大坂なおみが訴えた「自分ごと化」の大切さ~ビジネスパーソンの言語学98

各界のトップランナーたちのコメントには、新時代をサバイブするヒントが隠れている。当コラムでは、ビジネスパーソンのための実践言語学講座と題して、注目の発言を独自に解釈していく。98回目、いざ開講!

「あなた自身になにも起きていないからと言って、なにも起きていないわけではない」ーーー全米に広がる人種差別の抗議デモについてテニスプレイヤー大坂なおみのTweet

これもまた新型コロナウイルスが引き起こした悲劇のひとつなのかもしれない。ミネソタ州で起きた白人警官による黒人暴行死をきっかけに、全米に広がりつつある抗議デモ。デモ隊の一部が暴徒化し放火や略奪を行うなど、その影響は計り知れない。映像で見るデモ隊は、ロックダウンで溜め込まれたストレスを吐き出しているかのようにも見える。建国以来、アメリカが抱えている人種差別という問題がコロナウイルスによってあらためてあぶり出された形だ。いまやテニス界を牽引する存在となったLA在住の大坂なおみは、この問題についてTwitterでコメントを発表した。

“Just because it isn’t happening to you doesn’t mean it isn’t happening at all.”(あなた自身になにも起きていないからと言って、なにも起きていないわけではない)

警官に抑え込まれて死んでしまった黒人男性は自分かもしれない。自分はたまたまその場にいなかっただけで、たまたまその差別的な警官に出会わなかっただけで、もしかしたら自分の身に起きていたことかもしれない。そう考えるから、そうされてもおかしくない立場だからこそ彼女は声を上げた。そしてみんなに“自分ごと化”してみるように訴えた。

彼女が訴えたかったのは、有色人種に対する差別問題だろう。だが、いま世界に必要なのは、この想像力だと感じた。自分も感染するかもしれない。だれかにうつしてしまうかもしれない。クラスターを作ってしまうかもしれない。人種差別はアメリカだけの問題ではないかもしれない。自分も差別しているのかもしれない、されているかもしれない。匿名のコメントでも誰かを激しく傷つけてしまうかもしれない……。そうやって自分と世界に想像力を巡らせ、目をむけてみれば、多くの問題が解決するのではないだろうか。ジョン・レノンが『Imagine』で伝えたかったのも同じメッセージだった気がする。

恐らく新型コロナウイルスは、世界中の人々にストレスの種をまきちらしている。それはある意味でウイルスそのものよりも広く、重く、人々の心を蝕んでいるのかもしれない。私たちは自分もまたストレスの真っ只中にいるのだということを意識すべきだろう。誰かを非難する前に、他人を攻撃する前に、自分の心の声に耳を傾け、自分はストレスを発散しようとしているだけではないかと、考えてみてはどうだろう。22歳のテニスプレイヤーの短いつぶやきから学ぶべきことは多い。


Text=星野三千雄