現代日本のモハメド・アリ!? 橋下 徹はリングに上がるのか? ~ビジネスパーソンの言語学39

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!

「朝日新聞の論説委員はみんなあんぽんたん」ーーー大阪ダブル選挙を「奇策」と表現した朝日新聞を橋下徹元大阪市長がTV番組で批判

ラップという音楽のルーツは、モハメド・アリにあると言われている。小気味良い言葉で対戦相手を挑発し、試合を盛り上げ、ボクシングというスポーツを世界的なスポーツ・エンターテインメントとして確立させた。“If you even dream of beating me you’d better wake up and apologize.”(俺を倒そうなんて夢を見ているのなら、目を覚まして謝ったほうがいい)なんて挑発されたら、相手も否応なくヒートアップする。しかしアリは冷静そのもの。リング上では戦略を駆使し、世界最高のボクサーとして君臨した。

橋下徹もまた挑発の天才だ。大阪府知事・市長時代から、敵を作り争点を明確にするという手法で、世間の耳目を集め、彼の宿願である「大阪都構想」を盛り上げてきた。しかし2015年大阪市長時代に都構想は住民投票で否決され、その年に任期満了をもって政界を引退。それでも再び都構想が焦点となった今回のダブル選挙については、口を出さずにいられなかったのだろう。選挙翌日にテレビのワイドショーに出演すると、ダブル選挙を批判した朝日新聞や都構想で対立する公明党に対して、得意の挑発を行った。

「朝日新聞は(沖縄で行われた)県民投票を奇策と言わずに、ダブル選挙を奇策、奇策って。朝日新聞の論説委員はみんなあんぽんたん」

「(吉村新知事について)知事になっても次の衆院選になったら、公明党を倒しに行く」

「(公明党の現職のいる衆院選挙区に維新公認候補を)全部立てていく。エース級のメンバーがもう準備できている。戦闘態勢に入っている」

この言葉を額面通りに受け取る必要はないだろう。彼自身が自らの著書でこう綴っている。

「国政ならいざしらず、地方政治などまずメディアは取り上げない。(中略)取り上げられるように工夫を凝らすのは、正しいポピュリズムだ。(中略)世間の関心を引き、その力でもって改革を進めるのが目的の場合、それは正しいポピュリズム」(『政権奪取論 強い野党の作り方』朝日新書)

“あんぽんたん”、“戦闘態勢”など、見出しになるキーワードをちりばめることで、メディアは彼の発言を取り上げる。国政をあずかる与党としても人気・知名度絶大な橋下本人の出馬も恐れているのは間違いない。リングに上がらずとも、相手にプレッシャーをかけているのは見事。炎上ではなく議論を盛り上げるSNS時代の世論形成術は、ビジネスパーソンにとっても勉強になるといえるだろう。

ただひとつ言えるのは、この戦略はどんな形であれ彼自身が「いつかリングに上がる」という前提で成立するものだ。府知事、市長としてリングで戦っているときは、殴っても殴られても、その姿を世間が見ていた。だから説得力もあった。現在のように安全圏で発言をしているだけでは、いつかは飽きられる。モハメド・アリは挑発し、そして勝利したから伝説となった。橋下徹がリングに上がり、殴り合う日が来るのか。今後の動向から目が離せない。

vol.40に続く

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images