【滝川クリステル】食品ロス問題専門家・井出留美「食品の表と裏を知らずして企業の繁栄はなし」

売れ残りの恵方巻き騒動で大きな注目を浴びた食品ロス問題。世界では毎年、食料生産量の3分の1(約13億トン)が廃棄されているという。食品ロス問題のジャーナリストである井出さんに、食品にまつわる光と闇を聞いた。


食べ物が命であることを忘れかけている

滝川 5月24日の参議院本会議で、日本でもついに食品ロスに関する法律「食品ロス削減推進法」が可決されました。2016年2月3日にフランスで世界初の食品廃棄を禁止する法律が成立してから3年強。長年にわたり国内外のさまざまな事例を取材されてきた井出さんは、この件についてどのようにご覧になりましたか。

井出 ついに、ですよね。ただ一般の方に十分な情報が届いているとは思えません。この春にあるスーパーが、賞味期限切れの食品を破格の値段で販売しました。それは最近増えている素晴らしい取り組みだと思うのですが、関連してテレビ局が「あなただったら買いますか?」と街頭アンケートを行ったところ、半数以上が買わないと答えたんです。「お腹を壊すから」という理由で。

滝川 賞味期限(美味しく食べられる保証期限)と消費期限(安全に食べられる期限)の認識が混同されていますよね。私も家で賞味期限の切れた調味料を使っていると、遊びに来た友人に怪訝な顔をされることがあります。別にすぐには品質は変わらないのに。

井出 まず自分の舌で判断することをしなくなっていますよね。ヨーロッパでは18ヵ月以上の賞味期限があるものは年表示だけでOK。缶詰なんて理論的には半永久的に持ちます。ある食品メーカーの方は、見切り品や賞味期限ギリギリの商品のほうが、味がしみて美味しいと言っていましたよ。叩かれそうで大きな声では言えないけどって、こっそり教えてくれました。

滝川 メディアの責任も大きいですよね。期限とかルールに異様に厳しくてすぐに「不正だ」と叩くから。そのくせ大量廃棄についての説明はないですし、メーカー側が、廃棄コスト込みで価格設定をしていることも伝えない。私たちは捨てるものの代金も払っている、という報道がもっとされたら、問題を身近に感じる人も増えるのに。

井出 マスメディアを見ていると、3R(Reduce、Reuse、Recycle)のうち、リユースとリサイクルのニュースには飛びつくけれど、最優先のリデュースにはほとんど触れられない印象が強いです。無駄をなくすには、水道でいうとまず蛇口を締めるのが大原則。リサイクルは最終手段です。でも実際は流しっぱなしの状態ですよね。国内だと京都市と文京区が3Rでなく2R(Reduce、Reuse)を推進していますが、世界全体で考えると周回遅れの印象は否めません。

滝川 そこに意識を向けるにはどうしたらいいのでしょう。

井出 「食べ物が命である」ということを意識する機会を増やしたいですよね。規格外の野菜については時々報道されますが、豚や魚も規格があります。例えば豚は平均体重115キロ前後で出荷されるんですって。規格範囲より多くても少なくても殺処分。しかもその処分は食品ロスの統計に入っていません。数だけ追って、根本問題を見逃すのも怖いです。

滝川 決められた数値に対して厳しすぎるんですよね。

井出 食品メーカーに勤めていた時、輸入品の冷凍ベーグルが通常より1個多く入っていた、というクレームがありました。アメリカの本社に報告したら驚かれましたね。「多いならいいんじゃないの」って。

滝川 クレームはどの国もあるでしょうけれど、企業側の対応が違う気がします。日本は必要以上に「お客様第一」になっているのではないかと。食品ロスは命を粗末にしていることと同義ですから、どこかで歯止めをかけなければなりませんね。

食品ロスの問題と労働環境の深い関係

井出 食品ロスの問題は、働き方とも密接な関係があると考えています。G7で、日本は1970年からの約50年間、労働生産性が最下位なんです。過剰サービスが根づいてしまっている。そのシワ寄せは当然現場に来ていて、実際にあるコンビニではオーナーの方が失踪したり亡くなられたりという悲惨な出来事が珍しくない状況です。

