ギリギリの投資と決断で得た今の成功 ~素人目線 松浦勝人の生き様~


今までに、数え切れないほどの投資をしてきた。会社をやりたい、バーを始めたい、レストランを出したい。そんな相談をもらって、出資する。事業の内容や収益性というよりも、その人との人間関係のなかでお金を出しているので、正直なところ最初からリターンは期待していなかったし、実際ほとんどなかった。結局、僕の人生のなかで、もっとも成功した投資はエイベックスだった。エイベックスを始めた時、僕の記憶では資本金が160万円。それを4人で、40万円ずつ出してエイベックスを始めた。その40万円が、今では何千倍、何万倍かになっている。こんなに効率のいい投資は、普通はない。

そうなると、もうお金の心配なんかしなくてよいのではないかと思われるけど、そんなことはなくて、僕にもお金の不安がある。エイベックスのビジネスがうまくいかなくなったらどうしよう、家族ともども路頭に迷うことになったらどうしようと、いつも最悪のことばかりを考えてしまう。そういう不安が大きくなってくると、少しでも資産を増やそうと思って、株やFXに投資をすることもあった。

でも、これもトータルでは損をしている。株やFXをやると、経済のことに関心を持ち、勉強になるという面は確かにある。しかし、仕事に集中できなくなってしまう一面もある。会議をしていても、「今、売れば利益が確定できる」などと余計なことを考えてしまう。でも結局は目の前の仕事を優先してしまうので損をしている。エイベックスに投資をして得たお金を、人の会社に投資をして失っている。まったく愚かな話で、だから、もう株やFXはやめた。

ギリギリの金額まで張らないと面白くない

株式投資というのは、人の会社に投資をすること。創業時に自分がエイベックスに投資したこととは、まったく違う。最初の出資金の40万円は、今となっては小さなお金だけど、当時の僕には大きなお金で、失ったら相当に痛い金額だった。自分でリスクをとって、お金を出して、真剣に働いた。お金と時間と気持ちのすべてを注ぎ込んで、ギリギリの勝負をしてきた。だから大きなリターンとなって戻ってきた。一方で、株を買って、人の会社に投資をするというのは、リスクも限定的で、経営も人任せ。だから、リターンがなくても当然なのかもしれない。

投資とカジノを一緒にしてはいけないかもしれないけど、共通しているところがある。カジノもよく「失っても痛くない金額を決め、その範囲で遊べばいい」と言う人がいるけど、それだったら面白くもなんともない。ギリギリの金額まで張らないと面白くない。だから、僕はもうカジノのある街にはできるだけ近寄らないようにしている。

ギリギリの金額を賭けるほどカジノが好きな人は、きっと朝から晩までシャワーも浴びず、ご飯も食べずに取り憑かれたようにカジノをやっているんだろう。失ったら厳しいというギリギリの金額の勝負をしているから、真剣味が違う。

バカラでは、カードを絞るということをやる。カードをめくる時、すぐにめくらず、端から絞り上げるよう少しずつ開ける。トランプのマークが少しずつ見えてきて、足が2本出てくる、つまりマークが2つ並んで見えてきたら、4から10までのどれか、足が1本だったら2か3というように、だんだんどのカードであるかがわかっていく。

ギリギリの勝負をしていると、この絞りがどんどん熱くなっていく。全身にものすごい力を入れてカードを絞るし、途中で念じたり、息を吹きかけたり、奇声をあげたりする。そんなことをしたって、配られてしまったカードが変わるわけがないんだけど、そうやって自分に有利なカードを念じるのがバカラの醍醐味になっていると思う。

間違いなくあの時の決断のおかげで今のエイベックスがある

自分の会社への投資というのは、ギリギリの額の投資をしているから、自然に「カードを絞る」ような真剣さが生まれる。

エイベックスが、今のエイベックスになれたのは、間違いなくあの時の決断だった。当時、エイベックスは輸入盤CDを仕入れて、貸しレコード店に卸すというビジネスをしていた。海外の輸出業者に発注をすると、普通は納品まで1週間はかかる。それを通関の特例制度を使ったり、配送業者に何度も相談したりして、金曜日に注文すれば、火曜日に納品できる仕組みを作り上げていた。それでも、空港のある成田と、当時のエイベックスがあった町田では輸送に時間がかかりすぎる。

そこで、米国の輸出業者に、町田に在庫を持たせてほしいと交渉した。在庫があれば、当日納品も可能になる。すると、先方は在庫を日本に持たせるのだから、その保証金として7000万円を預からせてほしいと言ってきた。僕がその半分の3500万円を出したけど、当時の僕にとって、3500万円はギリギリを超えてしまっている金額。どうにもならない。結局、親に頼んで、自宅を担保に入れて、銀行から借りてもらった。僕はそのお金を親から借りて、なんとか工面した。もし、これで失敗してしまったら、僕だけじゃない、親も家をとられて、親子ともども路頭に迷うという大勝負になった。でも、これがあったから、エイベックスは日本で一番納品が早いインポーターになって、そこからビジネスが回り始めていく。エイベックスがエイベックスになれたのは、あの時の決断があったからだと今でも思うし、当時もここが勝負どころだと思った。

ギリギリの投資をしているから真剣になれる。あるアーティストを売り出すという時でも、ありとあらゆることをやったうえで、まだ、他にできることはないのかと必死になって探す。もうこれ以上ないというところまでやる。効果があるとかないとかは、やってみてから考える。失敗をしても、失敗をするまでの過程のなかで見えてきたものによって、左に行ったり、右に行ったりして、最後には成功に結びつける。そういう、カードを絞るように、僕の情熱と時間を注ぎ込んできたから、エイベックスは大きなリターンを返してくれたのだと思う。

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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。
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