なぜ、川島永嗣は欧州で挑み続けるのか。【本誌編集長インタビュー】

去る3月下旬。雑誌「ゲーテ」編集長の二本柳陵介は、バーゼルでの新作時計市の取材を日曜日の昼に終えた。その足で、大きなスーツケースを抱えながら列車に飛び乗り、フランス・ストラスブールへ。約2時半の移動の後、サッカーのフランスリーグ一部「RCストラスブール」に所属する日本代表GKの川島永嗣選手をインタビュー。美容商品のタイアップ取材で「とてもいい話が聞けたと手ごたえはあるものの、分量などの関係で誌面には載せられなかった」(二本柳)という未公開話を、コパ・アメリカ(南米選手権)に合わせてゲーテWEBにて特別にお届けする。


「日々、自分でも考えるんですよ。なんで自分がここまで、自分を追い込んで挑戦するのかを」

二本柳陵介・本誌編集長(以下二本柳) これだけストラスブールのチームが調子がいいと、(現状サブとされる)GKにはチャンスが巡ってきませんね。近況を教えてください。

川島永嗣(以下川島) 正直、ノーチャンスですね(その後、最終戦で先発出場)。今はとにかくトレーニングに励み続けるというのが一番です。常に限界に挑戦してるし、そこをどれだけ突き詰められるかっていうのが自分のなかで最大のテーマなので、まず練習もできるだけ多くやっている。多くやるだけじゃなくて、いつも質を考えて、自分がどうやったら今の状況を打破できるかや、成長できるかということを常に追求しています。それとは別に、サッカー以外のところでも、いろんな刺激を得たいと思っていて、最近よく旅行をしています。違う街で違うものに触れることで、また新たなエネルギーをもらったりしながら、またサッカーに戻っていくということが最近多いですね。

二本柳 先週はロンドンで岡崎選手に会っていましたよね。

川島 はい。昨日まではジュネーブに行っていました。ジュネーブ最高! 街並みも昔のフランスっぽさが残ってるし、遠くに見えるアルプス山脈のモンブランとかが、すごい壮大で。何より湖の水がきれいでした。本当に。

二本柳 今、出場機会を狙ってるわけですけど、「まだ上手になれる」「試合に出る」ということ以外に、現状のモチベーションとなっているものはありますか? 現在のフランスリーグの面白さとか、自分を高みに持っていくための何かとか。

川島 日々、自分でも考えるんですよ。なんで自分がここまで、自分を追い込んで挑戦するのかなというのは。やっぱり、サッカーの世界のなかで常に最高峰のレベルに挑戦し続けたいという情熱もあるし、自分の限界を常に超えていきたいっていうもの大きな理由かなと思います。正直(2016年にフランス一部の)メスに行った時も、どうなるかは分からなかったし、ただ、自分のなかでは挑戦しないことには何も変えられないと思っていた。それは今も変わらないし、状況は難しいですけど別に悲観もしていない。最高峰に挑戦し続けるからこそ得られるものっていうのは、今の自分のなかで一番求めているものだし、そこはどんな状況になっても変える必要はないのかなっとは感じてますね。

二本柳 僕はやはり、そういう川島永嗣が好きなんです。日本に戻ってくるという選択肢もあるんですか?

川島 正直、ワールドカップが終わった後は、いろんな選択肢を考えました。今まで自分が挑戦し続けてきた分、もっと広い視野で考えた方がいいのではないかと。でも、限られたキャリアの時間、限られた人生のなかで、自分が何を求めて、その瞬間をどう生きるかというのを考えた時に、僕はやっぱり自分が本当に後悔しない道を、常に一日一日歩みたいと思う。それを考えた時に、やっぱり、自分の限界を超えていく、そこに挑戦するということが一番なのかなって。

「自分が今存在しているなかで、そのクラブに対して自分が何をもたらせるか」

二本柳 「挑戦」「高み」という言葉を聞いていて、先日引退したイチローさんが思い浮かんできました。非常に馬鹿げた質問なのですが、同じアスリートとしてイチローさんの引退については、どう思われました?

