羽生結弦の幻影を追いかける宇野昌磨の孤独な戦い~ビジネスパーソンのための実践的言語学31

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「楽しいという気持ちを、今年は持たないようにしている」ーーー四大陸選手権で金メダルを獲得したフィギュアスケートの宇野昌磨選手

ショートプログラムの4位からフリーの世界最高得点を叩き出して逆転、国際主要大会ではじめての優勝をとげた宇野昌磨。これまで羽生結弦らの後塵を拝することが多く、"シルバーコレクター"ともいわれていたが、今回は見事実力をし、金メダルを獲得することができた。

「結果にこだわらずに試合に挑もうと言い続けてきましたけど、やはり優勝できたことは凄くうれしい」

「1位を獲ることが、みんなのためになるんだなって。1位にこだわりたいと思った」

採点競技であるフィギュアスケートは、自分との戦いだ。勝負よりもまずは自分の滑りをすること。しかしそれだけでは1位になれないということに宇野も気づいたのかもしれない。彼のライバルであり、憧れの存在でもある“絶対王者”羽生は、「美しく、勝つ」ことにこだわっている。これまで王者を追いかける挑戦者だった宇野も、いよいよその境地に達したのかもしれない。

「楽しいという気持ちを、今年は持たないようにしている。楽しむと緊張もしないし、いい方向に向きやすい。でも『楽しむ』って挑戦する側だからこそできる。いつまでも追いかけているだけじゃなく、追われるっていうのを考えつつ、『やるぞ』というところで『やる』選手になりたい」

スポーツに限らず、趣味でも、仕事でも、何かを極めようとしたとき、楽しむ気持ちは欠かせない。だが、その道を進んでいくうちに必ず「楽しいだけではない」時期がやってくるものだ。それは孤独な戦いだ。そこで歯を食いしばって進めるかどうかが、大きなわかれ目になるような気がする。宇野が優勝に浮かれることなく、歯を食いしばって先に進もうとしているのは、そこに羽生という存在がいるからにちがいない。

現在、怪我で欠場中。長年の戦いで満身創痍の24歳の羽生結弦に残された現役の時間は、恐らく少ない。彼が絶対王者でいる間に、21歳の宇野が追い抜くことができるのか。3月に行われる世界選手権には、両者とも出場を予定している。絶対王者への挑戦権は得た。宇野の孤独な戦いはすでに始まっている。


Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images


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