滝川 コンビニは光熱費の問題もありますし、便利だけれど、そこまで便利でなくてもいいのにと思うことが多いです。

井出 アメリカや韓国ではフランチャイズを取り締まる法律があります。それが日本にはないから本部がやりたい放題になっているんですよ。何個売れ残ろうが本部に関係ありませんし、むしろ廃棄が多いほうが本部は儲かるシステムです。コンビニは本当に悲惨です。売れ残り分はオーナーの負担ですから、売り上げ2億なのに収益ゼロの店舗もあるくらい。

滝川 パワハラですよね。日本人は捨てられない気質というけど、そう思えなくなりました。大量生産の文化はアメリカから来たのかもしれないけれど。

井出 ただアメリカは、大量生産で生じた余剰物の再利用を推進する法律がたくさんあります。例えば「善きサマリア人の法」は、無償で善意の行為には責任を問われない、というものです。また飛行機に乗っていて急病患者が出た時、お医者さんが応急処置をして、もし何かあってもそこに責任はない、と。日本にはそれがないどころか訴えられた例もありますから、日本のお医者さんは乗り合わせても名乗りづらいと思います。食品メーカーも同じでしょう。

滝川 何かあって責任を問われるよりは、捨てたほうがいいという考え方になるんですね。感覚も麻痺してしまうのかも。

井出 それとアメリカの困窮者家庭の子供たちは週末、地域で余った食べ物などを持ち帰っていい取り組みがあります。日本でも国全体でやったほうがいいと思って文科省に提言したら、平成の初めに給食で死亡事故があったから難しいと言われました。

滝川 過去の事例を引きずりますよね、特に悪い例ばかり。

井出 日本の組織文化の特徴ですね。評価軸も、対前年、というように常に過去と比べる。でもヨーロッパって最初に理想に基づいた目標値を掲げますよね。無茶な数値目標でもまず掲げて、無理だったら下方修正をすればいいという考え方。スタートが違うので、日本はSDGsなどへの取り組みも形骸化してしまうのではないかと心配です。

滝川 井出さんは「Yahoo!ニュース個人」で食品ロスに関する事例を紹介されています。見切り品の販売を始めたコンビニエンスストア・セイコーマートや、すべて注文制にして売り上げを上げた元気寿司、労働時間と生産量を抑えることでむしろ売り上げを伸ばした個人店など、取り組みと利益を両立している事例もたくさんあるんですよね。でも大手はなかなか動かない。

井出 「食べ物も労働力も命である」ということが抜け落ちた構図に見えますよね。でも世界的には、経済・健康・環境の三本柱が持続可能かどうかを評価軸にしていかなければ、企業としてはもう通用しません。一方でSNSの普及もありますし、自治体ごとの取り組みも進むでしょう。例えば世田谷区、文京区、杉並区では自宅の余剰食品を寄付するフードドライブのボックスが常設されています。海外では当たり前の食べ残した食材の「持ち帰り」なども、個人経営店から成功事例がどんどん出てくるのではないかと期待しています。もちろん法整備も進んでくれると嬉しいですけど。

滝川 政治家の方にもがんばっていただかないと。

井出 後づけかもしれないけれど、銀行員だった父は北海道から九州まで転勤を繰り返して、やっと支店長になった半年後に46歳の若さで脳梗塞で他界したんです。以来、命ということについてずっと考えてきて、私の仕事はそこから全部つながっているのかもしれません。誰もが適度に働き適度に食べて楽しく暮らせる理想の社会のために、自分にできることは精一杯伝えていきたいですね。

『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』
井出留美
¥780 幻冬舎刊
ほとんどの食品の賞味期限は実際より2割以上短く設定され、そのうえ消費者は知らずに、廃棄のコストを負担させられているのだ。食品をめぐる日本の不可解な構造に初めてメスを入れた衝撃の書。

Rumi Ide
奈良女子大学食物学科卒業後、ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で食料廃棄に憤りを覚え、office3.11設立。以降ジャーナリストとして国内外の食品ロス問題に取り組む。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞。


Text=藤崎美穂 Photograph=斎藤隆悟 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=野田智子


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滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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