衰えを受け入れる 球道 即(すなわち)仕事道 宮本慎也


衰えを受け入れる

現役引退を発表後、「よくこの年齢まで続けられましたね」といわれることが増えてきた。振り返ってみて改めて思うのは、何事も受け入れること、さらには、それに合わせて自分を変化させていくことの大切さである。
 ひとつの転機になったのは、35歳前後だった。それまでできていたことが急にできなくなったのだ。例えば、変化球をマークしていたら、ストレートがズバッと来た時、それまではカットできていたのに、間に合わなくなった。
 これ自体、ショックではあったのだが、そこで僕が考えたのが、発想を変えて、来たストレートを右に打とうとすることだった。その意識を持つとポイントが近くなるから、バットが止まるのだ。これで再び対応できるようになった。
 もうひとつが、37歳の時のサードへのコンバートだ。ショートというポジションには強いこだわりを持っていたし、40歳まではショートのレギュラーでいることが目標だった。当時はまだできる感覚もあった。しかし、結果的にはこのコンバートを受け入れたからこそ、選手生命が延びたと思っている。

もし、拒否していたら、この年齢まで現役を続けることはなかった。なぜなら、今の状態でショートの守備範囲を維持するのは、難しかったからだ。しかも、サードを守るようになって視野も広がった。将来、指導する立場になった時も、ショートとサードを経験できたのは、大きな財産になると思っている。
 さらにもうひとつ、満身創痍(そうい)のなかで一軍の試合に出場し続けることができたのは、やはり若い頃にしっかり練習していたからだと思う。それだけは自負がある。衰えを感じてから慌てて力を入れてやるとケガにつながることが多い。若い頃にしっかり練習していれば、一度落ちても、もう一度鍛えることでグッと上がっていくことができるのである。
 よく「自分で年をとったと思ったら終わりだ」といわれる。しかし、年齢や衰えを認めなければ先には進めないと僕は思う。何より大事なのは、自分のそのときの状況を自分できちんと把握すること。シビアに現実を見つめることである。それができれば、その時その時で、可能なやり方を見つけることができる。
 現実を見つめる、という意味では、残念ながらなかなか勝てない極めて厳しいシーズンとなった。事前にどんな前評判があったとしても、毎年、気持ちをリセットしてシーズンを迎えてきたが、シーズン最中に目標を失うことになるのは、かなりつらい。
 こういう時は、一試合一試合を区切って戦う。優勝ではなく、この試合を勝つ、とマインドセットを変え、モチベーションを維持するのだ。これもまた、長く現役を続けるための秘訣だったかもしれない。

Composition=上阪 徹 Illustration=きたざわけんじ
*本記事の内容は13年10月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい