紛争解決人 瀬谷ルミ子 問題解決で心がけることは事前準備と、あと一歩の粘り

女性は元来、男よりも強い生き物だといわれる。種の保存のための強さを備えているというのが科学者の言い分だ。武装解除、紛争解決という仕事について淡々と語る紛争解決人瀬谷ルミ子さんを見ていると、なるほどそれも真実なり、と思う。「今までに兵士に銃をつきつけられたこともあります」華奢な体格、穏やかな笑顔からは想像のつかない数々の経験に驚かされる。

危機を乗り越えるシミュレーション力

 現在、認定NPO法人 日本紛争予防センター事務局長を務める瀬谷さんのミッションは、紛争地において社会を立て直すこと。これまで国連PKOや外務省、NGO職員として紛争地における武装解除や、復興のための支援活動を行ってきた。赴任してきた場所は、シエラレオネ、アフガニスタン、コートジボワール、ソマリア、ルワンダなど。死と隣り合わせの危険な地域での仕事は、大変な修羅場続き。道なき道を行く険しいものであるに違いない。しかし瀬谷さんは、さらりと過去を振り返る。
「確かに死の可能性は常に意識しています。普段から徹底した事前準備、シミュレーションをするよう心がけています。危険地域に派遣されるJCCPの職員も、非常事態に備え、対処する訓練を受けています」

 最悪の危機状態を切り抜けるには冷静さが欠かせない。いざという時にパニックに陥ってしまわないためには、思考や行動のパターンを訓練しておくのが有効なのだ。しかしそうはいっても怖くはないのか。
「危険度に応じて、武装護衛をつけるなどの措置を取ります。身を守れない可能性が高い場合は活動を一旦見合わせるなどの判断力を持つことで、恐怖心はある程度コントロールできます」
 武装解除の仕事では、交渉相手の多くは軍の司令官など上層部の人々だ。そうした手強い相手を説得するにも、リサーチとシミュレーションは欠かせない。
「交渉の前に、相手が何を望んでいるのか? 何が必要か?を考えに考えて戦略を立てます。そのためには経歴や経済力、戦力、時にはプライベートな趣味、嗜好など、さまざまな状況を把握するようにしました」


 紛争地では、利権や権力闘争に多数の住民が巻き込まれ被害者となるほか、一部の人々は他の民族がいなくなれば生活が豊かになると権力者に煽られ、加害者として動員される場合も多いという。そんな人々が、自らの手で住民間の争いを解決したり、加害者と被害者の和解を行えるように、現地団体や人材の能力強化を行うのが瀬谷さんたちの仕事だ。紛争や暴力により、加害者、被害者の双方に心のケアが必要とされることもある。
「仲間の裏切り、家族の喪失などさまざまな問題を抱えていることもあります。私たちがいなくなっても、現地の人々が争いを解決して平和を保てるようにすることを心がけています」

もうダメだ、の先の「もう一歩」の挑戦

 そうやって危険を冒しながらも、瀬谷さんがハードな壁を乗り越えてこられた秘訣は何だったのか──。これまでずっと自分自身に課してきたことは、「限界をひとつ超える」ことだという。
「もうダメだ、というギリギリまで追い込まれて心身ともに折れてしまいそうなこともあります。それでも『あともう一回だけ、頑張ろう』と粘るんです。それでうまくいかなくても、再チャレンジする時のスタート地点は確実に前進している」
 あと一歩、もう一歩。
 瀬谷さんは今もずっと、自分にそう言い続けて、紛争地での支援を続けている。そんな仕事の達成感が味わえるのは、彼らが自分たちの意思でさらに一歩、前に踏み出した時だとか。
「それまで加害者か被害者のどちらかになるしかなかった紛争地の人々が、私たちの訓練や支援を通じ、『問題解決の担い手』となる力をつけていく。これまで自分の生き方の選択肢もほぼなかった人々が、人生の選択の自由を得て尊厳を取り戻し、自立していく。住民たちが暴力ではなく平和を選ぶ希望を見出していく。その現場に立ち合えることが、なによりも嬉しいことなんです」

元少年兵を除隊させるための交渉を、南部スーダン軍の准将と行う。
Rumiko Seya
1977年生まれ(35歳)
1999年 中央大学総合政策学部卒業
2000年 ブラッドフォード大学紛争解決学修士号取得
2001年 NGO職員としてルワンダで勤務
2002年 シエラレオネにて国連ボランティアとして元兵士の社会復帰を担当
2003年 在アフガニスタン日本大使館で武装解除を担当
2006年 コートジボワールで国連職員として勤務
2007年 認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)事務局長就任
2011年 『ニューズウィーク』日本版にて「世界が尊敬する日本人25人」に選出される
    著書『職業は武装解除』上梓

Text=渥美志保、東ミチヨ
Photograph=鈴木香織、太田隆生、貝塚純一

*本記事の内容は12年10月1日取材当時に基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい