中田英寿 日本文化、伝統を海外へ伝える旅

日本全国、47都道府県を巡る旅も終盤を迎えている元プロサッカー選手の中田英寿さん。5年にわたる旅から感じ続けたのは、日本の伝統と文化の素晴らしさ。感性を揺り動かした日本の姿を伝えたい──次なる中田さんの活動が始まる。

ブラジルで発信される多様な日本の姿

 4年に1度行われる世紀の祭典「FIFAワールドカップブラジル2014」がまもなく幕を開ける。その大会期間中、ブラジル最大の都市であるサンパウロに『nakata.net Cafe@サンパウロ』(6月11~26日)がオープンすることはご存知だろうか?
 そもそも『nakata.net Cafe』は、2002年の日韓ワールドカップの際、来日する海外サポーターたちをもてなしたいとの想いから、ホスピタリティー機能を充実させたコンシェルジュカフェとしてオープンしたのが始まりである。
 その後'06年のドイツ大会の時には、単なるカフェとしての機能だけではなく、国籍を問わず一体となってサッカーを楽しめるフットボールラウンジとして運営され、'10年の南アフリカ大会の時には、「Revalue NIPPON(日本再発見)」をテーマに掲げ、中田英寿さんが国内外の旅を通じて出会った日本のさまざまな文化や伝統を積極的に発信した。過去3回の開催で、のべ40万人以上が来場するなど、『nakata.net Cafe』の果たした役割は大きい。

「最初はサッカーを盛り上げるイベントや交流の場として運営していましたが、'10年の場合は、僕自身がすでに日本全国の旅を始めていたので、新たな試みとして自分が体験して感銘を受けた日本の特産品や食事のメニューを提案し、日本の魅力を伝えることに主眼を置きました。その際は東京での開催だったので、日本の文化・伝統を日本の人たちに伝えていく場所としての役割を担ったわけですが、'12年のロンドン五輪の開催期間中に現地で日本酒Bar『N-Bar』をオープンした経験も踏まえ、今回はさらにステップアップして、日本の文化・伝統を海外の人たちに伝えていく段階に来たんだと思ったんです」
 気になる店舗は、ブラジルのカフェランキングで1位を獲得したこともある人気カフェ「Octavio」とのコラボレーションで運営される。現地を訪れる日本人に向けて情報を提供するホスピタリティーセンターとしての機能も担いながら、日本の伝統文化などの素晴らしさを広く海外の人たちに伝えるべく、日本酒の蔵元による酒のサービスをはじめ、西麻布『ラ・ボンバンス』の岡元信シェフによる食文化の発信や、岐阜の美濃焼の器を実際に使用しながらの伝統工芸の発信も行う予定だ。
「国内を巡る旅を始めて5年ほどになりますが、日本の文化・伝統・農業・モノづくりに直接触れることを通じて、日本には世界に誇れる文化や技術があることを実感しています。そのなかのひとつが酒であり、食であって、こんなにも素晴らしいものが伝わっていないとしたらもったいないなと思うんです。いいものや面白いものは、みんなに伝えたいじゃないですか。そのための情報発信を行い、多くの人たちに興味を持ってもらう場として『nakata.net Cafe』があるのです」

47都道府県を巡る旅も残すところあとひとつ

 聞けば、'09年から始めた47都道府県を訪ねる旅も、あとひとつを残すのみだという。旅自体がそれで終わることはないが、ひとつの区切りになることは間違いない。全国を巡り終えたその後の展開は、どう考えているのだろうか。
「旅をするほど、自分が日本を知らないということを痛感しましたね。食にしても、工芸にしても、そこにはたくさんの素晴らしいものとの出会いがありました。文化というのは、風土があって初めて成り立つものであり、素晴らしい文化というのは素晴らしい風土によって生まれ、育まれるのだと思います。日本という国は、食にしても道具にしても非常にいいものが揃っていて、豊かな文化がある。47都道府県を巡る旅が一段落したら、今度はその旅で得たことをまとめて、国内外に向けて発信していきたいと考えています。これまでがインプットだとしたら、次はアウトプットの段階になっていくのかなと」
 そう考えると、今回のブラジルでの『nakata.net Cafe@サンパウロ』は、中田さんが思い描く今後の活動ビジョンの一例といえるだろう。現地に行く際はぜひ立ち寄り、ブラジルから発信される日本を体験してほしい。

鍛金の人間国宝・奥山峰石さんと。鍛金の技術は日本の車などのプレス技術に活かされ、伝統技術が現代のモノづくりへと継承されている。

日本酒の魅力を広く伝えるために

 ワールドカップ期間中にブラジルでオープンする『nakata.net Cafe@サンパウロ』では、蔵元による日本酒のサービスが行われる。これは、日本全国を巡る旅をきっかけに日本酒の美味しさを知り、今までに200を超える酒蔵を訪ね歩き、利き酒師の資格も取得した中田さんの、「日本酒の魅力を海外の人たちにも知ってもらいたい」との想いから実現した。
 四季のある国で生まれた日本酒は、北から南まで、地域ごとに異なる気候風土や歴史、地域の味覚とともに受け継がれた文化でもある。日本酒を好きになり、酒蔵を訪問するようになってから、お酒の楽しみ方が変わったと中田さんは言う。
「葡萄が違うとワインの味も違うように、日本酒も米が違うと味も違います。製造工程まで興味を持つと、日本酒の奥深さがさらに広がりましたね。あくまでも僕のイメージですけど、料理の味を高い酸で切りながら次の料理に備えていくのがワインだとしたら、日本酒は今食べているものをより美味しくしてくれる効果がある気がします」
 豊かなポテンシャルを秘めた日本酒だが、その魅力が正しく理解されているかといえば、そんなことはない。
「残念ながら日本酒の魅力を伝えていく機会がこれまでは少なかったと思います。だからこそ、その分、可能性はあるわけです。例えば、白ワインにはソーヴィニヨンもあればシャルドネもあるということを理解してワイン文化に入っていくように、日本酒もどんなお米があって、どういった温度管理がいいのかということを知ってもらえたら、もっと楽しみ方は広がっていくはず。それこそ飲み方だって、お猪口で飲めばいいと思っている人は多いでしょうが、僕は、冷酒は香りや味の変化をより楽しむために、ワイングラスで飲むこともあります」


FIFAオフィシャルライセンス商品・日本の酒シリーズ

日本酒の部類としては世界で唯一のFIFAオフィシャルライセンス商品。全国の12の有名酒蔵から選びだされた全13種類の銘柄が、FIFAのオフィシャルロゴのラベルを使用したオリジナルボトルにて販売される。本商品のアンバサダーは、中田さんが務める。

Text=澤田真幸 Photograph=操上和美

*本記事の内容は14年4月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)