【中村俊輔】カズさんに接して、自分の決断を肯定できた

数々の称号を得て、今も現役を続ける天才レフティ中村俊輔。現在、J2の横浜FCに所属する彼に、何を想い、何を求めて、ボールを蹴り続けるのか、独占インタビューを行った。短期連載第1回。


しょうがないと諦めるのか、いやまだできると闘うのか

Jリーグで二度のMVPを受賞した唯一の選手、それが中村俊輔だ。22歳と35歳での受賞は、当時の最年少記録と最年長記録だった。

1997年のプロデビュー直後から、天才肌のレフティとして所属する横浜F・マリノスだけでなく、日本代表でも活躍。イタリア、スコットランド、スペインと欧州でもプレーし、スコットランド・セルティック時代、欧州チャンピオンズリーグ対マンチェスター・ユナイテッド戦で決めたフリーキックからのゴールは、伝説として語り継がれ、同クラブのレジェンドのひとりとなった。

2010年横浜F・マリノスへ復帰すると、’13年にはキャプテンとして、優勝争いをするチームを牽引している。ハードで泥臭い守備も厭わないその姿からは、ベテランとしてのオーラが漂い、かつての繊細なイメージは消えていた。

そんな中村は今、J2の横浜FCに所属している。

クラブ運営に外資のシティグループが参入し、クラブの根幹が変わるなかで、F・マリノスを去り、’17年ジュビロ磐田へ移籍した。相次ぐ怪我と戦いながらも現役続行を決意した中村。41歳となった今夏、2部という初めてのカテゴリーでの挑戦を選んだ。

サッカー選手にとっての41歳は、ビジネスパーソンに置き換えれば、定年間近の年齢だろう。選手寿命が延びたと言われる昨今のJリーグでも40代で現役を続ける選手はわずか。

中村俊輔は何を想い、何を求めて、ボールを蹴り続けるのか?

夏の暑さが和らいだ10月になり、J2リーグの戦いは続いている。上位2チームはJ1リーグへの自動昇格が決まり、3位から6位は昇格プレーオフを戦う。今季は柏レイソルが単独首位を走り、2位以下は混戦の様相を見せている。そんなチームで中村俊輔は、先発といよりもベンチ、もしくはベンチ外という立場でチームを支えている。

「いろいろな想いは当然ある。でも、ベンチで試合を見ているのも悪くはないよっていうふうには、なっているから。僕も大人になっているわけです」

加入した7月13日以降、天皇杯で先発したが、リーグ戦では先発出場はわずか2試合。ベンチを温める日々が続いている。

現役のアスリートであれば、試合に先発出場し、チームの勝利に貢献することを願う。ルーキーがベンチスタートを経て、プロの水に馴れ、レギュラーポジションを争い、その場所を勝ちとっていう過程が上昇曲線だとすれば、ベテラン選手がその場所を負われて、ベンチに座るというのは、後退と自覚せざるを得ない現実だろう。

「若い頃とは当然違う。同じようなプレーをしようと思っても、身体が動かないということもある。落ちていると言われても、それはしょうがないでしょう」

中村はサラリとそう答えた。自身を客観視し続けてきた男だからこそ、自分の現状も冷静に受け止めている。長年使い続けた身体は当然、いつまでも同じ状態というわけにはいかない。中村自身も右足首に滑膜炎を抱えている。関節の骨の間のクッションの役割を担う滑膜が炎症を起こす症状は、高齢者の膝痛の原因にもなるが、足首で生じるというのは、まさに職業病とも考えられる。柔らかい足首が中村の多才なプレーを演出してきた。

「長年使ってきたから、自然と軟骨が削れてしまった。そういう意味では許せるというか、納得はできる」

では、ベンチに座る心境もまた、過去とは違う新しい想いなのか?

「若い頃と同じですよ。なんで自分が出られないのかという悔しさは変わらない。そもそも、その悔しさがなくなったら、現役選手としてはダメだと思うから。もちろん昔に比べれば、少しは柔らかい気持ちでいられる部分もあります。『しょうがない、足首も休ませなくちゃ』と納得させるというか。だけど、試合を外から見ていると、『自分だったらこういうプレーをしたい、するだろうな』という目線は変わらない。基本的には、もっと上手くなりたいという欲があるから」

カテゴリーが1部から2部へ変わり、そこでもベンチを温めているという現実。コンディションのこともある。途中加入という事実もある。だとしても、前向きな想いだけではない、落胆があってもおかしくはないはずだ。

「でもね、そこにカズさん(三浦知良)がいるから。本物が隣にいる。それは本当に大きい。たとえば、自分は自分と闘っているんだからと言って、現状に満足できる人もいると思います。それもひとつの生き方。だけど、カズさんはそれだけじゃない。やっぱり、ベンチに入れない、試合に出られないということに対して、悔しさや怒りを抱いているなと感じるんです。実際はそういう感情を周囲に見せることはない。だけど、一切手を抜かずにトレーニングをし、身体のケアを行っている姿を見れば、その反骨心みたいな熱はわかります。そういうカズさんを間近で感じながら、自分が抱いている葛藤は間違いじゃないんだと思える。同じというのはおこがましいですけど、自分と重なる部分があって、安心できるというか、僕はこのままでいいんだと思える」

カズは現在51歳。その年齢でプレーしている選手は、日本の最年長記録だし、世界的にも稀だ。昨年決めたゴールは「リーグ戦で決めた最年長ゴール」としてギネス記録にも認定されている。違うチームでプレーしたいたときから、"カズさん"に対するリスペクトの想いは抱いてきた。しかし、実際チームメイトになったからこそ、中村に大きな影響を与えてくれる存在となった。改めて、カズについて訊くと、いったん言葉を止めて、深く考えたのちに中村は答えた。

「年齢がこれだけいって、ベンチ外になれば、引退を考えてもおかしくないし、引退までいかずとも、やる気がなくなってしまうはず。自分に対する絶望感を抱くだろうし、空しさを感じるだろうし、辛いときだってある。いっぱいネガティブな感情が出てきて当然だと思うです。でも、カズさんはそういうのを一切、微塵も感じさせない。あるんだろうけれど、見せることがない。練習試合でアシストを決めたりもする。いいプレーを見せてもくれるからね。走る姿、身体つきを見ても、52歳だなんて思えないからね(笑)」

年齢を重ねて思うようにはいかなくなる自身の身体。それは誰もが逃げられない現実だ。しかし、そういう加齢を言い訳にせず、チーム内の競争から逃げない精神力。このふたつのバランス、葛藤とどう向き合うかが重要なのだと中村はいう。

「葛藤は常につきまとう。うまくなりたいからといって、昔のように根をつめた練習ができないこともある。身体のことを考えて、しょうがないと諦めるのか、いやまだできると闘うのか。このバランスを保つのは難しい。非常に厳しいけれど、年齢を重ねても、たとえカテゴリーが落ちて、ベンチに座っていたとしても、このふたつのバランスを保っていれば、『落ちたな』という落胆を軽減させることはできるから。多少だけどね」

カズの姿に接した中村は、自身の決断が間違いではなかったと思えたに違いない。2018年、負傷を抱えながらのシーズンが終わるころ、中村はある奇跡に賭けた。その奇跡を信じて、現役続行を決意することになる。

続く

Shunsuke Nakamura
1978年神奈川生まれ。横浜F・マリノス、レッジーナ、セルティックFC、RCDエスパニョール、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田を経て、現在横浜FC所属。日本代表98試合出場/24得点。


Text=寺野典子 Photograph=杉田裕一