村田諒太×ボクサー犬 世界チャンピオンと最強の相棒との出会い

もし、ボクサーの村田諒太氏に相棒がいたら、それはきっと彼と同じように強くて優しい犬に違いない。撮影中、阿吽(あうん)の呼吸を見せる人と犬との美しき絵は、あるべき村田氏の人生の一端を垣間見せてくれた。

プロボクサー
村田諒太

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「野性を解き放つことが、僕の仕事です」

リングから離れたチャンピオンの表情は、実に穏やかだった。日本人史上2人目のボクシングミドル級王者となった村田諒太氏は、撮影の相棒となるボクサー犬のボーアを見つけるなり、歩み寄り抱き締めた。ボーアもすぐ心を開き、世界王者の顔を嘗(な)め回す。「一度も犬と暮らしたことがないんですよ」と言う村田氏だが、なぜ一瞬にして、"相棒"と心を通わせられたのだろう?

「犬が本当に好きなんです。小学生の頃からずっと飼いたかったけれど、母から『ダメ』と言われて。しかたなく近所の犬たちと仲良くなったんです。隣の家の白い大きな犬や、病院にいたシベリアンハスキー......。ずっと飽きもせず一日中、犬と遊んでいました」

ボクシングをしている時だけ野性を剥き出しにする

犬の温かさを知る一方で、「野性を封じ込められている」とも感じるそうだ。ボクシングをしている時だけ野性を剥き出しにすることができる自身の姿を、犬に投影しているからかもしれない。

「リングはある意味、野性的で原始的な場です。本能的な殴り合いをするからこそ、見ている人々は本能を呼び覚まされ、感情移入することができるのでしょうね」 

ボクサー犬の平均寿命は8年と短い。今4歳のボーアの生涯は、もう折り返し地点を迎えている。

「8年か......。脈拍が早い動物は寿命が短いと言いますよね。僕も27歳でプロデビューして5年目。デビューから8年後は35歳になる。その年齢ぐらいで引退できたら、思い描いているとおりになりますね」 

村田氏は静かに笑った。
 
 新王者となり、初防衛戦に向けて練習を再開しているが、心境の変化はなく、心穏やかだという。

人生は短い、後はどう生き切るか、と村田氏は思う

「僕は何も変わりません。周りの環境が変わっていくだけです。(金メダルをとった2012年の)ロンドンオリンピックの時も周りだけが騒いで『なんなんだよ、これは』と戸惑いました。自分の感じる価値と周りの考える価値には、誤差があった。周囲の反応に嬉しさは感じるけど、そこに本質は何もない。それは僕自身が拳の経験から学んだことです」 

ボクシング界の英雄、モハメド・アリは自らのボクシングスタイルを「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と表現したが、村田氏はそんな耽美な言葉は使わない、いや、使いたくないという。

「リングに上ってしまえば、文字どおり野性の"犬"になれる。そういう場だと思っています。最近は目標も新たに発見しました。日本のスポーツを盛り上げるためには、国内の"どデカい"会場でビッグマッチをやるべきじゃないか、と。どんなに世界に出ても、国内を盛り上げなきゃ意味がないですから」 

短き生涯を悟り、野性を解き放つ犬のように暴れたい。自分の価値観だけを信じて歩むプロボクサー人生は、今、このボクサー犬のように折り返し地点を迎えている。人生は短い、後はどう生き切るか、と村田氏は思うのだ。


RyotaMurata                            1986年奈良県生まれ。中学からボクシングを始め、2004年に日本選手権初優勝、12年ロンドンオリンピックでは金メダルを獲得し、17年10月WBA世界選手権にてミドル級王者となる。(ボーア・ボクサー・オス・4歳)

Direction=島田 明 Text=編集部 Photograph=レスリー・キー Styling=松野宗和 Hair & Make-up=TOYO

*本記事の内容は17年12月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)