「47歳になって、さまざまな愛の形が見えてきた」ペナルティ・ヒデが恋愛小説を書いた理由

2013年に『四季折々 アタシと志木の物語』で小説家デビューを果たしたペナルティ・ヒデ。約5年ぶりとなる新作『いつか、あなたと』は、「生まれ変わって、人生をやり直せたらいいのに」という思いを抱えた男女が惹かれ合い、お互いの人生を見つめ、いまという時間を大切に生きる恋愛小説だ。


学生時代から妄想力を鍛えてきた

新作のテーマはすばり「愛」。ヒデさんは、なぜいま、恋愛小説を書こうと決意したのだろうか。

「47歳という年齢なって、正直、恋愛小説というジャンルに挑むには少し照れくさい気持ちがありました。でも、その一方で、愛をテーマにした小説を書くには“ちょうどいい時期だな”とも思ったんです。僕自身、いろいろな愛を経験してきました。恋愛はもちろん、結婚していまは子供を育てていますから家族愛の大切さも強く感じている。それに、ペナルティは今年で結成26年。時間をかけて培ってきたコンビ愛というのも、愛の一つの形だと思います。『いつか、あなたと』は男女の恋愛を軸に話が進みますが、愛というのはそれだけではなく、家族愛もあるし、男と男の愛もある。この小説では、さまざまな愛の形を表現したかったですね」

『いつか、あなたと』は、真っ直ぐに生きようと思いながらも半グレになるしかなかった男と、恵まれた家庭に育ちながらも心に欠けたものを抱えている女。2人の男女を中心にストーリーが進む。だが、彼らを取り巻く “脇役”やサブエピソードがまた、心に染みる。

「年配の方から、父と娘が再会を果たす場面に“涙しました”との感想をいただきました。僕も自分で書きながら、感極まって泣けてきたシーンなので、その気持ちを共有できて本当にうれしい。あと、主人公と、中華料理店の親父さんとのやり取りがよかったという意見もいただきましたね。僕と同世代か、もっと年上の方からの反響が多くて、幸せに感じています」

小説に描かれた人物やエピソードは、ヒデさんの実体験がベースになっているのだろうか。

「学生時代の恋愛経験は、それほど多くないんです。サッカーに打ち込む毎日で、寮に入り、門限も厳しかったですからね。だから、妄想のプロになった。寮の部屋で理想の恋愛を頭に思い描いて、イマジネーションの世界を広げて楽しむ。ちなみに、サッカーもイマジネーションが重要なんですよ。試合の前に、こういう場面が来たら、右に行って、左へ行って、ボールを浮かせて……と妄想を膨らませておく。そんな妄想が試合で意外に役に立つものなんです。『いつか、あなたと』も、主要な登場人物やエピソードはほぼ妄想の世界。でも、いくつかは実際の経験がもとになっています。たとえば、女の子が祖母に自転車を買ってもらうシーン。これは、僕の祖母が年金を貯めて自転車を買ってくれた思い出に基づいたもの。祖母は僕が20歳のときに亡くなりましたが、もっとおばあちゃん孝行をしたかったという気持ちを込めて書きました」

映画化? ぜひともお願いします

純粋な愛が描かれている一方で、バイオレンスやアクションなど、半グレ社会の描写も多い。スリリングな展開に、思わず手に汗握る。

「デリケートな愛の物語を際立たせるためには、血なまぐさい場面も必要かなと。僕は映画が大好きで、特に『ゴッドファーザー PARTⅡ』は数えきれないほど鑑賞しています。半グレの生き方を強いられた主人公は、ある意味、僕の理想像。学生時代に打ち込めるものを見つけて、友情を大事にして、社会に出てからは汗水垂らして働き、理想の女性に出会って……。僕の息子にも主人公のような生き方をしてほしいですが、法律ギリギリの世界に行ってもらっては困りますね」

映画化したいとの思いはあるのだろうか。

「映画関係者のみなさま、ぜひともお願いします(笑)。最近は読書しない人が増えていますよね。そういう人が映画を見て、“本も読んでみようか”という流れになったら最高です。映画にするなら、主演は誰がいいか? 演じていただける方がいらっしゃれば、もう、どなたでも大歓迎ですよ。ヒロインももちろん、どなたでも。あえて言えば、めちゃめちゃ売れている人がいいな。たとえば、広瀬すずさんが出てくれたら、映画の観客動員も、本の売り上げも伸びそうじゃないですか(笑)」

お笑い芸人として、過密なスケジュールをこなすヒデさん。執筆時間の捻出に苦労したことだろう。

「地方の仕事が多いので、新幹線や宿泊するホテルの部屋でコツコツと書きました。書き上げるのに、3年くらい費やしたかな。少し書くたびに、編集者からアドバイスやダメ出しがあって、それを参考に書き直す作業を繰り返しました。時間はかかったけど、楽しかった。お笑いもそうですが、見てくれる人がいて、反応があると、新しいアイデアがわいてくるんです」

相方のワッキーさんは、「執筆に打ち込むヒデさんの邪魔にならないよう、控え時間は楽屋から出ていくなど、気を遣いました」とコメント。コンビ愛を感じるエピソードだ。

「ワッキー、そんなこと言ってました? たぶん作り話でしょう(笑)。あいつ、まだ本を読んでいないだろうし、前作も“読まずにネットで売った”と噂になっていましたから。読んでくれたらうれしいけれど、一生読むことはないと思いますね(笑)。相方のことは気にせず、今後も継続して、第3作、第4作と書いていきたい。もう新作の構想は頭の中にあるんですよ」

ずっと生まれ変わりたいと思ってきた。真っ直ぐに生きようとしながらも、暴力事件で高校を中退し半グレになるしかなかった男。恵まれた家庭に育ちながらも、心の欠けたものをずっと探している女。再起を図るために故郷を捨てながらも、ヤクザになるしかなかった男。自由に生きる場所を東京に求め、逃げてきた女。酒と暴力で大切なひとと別れてしまった男。さまよう孤独な魂が、六本木で出会い、惹かれ合い、物語が始まる。


『いつか、あなたと』 
中川秀樹(ペナルティ・ヒデ)
幻冬舎 ¥1,389(税別)


Hideki Nakagawa
1971年千葉県生まれ。名門・市立船橋高等学校サッカー部に所属し、2年生からレギュラーとして活躍、全国高等学校サッカー選手権大会準優勝とインターハイ優勝を経験。Jリーグからスカウトを受けるほどの実力だった。その後、高校・大学の後輩であったワッキーとお笑いコンビ「ペナルティ」を結成。バラエティ番組やスポーツ番組、全国各地の劇場を中心に活動中。『いつか、あなたと』は本名の中川秀樹で執筆。


Text=川岸 徹 Photograph=鈴木規仁