川島 そもそも、僕がイチローさんの引退について話すこと自体、あまりいいことだとは思わないのですが、「プロの選手としてどう見えるか」という視点でもいいですか?

二本柳 はい、お願いします。

川島 正直、人を感動させ続けた人が、その終止符を打つっていうのは大きな寂しさというか、壮大なプレーが見られなくなるんだなっていう喪失感みたいなものが、選手としてすごく大きくて。やっぱりどこかで終わりは来る。でも、そこまでにどういう道を歩んできたかっていうのは一番興味があることで。イチローさんの場合は、あれだけ記録を残されているけど、答えありきじゃなくて、その答えにたどり着くまでのステップをひとつひとつ本当に真剣に向き合われてきた。例えば、引退の最後の日に行くまで、本当に真剣に向かい続けるというのは、やっぱり選手としてすごい。会見の時にも仰られていましたが、「何が支えですか」と聞かれた時に「本当に野球を愛してる」とか「それに対する情熱が一番」と言えるところが、本当に偉大な選手をつくるベースだったんだなというのは感じさせられました。やっぱり、記録でもないし、目標でもない。野球に対して純粋に向き合ってきたこと、なんです。元々尊敬していましたけど、引退するってなった時にそういうことを言えるのは、本当にすごい。それだけ人を感動させてきた人なんだなって、やっぱり思いますね。

二本柳 僕も日本人だから思うのですが、実力ありきのプロの世界のなかで最後にマリナーズに戻れたということがイチローさんのすごさだと思います。サッカーでいえば、川島永嗣しかり、長谷部誠しかり、内田篤人しかり、香川真司しかり、長友佑都しかり。単純に結果を出している、というのもあるけど、海外のクラブから愛されるっていうか。実力ありきなんだけど、人柄っていうのもやっぱりすごく大事なのかなっていうのは、最近すごく感じるんです。契約を勝ち取るための人柄というわけではないんですけど、すごいシビアな世界のなかでは、人柄って大事なのでしょうか?

川島 そうですね。人柄というよりか、模範と言うのかな。言葉は、わからないですけど。結局、プラスアルファだと思うんですよ。例えば、自分の結果を追求するのは、ひとりの選手として誰でもやることなんだけど、そこからプラスアルファで何ができる人なのか、だと思うんですよね。正直、個人競技だったら何も言われない。もしかしたら、野球でも自分が結果を残すことが一番の功績なのかもしれない。でも、やっぱり、それだけじゃなくて、自分が今存在しているなかで、そのクラブに対して自分が何をもたらせるかとか、他の選手に対して何かプラスのものを与えられるのか、ということだと思うんですよね。

二本柳 「もたらす」というのは、とても腑に落ちました。

川島 そう。それは、大きいと思いますよ。だから、それこそイチローさんは「個人の記録にこだわり続けてきた」とは言っているけど、人に感動をもたらすために自分のいろいろなものを犠牲にしてきたはず。そして、その姿を周りが見て、それですら感動させるわけじゃないですか。「個人の記録」とは言っていても、若い選手を面倒見たりとか、クラブのなかでちゃんとクラブが良くなるためにどういうことをしたらいいかというのは、多分やってると思うんです。そういうことは結局、プラスに働くと思うし、本当に自分のことだけじゃなくて、周りのことだったりとか、プラスアルファで何ができるのかというのを常に考えている人なのかなって思います。

「やっぱりワールドカップは、もう一回出たい」

二本柳 今はちょうど代表ウイークの週で、川島選手も招集するかもしれないという噂を聞きました。これは、本当に素人考えなのですが、フランスには酒井選手と昌子選手、ベルギーには冨安選手、植田選手、そしてトルコにはベテランの長友選手と、DFラインにヨーロッパの一線で活躍する選手が増えてきました。そのなかで、欧州組で結成したDFラインで試合をしてみたいという想いもあったりするものでしょうか?

川島 確かに、日本代表に対する気持ちというのは変わらないし、それはやっぱり今まで関わらせてもらったからこそ、自分が生まれ育った国のためにプレーする誇りや喜びというのは言葉では説明できない大きさがある。でも、日本代表のためや、そこに呼ばれるためにやってるわけじゃない。やっぱり自分には自分で考える基準や高いレベルがあるし、それが、日本代表に還元できれば嬉しいとは思います。それは自分だけじゃなくて、もしかしたら「これからのゴールキーパー」という大きい枠で、いい方向に行くのかもしれない。でも、それは監督の考えることだからその通りにはいかないけど、僕はやっぱり高いレベルの中でプレーするということに対して、まったく情熱を失っていない。だから、日本代表でプレーするチャンスがあれば、常にやりたいと思うし、何か還元できることもあるのかな、というのは感じています。

二本柳 もたらすことはできる。

川島 とは思いますね。でも、タイミングだったり、その時に求められるもの、もありますからね。あとは、やっぱりワールドカップは、もう一回出たいですね。それは、間違いないです。別に、そこに固執しているわけじゃないけど、それはやっぱり今の自分を動かしてくれるし、まだ先かもしれないですけど、そこに向かって自分の情熱を突き動かしていきたいというのはある。別に、これまで3回もワールドカップに出たとか、ここまでずっとヨーロッパでプレーしてきたというのは、自分のなかではある意味、何の意味ももたらさない。ここから先、自分がキャリアを終えるまでに何ができるのかなと考えた時に、やっぱりもう一度、最高の舞台に行きたいなというのはありますね。

二本柳 ここでまずは、1試合出たいですね。

川島 まずね。大変なことに挑戦しているほうが、より自分の考えを進化させないといけない。そもそも、こっちで36歳といったら、そういう目でしか見られないし、それも覆したいなとは思う。でも、とにかく、この与えられた挑戦というか、人生を楽しみたいなというのが一番かなと思いますね。

二本柳 36歳がそれだけ必死でやってれば、他の2人のキーパーは必死にならざるを得ないですもんね。それが川島選手がもたらすものでもある。

川島 そう。だから、今までと役割というか、自分に求められるものが違うなと思っていて。僕は選手として試合に出るためにやっているし、試合に出て、自分が求めるパフォーマンスのなかでプレーしたいというのは変わらない。でも、そのなかで周りのキーパーとかにいい影響を与える選手でいたいなとは思います。それは、別にアドバイスするとかではなくて、そういう存在でいたいし、それに、自分が若いキーパーに負けているとも思っていないですね。

二本柳 ありがとうございました!

取材後には、ストラスブールの街に繰り出し、川島選手行きつけの紅茶専門店に案内してくれた。(手前が、二本柳本誌編集長)
Eiji Kawashima
サッカーW杯3大会連続日本代表正GK。1983年3月20日、埼玉県生まれ。浦和東高校卒業後、大宮アルディージャ、名古屋グランパスエイト、川崎フロンターレを経て、2010年にベルギー1部のリールセSKへ。12年には、同1部の名門スタンダール・リエージュに移籍したが、15年には約半年に及ぶ浪人期間を経験。その後、スコットランド1部のダンディー・ユナイテッド、フランス1部のFCメスを経て、'18年8月に同1部の古豪RCストラスブールに移籍した。


Photograph=峯岸進治

二本柳陵介
二本柳陵介
雑誌「ゲーテ」、ゴルフ雑誌「GREEN GORA」、会員誌「ACCORDIA」編集長。長谷部誠「心を整える。」(累計150万部)、桑田真澄「心の野球」など、書籍も担当。ツイッターとインスタグラムはyanaginihon。ゴルフに悪戦苦闘中。
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