内容は12年7月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい