経済学者 米倉誠一郎 熱き経済学者が日本へ檄!ひとりひとりがプロフェッショナルになる

閉塞感を打破すべく、日本を代表する経済学者のひとり、米倉誠一郎氏がエールを贈る。とくと耳を傾けて今を生き抜くヒントにしたい。

 この5月、韓国の済州島で第6回ジェジュ・フォーラムが開催されました。アジアをはじめ世界各国の人たちの前で、僕は「日本はエネルギーを3割削減する!」と宣言しました。もちろん、根拠はありません。というかビジョンに根拠は必要ない(笑)。
 1961年、ソ連が有人宇宙飛行に成功した翌月、ケネディは議会で'60年代中に米国は月に人を送ると宣言しました。それまで米国は有人ロケットを軌道に乗せたこともなかったのにです。しかし、米国は'69年7月にアポロ11号を成功させます。その理由は、ケネディの演説に呼応した多くの若きエンジニアがNASAに駆けつけたから。大切なのは、ビジョンに根拠があるなしではなく、それに応える層がいるか、いないかです。

 今の政治状況を見ていると、やはりカリスマ的リーダーが大切だという結論になりがちです。しかしこれからの時代に必要なのは、ひとりのカリスマが世の中を変えるのではなく、私たちひとりひとりがプロフェッショナルになることによって、世の中を変えていくことです。個々の意識と能力が高まることで、総体として大きな変化が生まれる。仕事だってそう。課長や部長、まして社長に期待する前に、自分自身が仕事のプロになる。
 しかも、個の時代を支えるツールがまさに整ってきた。ツイッターやフェイスブックは、世の中を変える可能性があります。中東で起こったジャスミン革命はまさにこの典型。これといった強力なリーダーはいなくても、小さなつぶやきが大きな流れになっていく。それが創発的破壊であり、現代の革命です。

 今回の震災と原発事故は天災を超えて人災になりつつある。しかし、この逆境こそ日本が大きく変わるチャンスであると考えます。脱原発を世界に率先し、新たなイノベーションの次元を切り開くのです。スマートシティ、スマートグリッド、スマートハウスなどの要素技術はすべて日本にある。しかも、マイクロプロセッサーやセンサーを駆使した省資源・省エネルギー製品開発は、日本人にとって得意分野ばかり。世界に先駆けてノウハウを築けば、その技術がそのまま世界に売れるのです。現在蓄積中の「原発廃炉の技術」もまさにそうです。
 そう考えると僕たちの未来は決して暗いものではない。日本のエンジニアやビジネスマンがやるべきことは多い。だが、既得権益に固執した政治家や権力者たちが新しい動きを邪魔してくる可能性も高い。その時こそツイッターやフェイスブックでひとりひとりが声を上げればいい。今の緩み切った政治家や権力者たちに「国民をナメるな!」と叫んでやればいい。小さな創発が総和を上回るパワーを持つことを、今こそ知らしめる時なのです。

Seiichiro Yonekura
1953年生まれ。一橋大学卒業。同大学院修士課程修了。ハーバード大学博士号。'97年より一橋大学イノベーション研究センター教授。現在『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、アカデミーヒルズ「日本元気塾」塾長も務める。著書に『経営革命の構造』(岩波新書)、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)など多数。

Text=牧野隆文、本田大樹 Photograph=星 武志

*本記事の内容は11年7月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい