この時代をどう生きるべきかを教えてくれるイチローのスピーチ~ビジネスパーソンの言語学76

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座76、いざ開講!  


「最終的には自分で自分のことを教育しなければならない時代に入ってきたと思う」―――最後の開催となったイチロー杯争奪学童軟式野球大会でのイチローのスピーチ

一本気な男だけに、現役を引退したらメディアの前に出てこないのではないかと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。今年3月に引退を表明、現在はマリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチローだが、草野球を楽しんだり、学生野球の選手を指導するための資格回復の研修に出席したりと、さまざまな場面で元気な姿を見せてくれている。そしてどうやら、その興味の対象がアマチュア、なかでも未来を担う子どもたちであるということもハッキリしてきた。

思えば、引退会見でも「小さな子供なのか、中学生、高校生、大学生なのか分からないですが、そこには興味がありますね」と語っていたイチロー。12月22日に開催されたイチロー杯争奪学童軟式野球大会でのスピーチでは小学生を相手に熱い言葉を贈った。

「厳しく教えるのに難しい時代に誰が教育するのか。最終的には自分で自分のことを教育しなければならない時代に入ってきたと思う」

「調べれば分かることでも、行ってみて初めて分かることはたくさんある。(中略)いままであった当たり前のことは決して当たり前じゃない。価値観が変わるような出来事をみんなに体験してほしいと思う」

この言葉は、小学生だけではなく、社会人も噛みしめるべきだろう。上司や先輩が厳しく指導すればパワハラといわれてしまう時代だ。誰かが自分を鍛えることに期待していても、誰もそんなことをしてくれない。自分自身が鬼コーチ、鬼上司になって自分を鍛えなければ、成長するのは難しいだろう。そのうえで、スマホやPCの検索に満足することなく、自らの価値観が変わるような経験を積み重ねていかなければ、何かをかちとることはできない。

思えばイチローは、ずっとそれらを実践してきた選手だった。監督やコーチの言いなりになることなく自分のバッティングフォームを究め、周囲の「うまくいくはずがない」という声を気にもせずメジャーに挑戦。そのバットコントロールとスピードで野球の常識を覆し、歴史を塗りかえていった。プロとしては恵まれているとはいえない身体で、日本で9年間、メジャーで19年間という長い現役生活を送れたのも自分を自分で鍛え続けたからに他ならない。

イチローは小学生を通して、大人のわれわれにも呼びかけているような気がする。「あなたはそれでいいのか。子どもたちの見本になれるか」と。誰もイチローにはなれない。でも自らを鍛え、積極的に経験を積み重ねることは、今日からでもできる。その姿を部下や後輩、そして子どもたちに見せれば、彼らも変わっていくはずだ。僕らはイチローの偉大なる挑戦にたくさんの勇気を与えられてきた。そのイチローイズムを引き継ぎ、次世代に伝えていかなければならないのではないだろうか。

 
Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images  


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